夜がきた
受話器を置いたあと、オレはしばらく呆然となった。考えを整理する必要があった。
とりあえずこの無人……というか廃墟コンビニを根城にしよう。どうせどこまで逃げてもムダだ。しかるべきときに、しかるべきイベントが起こる。
だってここはゲームの世界だからね!
ふう落ち着け、まあ落ち着け。とりあえずメグだ。
思えば最初っから彼女には翻弄されっぱなしだ。いまだにどこまで信じていいか、わからないところがある。
剛流さんはメグには注意しろと言った。彼女がお邪魔キャラだとも。
たしかに思いあたるフシがあった。その代表例が記憶や場面の断絶だ。自覚しているものだけで二度、そんなことがあった。
一度目はメグが最初に訪れた夜、いつのまにかオレの部屋から消えていたこと。そして二度目が、ついさっきまで彼女と車中で話していたのに、突然過去の戦闘シーンに引き戻されたことだ。
さいわい大事には至っていないが、でもそうするとメグの意図がよくわからない。意図なんてないのかもしれない。ただ邪魔してるだけ?
まあ邪魔されるのはよろしくないが、もともとカオスな世界だからなあ……って、いかんいかん。オレちょっとメグに甘いかも。
剛流さんが言うには、オレがメグと接触しているあいだはコントロール不能みたいなことらしい。そりゃ問題ですよ。
もちろん剛流さんの話を全面的に信用すれば、だ。彼女もまたメグとおなじくらい得体がしれない。でも彼女、えらく自信満々なんだよな。
正直、メグと剛流さんだったら、剛流さんのほうを現時点では信じている。ってゆうか、彼女からあたらしい情報を待つしか、いまのオレには動く術がない。
メグのことは嫌いではない。けれど、そう何度も場面を飛ばされたりしたら、かなわない。
さらに矛盾もある。
ひとつは、最初メグは無敵スーツみたいな感じでオレに装備をあたえてくれたのに、じつはただのハッタリでした、なんてことがあった。
もうひとつは、彼女が剛流さんを副司令と呼んだことだ。剛流さんに心あたりはないらしい。そもそもあのふたりに面識があるのかも、あやしい。
面識といったら、そうだ! オレとメグは面識がある。どちらもゲーム内のキャラだから出会うことが可能なのだ。
だが剛流さんはちがう。彼女はリアルな世界のプレイヤーだ。ここにいるオレらには、けっして手がとどかない世界にいる。
だからだから、おなじ穴のムジナであるメグを信用しては、逆にダメなんである。
おなじ火事場にいる者を信じてはいけない、これは生き残るための鉄則だ。信じられるのはレスキュー隊員だけ……それがたぶん剛流さんだ。
夜がきた。こんなデタラメな、ウソっぱちの世界でも夜になるのだ。まあドラクエでも夜になるしな。
「おはこんばんちわ」
声がして、思わずぎょっとした。見るとコンビニの入口にメグが立っていた。




