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十円玉が、なまら痛かった件  作者: 大原英一
第一部 石原鉄也
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ほっとココア

「や……やあ」

 やあ、て。どんだけ不自然な返事をしているんだオレ。警戒心、丸出しだ。

「そんなに怖がらなくても、いいじゃない。アタシたち仲間でしょ?」

 そう言って彼女はつかつかと近づいてくる。


 どうしよう、銃を向けてでも追っぱらったほうがいいのか。それともこのお邪魔キャラは、離れるまでどうしようもないのか。

 メグはバッグから何かをとりだした。ひさしぶりに見たわ、そのでかいバッグ。

「まあまあ、これでも飲んで落ち着きんさい」


 なんで長州弁……彼女が持っていたのは魔法瓶だった。魔法瓶て古いな、タンブラー? だがそれは、ある意味「魔法」瓶だった。

 商品棚から紙コップを勝手にとりだすと、メグはタンブラーの中身をそれに注いだ。

 濃いブラウンの液体、たぶん彼女の好物ココアだ。あつあつの湯気と甘い香りが漂う。オレは感動すらおぼえた。


 このコンビニにあるどの商品もまがい物だ。飲めないし食べられない。

 そもそも喉の渇きや空腹といった感覚すら、いまのオレにはない。そのオレの目の前にリアルな温かい飲み物ですよ。

 オレは彼女からカップを受け取ると、おそるおそるそれに口をつけた。


 うまい。なんかもう泣きそうだ。味覚が正常に機能するってことが、こんなにも幸せだったなんて。

「で、おまえはなんでそんなに神出鬼没なんだ?」

 オレはカップを置いて静かに尋ねた。


「好きでやってると思う?」

「ま、そりゃそうだ」

 それでオレは剛流さんから電話で聞いたことをメグに話した。双方の意見を聞いてあげないと不公平だからね。

「ふーん、その電話の女性が剛流副司令だって保証はあるの?」


 メグは痛いところをついてきた。

「ない」オレは言った。「てか彼女、副司令じゃないからね」

「……で、シャラはどう思っているの?」

「わからない。まるで世界がふたつあるみたいだ。ひとつは、なにも感じないゲームの世界。もうひとつが、このココアみたくリアルな世界……」


「正解だよ」

 彼女のドヤ顔をひさしぶりに見た気がした。

「ひとつのゲームのなかに、もうひとつのゲームがねじれ込んでいるの。ま、リアルなほうは現実そのものだけど」


 メグの健康そうな生脚が見えた。なぜこのタイミングで? まるでオレが脚フェチみたいじゃないか。否定はしないけど。

 彼女は椅子にすわって脚を組んでいる……あれっ?



 ここ、オレの部屋じゃん!



「おいメグ、いいかげんにしてくれ。どんだけ背景チェンジするんだよっ」

「なに言ってるの、最初からここはあなたの部屋じゃない」

 オレは目をうたがった。いつのまにか紙コップがマグカップに変わっている。

「もしかして……いままでのこと、ぜんぶ夢だったのか」


 まさかの夢オチですか?

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