表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
十円玉が、なまら痛かった件  作者: 大原英一
第一部 石原鉄也
18/81

コンビーニエンス

 おかしい、そう思った。いやそもそも最初から徹頭徹尾おかしいのだが、いよいよ本格的におかしくなってきた。

 走れども走れども、まったく疲れないのだ。オレってこんなに体力あったっけか……いやそんなはずない。ただでさえ日ごろの運動不足が祟ってるってのに。

 こんだけ走ればふつう喉のひとつも渇くはずだが、それもない。オレはある目的で無人のコンビニへと入って行った。


 わるいが陳列された商品をひとつ失敬することにした。ペットボトルのお茶を手にとってキャップをはずした。

 まったく喉は渇いていなかったが、無理くりそれを飲んだ。そして……盛大にリバースした。

「ぶはあっ、なんじゃこりゃ!」


 ペットボトルの中身はお茶じゃなかった。液体ですらない。粉末だった。

 子どものころ駄菓子屋で買った粉末ジュースを思い出した。まだ水で溶くまえの粉末そのものだ。

 残念ながら、いま吐き出したのは味もそっけもなかったけどね!


 なんか腹が立ってそこらへんの商品を開封しまくった。

 弁当やサンドウィッチも食えたもんじゃない。傷んでいるとかそういうことじゃなく、物質的にもう違う。たとえて言うなら粘土?

 カップ麺やお菓子など、ことごとく試したが結果はおなじだった。

 これは見せかけだ。見せかけの商品で、店舗で、街で、つまるところすべてがよくできたニセモノなのだ。


 ……力が脱けてきた。なんとなく覚悟はしていたけど、これじゃあ死んでいるのと一緒じゃないか。

 疲れもしらず腹も減らず、きっと眠ることもないんじゃないか? そんなふうにこの世界ゲームで生き延びて、いったいなにがたのしい?


 かるくブルーになったところで電話が鳴った。

 オレのスマホじゃない。このコンビニの事務所に置かれた電話のようだ。こうなるともう、なんでもアリだな。

「もしもし、メグか!」

「ア・タ・シ」

「ふざけんなって、メグ」

「うふふ」


 なんか様子がちがった。この声のトーンは、もしかして……。

「剛流さんですか」

「おひさしぶりね、どお、お元気?」

「元気じゃないです。ある意味死んでいます」

「くっ……あはは」


 電話のむこうで剛流さんが笑った。ウケたウケた。

「それに、おひさしぶりでも、ないです。オレらまだ会ったこともないんですよ?」

「そうね……会うのはちょっと、むずかしいかも」

「なぜです?」

「住んでいる世界が違うってゆうか」


「それはたとえば、正社員と派遣の格差みたいなもんスか?」

 軽口をたたきながらも、オレは動悸が激しくなるのを感じた。彼女が言っているのはもちろん、そんな格差のことじゃない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ