石板
そのまま浦野さんは喫煙ブースのドアを開けてなかに入ってきた。そして言った。
「やっと、ふたりきりになれたわね石原さん?」
「いったい……どうするつもりだ」
オレはたじろいだ。めっちゃ怖い。
「怖がらなくてもいいわ。でもちょっと急がなきゃ、メグちゃんがあぶないから」
メグが? そう思ったが声にならない。オレが口をぱくぱくさせているうちに、浦野さんは手に持っていたファイルからなにかを取り出した。
ノートサイズの黒板のようにみえた。じっさい、彼女はチョークっぽいものも取り出して、その黒板に文字を書いた。
タキオカ → OUT
そう読めた。いや、そうとしか読めない。どういうこと……
一瞬、白い文字が浮かびあがったかと思うと、つぎの瞬間にはもう消えていた。
「手品ですか」
オレは心にもないことを聞いたが、彼女は取り合わなかった。
「さ、監視ルームにもどるわよ」
浦野さんに手を引っ張られるかたちで喫煙ブースを出た。なんだこれ。
監視ルームにもどると滝岡のすがたが消えていた。いやいやいや、アウトってまさか……そんな。
浦野さんはまるで当然のように、さっきまで滝岡がつかっていたコンソールのまえに座った。そしてかちゃかちゃっとキーボードをたたきログインした。
いや、おかしいだろだから! 今日配属されたばかりの新人さんには、まだユーザIDなんてものは発行されてないはずだ。ハッキング?
思わず目をうたがった。オレのコンソールにも浦野さんのとおなじ画面が表示されている。
それは監視カメラで撮ったような、六つくらいにセパレートされた画像だった。
その画像のひとつにメグのすがたが映っていた。
メグはコンビニにいるっぽかった。もちろん買い物をしているわけじゃない。たぶん、あの廃墟コンビニだ。
彼女が身をひそめている商品棚が派手にぶちまけられた。どうやら彼女には敵がいるらしい。
メグも銃をかまえてはいるが、相手が複数なのか、どうにも分が悪そうだ。
「浦野さん、やばいよ彼女!」
まあオレのほうも、メグに劣らず相当おかしい状況だが、とりあえずいまは浦野さんに縋るしかない。
「はいはい、それじゃ『爆弾石』、行っちゃいますか」
彼女はマウスをうごかし、画面上のあるポイントをクリックした。
別カメラの映像で、ふたりの男が吹き飛ぶのが見えた。男たちは幽体となって昇天した。やはり、オレがまえにいた世界とおなじだ。
「すげー、ボ○バーマンみたいだ」
オレは素直に驚いた。この浦野さんだけは、ぜったい敵にしたくないと思った。




