望みどおり
さーて、どうすんべえか。この流れで行くと、建物のエントランスのところで闇の女王こと浦野さんが待ち受けているはずだ。
いきなり大ボスですよ。
まあ、すでに一度遭遇していて、彼女の登録銃「爆弾石」のことも少しは知っているのだけれど。その破壊力も。
はっきり言って、あんなのをまともに食らったら即死だ。
だからこっちも頭をつかって、できるだけ彼女と出くわさないようにしないと。ってゆうか、できれば一生会いたくない。
でも彼女はオレに会いたそうだ。オレに好意をよせているわけじゃ、もちろんない。オレを倒したいのだ。
たぶんそれはゲームの目的に関わってくることなんだろう。逆もまたしかりで、オレにとっても彼女は倒すべき宿敵なのかもしれない。
だが、いまはまだムリだ。オレは戦闘の経験が浅すぎる。
この世界のことだって、よく知らない。条件は浦野さんも一緒かもしれないが……いや、それはないな。
彼女が見せたあの、にたーっとした表情。あれは余裕の笑顔だ。思い出したら背筋が寒くなってきた。さすが氷のじゃなくて闇の女王。
いまオレがいる談話室は建物の地下にあるが、換気と明かり取りのために、窓ももちろん設置されている。
オレは窓をあけて吹き抜けになっているスペースへ出た。
ここには電源設備とかがあって、さらに非常階段もある。これをつたって行けば地上へ出られるはずだ。
もちろん、どこにクイーン浦野が潜んでいるともしれない。それと遠隔操作が可能な彼女の銃も。
細心の注意を払って非常階段をのぼって行った。
さいわい彼女と出くわすことなく建物の裏口へ出ることができた。ここまできたら一目散に逃げるのみだ。
逃げるって、どこへ? ……どこでもいい、とりあえず会社からは離れよう。オレは走りだした。
走りはじめてすぐ異変に気がついた。街に人が誰もいない。
車道ではクルマが、そのまま乗り捨てられている。コンビニを覗いても人っ子ひとりいない。いいねー、いよいよゲームっぽくなってきたねー。
さーて、どうすんべえか。オレは本日二度目のセリフをつぶやいた。
とりあえずメグっちに電話してみよう。そう思いスマホを取り出すと、屋外なのにバリ圏外だった。
さもありなん。見たところ文明が崩壊してるっぽい世界だ。基地局だって機能していないだろう。
『この世界はなんでも望みどおりだよ』
メグはたしかにそう言った。間違いないよね? だがオレの思うとおりには、ぜんぜんならなかった。空も飛べなかった。




