孤独なタイガー
いやいやいや……どんだけ鰹節好きなんだよベニ・ショーガ氏、いま戦闘中っすよ?
彼を置いて行くわけにもいかず、オレとチーノは立ち止まってしまった。そしたら、あっちゅう間にわらび餅ゴーレム(ぷるんぷるん)たちに囲まれてしまった。
だが、ゴーレムたちはこん棒みたいな武器を持ってはいるものの、襲ってはこなかった。オレらの足止めが目的か。
「ついにここまでたどり着きましたか、ヨーメンマン」
ゴーレムたちをかきわけてヘンなヤツがあらわれた。流れ的にこいつが鰹節を投げ込み、ベニ・ショーガ氏を無力化したっぽい。
『誰こいつ?』
『……ブラックタイガー』
オレが聞くと、チーノがそっと教えてくれた。
こいつが悪の親玉か……なんかイメージと違う。見た感じ拳法の達人みたいな、いでたち。てか、こいつのほうが余程、○ーメンマン似だ。
「あんたが親玉か。わるいが消えてもらうぜ?」
オレは「二丁拳銃」を抜いて言った。
なんか問答無用で発砲するの、申し訳ないけど、これはゲームなんだ。敵をたおさずには前へ進めない。
「やってごらんなさい」
ブラックタイガーは鼻で笑った。この余裕はたぶん、ハッタリなんかじゃない。だがオレにはこれしかない。銃爪を引いた。
そしてオレは、はじめて己が銃の威力を体感することになった。逆の立場で。
「ぐあっ」
鳩尾に衝撃が走った。目の前にころころと転がる十円玉……たぶん、オレの発射した弾が跳ね返ってきたのだ。
呼吸ができない。あまりの苦しさにその場にへたり込んだ。
だが絶望的な状況はオレだけじゃなかった。チーノも倒れている。彼女は自前のバッグを指して、息も絶え絶えに言った。
「御守……お人形……」
チーノが崩れていく。砂のように、さらさらと。
「チ……ノ」
オレはバッグまで這って行き、必死にそのなかを漁った。人形……
ふわふわした感触で、それが人形の髪の毛とあたりをつけた。オレはそいつを引っ張り出すと、仰向けになって倒れた。限界だった。
「死の間際にお人形遊びですか、んー?」
ブラックタイガーがなんか、腹立つ感じで言った。やつは生徒からおもちゃを取り上げる教師よろしく、人形をオレからぶん盗った。
「んーー、かわいいお人形でちゅね。一緒に埋葬してあげますね、ヨーメンマン?」
バカめ、埋葬されるのはおまえだよ……。




