コンビーニエンス
おかしい、そう思った。いやそもそも最初から徹頭徹尾おかしいのだが、いよいよ本格的におかしくなってきた。
走れども走れども、まったく疲れないのだ。オレってこんなに体力あったっけか……いやそんなはずない。ただでさえ日ごろの運動不足が祟ってるってのに。
こんだけ走ればふつう喉のひとつも渇くはずだが、それもない。オレはある目的で無人のコンビニへと入って行った。
わるいが陳列された商品をひとつ失敬することにした。ペットボトルのお茶を手にとってキャップをはずした。
まったく喉は渇いていなかったが、無理くりそれを飲んだ。そして……盛大にリバースした。
「ぶはあっ、なんじゃこりゃ!」
ペットボトルの中身はお茶じゃなかった。液体ですらない。粉末だった。
子どものころ駄菓子屋で買った粉末ジュースを思い出した。まだ水で溶くまえの粉末そのものだ。
残念ながら、いま吐き出したのは味もそっけもなかったけどね!
なんか腹が立ってそこらへんの商品を開封しまくった。
弁当やサンドウィッチも食えたもんじゃない。傷んでいるとかそういうことじゃなく、物質的にもう違う。たとえて言うなら粘土?
カップ麺やお菓子など、ことごとく試したが結果はおなじだった。
これは見せかけだ。見せかけの商品で、店舗で、街で、つまるところすべてがよくできたニセモノなのだ。
……力が脱けてきた。なんとなく覚悟はしていたけど、これじゃあ死んでいるのと一緒じゃないか。
疲れもしらず腹も減らず、きっと眠ることもないんじゃないか? そんなふうにこの世界で生き延びて、いったいなにがたのしい?
かるくブルーになったところで電話が鳴った。
オレのスマホじゃない。このコンビニの事務所に置かれた電話のようだ。こうなるともう、なんでもアリだな。
「もしもし、メグか!」
「ア・タ・シ」
「ふざけんなって、メグ」
「うふふ」
なんか様子がちがった。この声のトーンは、もしかして……。
「剛流さんですか」
「おひさしぶりね、どお、お元気?」
「元気じゃないです。ある意味死んでいます」
「くっ……あはは」
電話のむこうで剛流さんが笑った。ウケたウケた。
「それに、おひさしぶりでも、ないです。オレらまだ会ったこともないんですよ?」
「そうね……会うのはちょっと、むずかしいかも」
「なぜです?」
「住んでいる世界が違うってゆうか」
「それはたとえば、正社員と派遣の格差みたいなもんスか?」
軽口をたたきながらも、オレは動悸が激しくなるのを感じた。彼女が言っているのはもちろん、そんな格差のことじゃない。




