3月23日
目が覚めると朝だった。
ふう。オレは辺りを見回す。いつもと変わらないオレの部屋……。
またしても、またしてもメグが姿を消していた。テーブルの上には飲みさしのココアが入ったふたつのマグカップ。
いったい、なにがしたいんだアイツは。
とりあえずテレビを点けてチャンネルをまわす。ニュースで日付けを確認すると3月23日だった。オレにとって二度目の3月23日だ。
たぶん今日これから出社すると、新人の浦野さんを紹介されて、それから撃ち合いになって……またおなじことを繰り返すのか。
めんどくせえ。マジでめんどくせえ。
だが、あきらめてスーツに着替えた。顔を洗って歯も磨いた。だって出社するより、しょうがないもんよ。運命には逆らえません。
頼みの綱は二丁の銃だけだ。えーと、たしかテーブルの上に……
ねえよ。拳銃ねえよ。
ウソだろ? オレは青くなってそこらじゅう、ひっくり返した。
……だめだ見つからない。メグか。彼女が持って行っちまったのか、オレの命綱をよう。
途方にくれた。でも出勤時間がせまっている。オレはうしろ髪をひかれる思いでアパートをあとにした。
丸腰だ。完全に丸腰ですよ。銃もなく、メグがくれた防弾スーツもない。これで敵と遭遇したら、もう終わりですよ。
なんなんだこれ、終了フラグか。あきらめて撃ち殺されろってか。十円玉だって当たると痛いんだぞ?
暗澹たる気持ちで電車に乗り込んだ。
だが不思議なことに、しばらくすると、自分でもびっくりするくらい楽観的な気分になってきた。もしかして、ぜんぶ終わったんじゃなかろうか。
そうだよ、すべてはあの銃が届いたところからはじまったんだ。その銃はもう、ない。メグも姿を消した。ぜんぶ元どおりじゃないか。
メグが存在したことを示す唯一の証拠は、あの飲みさしのココアが入ったふたつのマグカップだけだ。あれは彼女の、アタシのこと忘れないでね的なメッセージ……。
つまり、彼女はもう二度とあらわれない。
そう思うとちょっと寂しかった。
会社に着くころにはもう、いつものオレを取り戻していた。おかげさまでいろいろと修羅場を通ったおかげで、メンタル的に強くなったかもだ。
事務室に入ると予想どおり浦野さんがいた。
オレら初対面だからね? ゲームのつづきだとかいって発砲するのは、なしの方向で!
「あ、石原くん、こちら今日からオペレーションに入ってもらう浦野さん」
社員の坂崎さんが彼女を紹介した。予定どおりだ。
「浦野です、よろしくお願いします」
「……あ、石原です。よろしくお願いします」
「協力会社のかたですか」
念のためオレは坂崎さんに尋ねた。
「そう、きみとおなじマンパラさん。聞いてない?」
「いや……なるほど」
オレはあいまいに返した。厳密にいえば聞いていないのだが、彼女のことは裏の世界でしっているもので。
浦野(裏の)さんだけにね。うまいっ。




