聖女
浦野さんがきっと助けてくれる……そんな保証はどこにもなかった。だから、ただ祈るしかなかった。
ブラックタイガーの眼前で、とつぜん人形が爆ぜた。
『貯金箱とか人形とか、そんなかたちかも』
オレはいつかのメグの言葉を思い出していた。浦野さんの登録銃「爆弾石」についての説明だ。
あの人形がそうだったのだ。
でも、だからといって、現実の世界の浦野さんが援護射撃をしてくれるとはかぎらない。だから信じるしかなかった。
大量の十円玉が暴れまわる様は圧巻で、さながら巣をつつかれた蜂の群れみたいだった。たぶんこれ、通常の動作ではない。
オレの「二丁拳銃」の動きもおかしかったし、ブラックタイガーのおっさんがなにか仕掛けをしていた可能性は高い。
とまれ、それももう終わりだ。ブラックタイガーの肉体は消滅し、幽体となって昇天した。
するとゴーレムたちも、指揮命令者をうしなったせいか、ただのブヨブヨのかたまりに劣化していった。
いてて……とりあえずオレは立つことができた。そこでベニ・ショーガ氏と目が合った。
「はっ、ワタクシはいったいなにを……」
そう言いながらも、彼はまだ鰹節を放そうとしない。どんだけ好きなんだよ!
「とりあえずブラックタイガーは倒したぜ。でもチーノが……」
オレは、かつてチーノだった砂のかたまりを指して言った。
「これは、もしや」
猫人間ことベニ・ショーガ氏は目をくりくりさせた。
「ヨーメンマン、『予言』をおぼえていますか?」
「いいや」
オレがそう答えると、彼はひとつ咳払いをした。
『メグリア・ペペ・ロンチーノは砂より生まれいずる』
「誰それ」
「この世界を救う聖女と言われています」
なんでもアリか。自由すぎるだろ! ……だが気になる名前だった。「メグ」の二文字が含まれていたからだ。
メグとペペロンチーノ、このふたりは元々ひとつの存在であるっぽい。時空を超えてオレは彼女たちと出会い、そして、ふたりとも消えてしまった。
「彼女を蘇らす策はないのか」
「ありますよ」とベニ・ショーガ氏。
「マジで? でもきっとファンタジーのお約束で、ものすごい秘薬とか必要なんでしょ」
「いいえ、呪文さえ唱えれば」
「その呪文を得るために、きっと山奥に住んでいる大魔法使いに会わないとダメなんだろ?」
「いいえ、ワタクシが知っております」
「……おまえ、すごいな」




