放牧
「つまりアレっすか、ゲームでいうところの、貴女はコントローラーを握っている人で、オレは画面上のキャラといいますか盤上の駒といいますか……」
そんな感じでオレは剛流さんに言った。電話のむこうの彼女がいまどんな状況か、もちろんオレには想像のほかだ。
「ま、そうね」
「えーっ! ……そんな簡単に、まだ心の準備が」
「場の空気でだいたい、わかるっしょ」
「そうだけど……」
「でもある程度、オレの自由意志も効いてますよね」
「そうそう、だから放牧スタイル? マイ羊が狼さんに食べられないように、あれこれ環境を整えてあげる系のゲームよね」
「たのしいスか。少なくともオレは、ぜんぜんたのしくないス」
「ねえ石原さん」
彼女はあらたまって言った。
「仕事なんて誰もやりたくないよね?」
「まあ、たいていの人はそうでしょうね」
「でも、どうせやらなきゃいけないなら、楽しんだほうが得だと思いません?」
「急に敬語ですね……ちなみに、これが剛流さんの仕事なんスか」
「あ、ごめん、撃手と通話できる時間がかぎられているの。本題に入るわ。ちなみにガナーっていうのは、あなたの表現を借りれば盤上の駒ね」
ここまでのくだり前置きだったんかい、と一瞬思ったが、すぐに思いなおした。
彼女はたぶんムダなことはいっさい言っていない。自己紹介し、オレがゲーム内のキャラで彼女がプレイヤーであることを伝えてくれた。
それも簡潔に、ユーモアを交えて……。直感的にこの女性はできるタイプだと思った。なんか営業の富田とおなじ匂いがする。
「どうぞ」
オレはきわめてシンプルに促がした。
「ありがとう。例のメグちゃんのことだけど、彼女には注意して」
「メグが? ……彼女は味方じゃないんスか」
「彼女がそう言ったの?」
言ったような言わないような……とりあえず、クイーン浦野が自動ドアを粉砕したとき、メグはオレを助けてくれた。
そのエピソードを剛流さんに伝えた。
「あ、それとメグは、剛流さんのことを副司令って呼んでました」
「副司令? なにそれ知らね」
「マジすか……うっわ」
にわかにメグちゃん大ウソつき説が浮上してしまった。だが、しかし。おなじ論理で剛流さんがウソをついている可能性もある。
「貴女とメグ、オレはどっちを信用すればいいんスか?」
「石原さんに任せるわ。どっちにしても、あなたはアタシの掌のうえ」
「言い方きついスね」
「時間がないから巻きで。アタシにはメグちゃんの動きが見えない。彼女があなたに接触すると、あなたまで見えなくなっちゃう。ゲームでいうところのお邪魔キャラ? それかバグ……」
そこで通話が切れた。




