祭壇
武道家……そういえば、さっき倒したブラックタイガーも拳法家みたいな格好してたよな。少なくともヤツは得物を持っていなかった。
本当にいまさらだけど、いろんな意味で、ルールがたいへんなことになっている気がした。十円玉を発射する銃、すなわち「登録銃」で勝負するっていう、そんなルールじゃなかったっけ?
あ、そうだ、浦野さんの登録銃「爆弾石」。あの人形のかたちをした銃も爆発しちゃったしな。すると彼女は失格?
ルール違反は即失格、そう言ったのはメグだった。だが、オレのうしろを歩く彼女はむかしのメグではない。新生メグだ。聞いてもムダだろう。
そもそも現実世界にいる浦野さんに失格もへったくれもない。
それにルールを厳守しているのなんて、オレくらいのもんだ。オレにはこれしか頼れる武器がない。だから懲りずに十円玉を発射しとるわけですよ。
「なあベニ・ショーガ氏、ブラックタイガーって拳法家だったの?」
「彼は気功の使い手でした。触れずして攻撃が可能なのです」
「なるほど、それで俺の撃った弾が押し戻されたのか」
「でも、それだけじゃない。彼はだんだんと、あやしい方向へすすんで行きました」
「どういうこと?」
「考えてもみてください、おなじ跳弾に当たったはずなのに、どうしてミス・チーノだけが砂になってしまったのでしょうか」
猫人間の鋭い指摘にオレは唸った。
「それもそうだ」
「彼は魔術的なことに興味をもっていたようです。おそらく、その目的は聖女の生成」
「なっ、」
一瞬オレは言葉をうしなった。
「じゃあヤツは、オレの撃った弾に魔法かなんかをかけて、それを撃ち返してきたってのか? なんでそんな、まだるっこしいことを……」
「まあ、それをこれから調べようって魂胆です」
ベニ・ショーガ氏が歩をとめた。気づくと、広大な地下空間が終わりをむかえていた。目のまえにあらわれたのは……祭壇だった。
おっかない顔をした女性の銅像が中央に祀られていた。これが神? ブラックタイガーにとっての神様?
さらに手前には巨大な釜があり、ぼこぼこと気持ちのわるい泡を立てていた。釜は床に密接していて、熱源が見当たらない。IH?
「ヤツめ、そういうことか」
ベニ・ショーガ氏が意味深なかんじで言った。そして彼は、壇上の書物なんかを勝手に漁りはじめた。
「サファイアのひとみ……」
うしろでメグが急につぶやいた。オレが振り向くと、彼女は銅像を見上げていた。




