ほっとココア
「や……やあ」
やあ、て。どんだけ不自然な返事をしているんだオレ。警戒心、丸出しだ。
「そんなに怖がらなくても、いいじゃない。アタシたち仲間でしょ?」
そう言って彼女はつかつかと近づいてくる。
どうしよう、銃を向けてでも追っぱらったほうがいいのか。それともこのお邪魔キャラは、離れるまでどうしようもないのか。
メグはバッグから何かをとりだした。ひさしぶりに見たわ、そのでかいバッグ。
「まあまあ、これでも飲んで落ち着きんさい」
なんで長州弁……彼女が持っていたのは魔法瓶だった。魔法瓶て古いな、タンブラー? だがそれは、ある意味「魔法」瓶だった。
商品棚から紙コップを勝手にとりだすと、メグはタンブラーの中身をそれに注いだ。
濃いブラウンの液体、たぶん彼女の好物ココアだ。あつあつの湯気と甘い香りが漂う。オレは感動すらおぼえた。
このコンビニにあるどの商品も紛い物だ。飲めないし食べられない。
そもそも喉の渇きや空腹といった感覚すら、いまのオレにはない。そのオレの目の前にリアルな温かい飲み物ですよ。
オレは彼女からカップを受け取ると、おそるおそるそれに口をつけた。
うまい。なんかもう泣きそうだ。味覚が正常に機能するってことが、こんなにも幸せだったなんて。
「で、おまえはなんでそんなに神出鬼没なんだ?」
オレはカップを置いて静かに尋ねた。
「好きでやってると思う?」
「ま、そりゃそうだ」
それでオレは剛流さんから電話で聞いたことをメグに話した。双方の意見を聞いてあげないと不公平だからね。
「ふーん、その電話の女性が剛流副司令だって保証はあるの?」
メグは痛いところをついてきた。
「ない」オレは言った。「てか彼女、副司令じゃないからね」
「……で、シャラはどう思っているの?」
「わからない。まるで世界がふたつあるみたいだ。ひとつは、なにも感じないゲームの世界。もうひとつが、このココアみたくリアルな世界……」
「正解だよ」
彼女のドヤ顔をひさしぶりに見た気がした。
「ひとつのゲームのなかに、もうひとつのゲームがねじれ込んでいるの。ま、リアルなほうは現実そのものだけど」
メグの健康そうな生脚が見えた。なぜこのタイミングで? まるでオレが脚フェチみたいじゃないか。否定はしないけど。
彼女は椅子にすわって脚を組んでいる……あれっ?
ここ、オレの部屋じゃん!
「おいメグ、いいかげんにしてくれ。どんだけ背景チェンジするんだよっ」
「なに言ってるの、最初からここはあなたの部屋じゃない」
オレは目をうたがった。いつのまにか紙コップがマグカップに変わっている。
「もしかして……いままでのこと、ぜんぶ夢だったのか」
まさかの夢オチですか?




