ためし撃ち
さて、あらためて銃をためし撃ちしてみようとすると、これがなかなかに勇気が要った。これはオモチャだ、頭ではそう理解していても、万一のことを考えると足がすくむ。
とりあえずタバコを一本だけ吸おう。ためし撃ちはそれからでも遅くはない。だって銃は逃げないからね……って、あっ!
そうだよ銃弾を確認すればいいんだ。もし実弾っぽいのが装填されていたら、ためし撃ちは中止だ。とりあえず家のなかでは。
あたりまえだが銃の扱いなんて慣れていない。だからマガジン? の抜き差しも勘に頼らざるを得なかった。
このタイプはたぶん銃床がぱかっと外れるはずだ。あきらかに底の部分が別パーツっぽいし……だめだ引き抜けない。
きっとロックされているのだろう。だから留め具にあたる装置を探した。ほら、こいつだ。
装置を解除すると、いとも簡単に銃床からマガジンを引き抜くことができた。そして同時に拍子抜けした。
十円玉だ。弾が十円玉だった。見たかんじ20枚くらいマガジンに装填されている。なーんだ、やっぱりガキのオモチャだったのか。
安心してマガジンを元に戻し、何気なく銃爪を引いた。あれ、手ごたえがない……あ、そうかマガジンをちゃんとロックしないといけないんだ。意外と本格的なんだなオモチャのくせに。
さあ今度はちゃんとロックしたぞ。オレはサイドボードを狙って銃爪を引いた。
びしっ、と音がして、そのあと十円玉が床に転がる音がした。
想定内だった……たった一点を除いては。
十円玉の飛んで行く、その軌道が見えなかった。考えられるのはただひとつ、ものすごいスピードでそれは発射されたということだ。
すぐさまサイドボードの被害状況を確認した。
すごい、堅いことで知られるメイプル材が2ミリほどヘコんでいる。陥没面は銃口とおなじ薄い長方形だった。なるほど自販機なんかのコイン投入口とおなじ構造だ。
冷たい汗が背中を伝って行った。ひょっとして、いやひょっとしなくても、これはかなりの破壊力を備えた武器ではないか。子どものオモチャなんかじゃない。
どうするよ、これ。オレは熟考した。タバコをもつ指先がふるえる。
ちょっと威力のあるエア・ガンくらいの感覚でいいのか? それとも改造銃の領域に入ってすでにアウトなのか。
だいいち改造したのはオレじゃないぞ? オレはただこの銃を送りつけられたんだ、見ず知らずの相手から。
だがその相手はオレの個人情報にも通じているようで……。
とりあえず銃を梱包されていた箱に戻し、箱ごとサイドボードに収納した。なんか高級な洋酒を大事に保管するみたいで、我ながら滑稽だった。
酒、そう酒だ。酒でも飲んで今日はもう寝てしまおう。