二周目
つぎの瞬間、信じられない光景を目にした。
窓だ。会社の……談話室の窓だ。オレはいままでメグと車のなかで話していたんじゃなかったのか?
オレの左手にはスマホ、右手はポケットのなかで十円銃を握っていた。このシチュエーションは……。
そう、剛流という女性担当者とはじめて電話がつながった、あのときだ。
「もしもし……もしもし!」
叫んだが、すでに通話は切れていた。
あのときの状況を思い出してゾクリとした。オレは滝岡に背後から撃たれたのだった。
振り返ると案の定、滝岡が銃をかまえていた。
「痛っ、いたたたたっ」
脇腹に鋭い痛みが走った。目の前に十円玉が転がる。どうやらオレは十円銃で撃たれたらしい。
あたまが混乱した。どうして防弾ジャケットが効かない? ……とりあえず応戦しなくては。オレはテーブルの下にすべりこんでポケットから十円銃をとりだした。
ばすっ、ばすっとテーブルがはじかれる音がする。滝岡が断続的に十円銃を発射しているのだ。まったく容赦ねーなアイツ。
『二丁あるでしょ、忘れたの?』
ふと、その言葉が脳裏をよぎった。まさかねそんな期待でもう片方のポケットをまさぐると……あったよ、もう一丁。
オレの登録銃は「二丁拳銃」。これでいいのだ。
十円銃の二丁撃ちなんてもちろん、やったことがない。でも、いまはそんなこと言ってられない。
滝岡はあいかわらず3メートルくらいの距離でテーブルと椅子を撃ち続けている。こっちも銃を所持しているのを知らないのか?
可哀そうだが、下からだとおまえの脚が丸見えなんだよ。オレはそれ目がけて二丁同時に銃爪を引いた。
どんがらがっしゃーっん!
滝岡が吹っ飛んで、彼のうしろのテーブルや椅子を巻き込み惨事になった。
彼はそのまま昇天した。あたまに三角の布、脚はモヤモヤのわかりやすい幽霊になって、ゆらゆらと天井のさらに上へと消えて行った。
オレはごそごそとテーブルの下から這い出した。スゲーな二丁拳銃……。やっぱ主役? の持つ銃は格が違うぜ。
気づくと、さっき撃たれた脇腹の痛みが消えていた。なんかいろいろ総合的に考えた結果、ある答えが導かれた。
ゲームだ。ようやっとそれが始まったらしい。
すごく変則的でズルイような気もするが、ここがスタート地点と考えてまず間違いないだろう。
ゲームは撃ち倒されたら負けの、いたってシンプルな仕様のようだ。昇天した滝岡は、さしずめHPがゼロになった状態といったところか。
オレの脇腹へのダメージがマイナス・ポイントとして累計されるのか、それとも致命傷でなけりゃセーフなのか、そのへんはまだわからない。
できれば後者であってほしい。無様にゲームオーバーになるのは、ごめんだ。




