闇の女王
「闇の女王って?」
「その浦野さんって女性よ。彼女とふたりきりになってからでしょ、滝岡さんがおかしくなったのは」
たしかにそうだ。自動ドアのガラス越しに見た浦野さんの、あのゾッとするような笑みをオレは思い出した。
「自動ドアが粉々に砕けた件だけど、あれも彼女の仕業なのか?」
「ええ、そうよ」
メグは神妙にうなずいた。
「クイーンは遠隔操作、そして散弾が使える……かなりレベルの高い使い手なの。彼女、丸腰だったでしょ?」
「そういえば、たしかに」
「どこかに彼女の銃があったはずよ、おぼえてない?」
「……残念だけど」
オレは首をふった。こっちも必死だったし、周りを見ている暇はなかった。
だがエントランスの自動ドアが真正面から吹っ飛んだってことは、正対する位置、たぶん受付のカウンターに銃は設置されていたのだろう。
あやうく蜂の巣にされるところだった。ああ、おっかない。
「ちなみにクイーンの銃がどんなかたちか、ウチらにもわかっていないの。貯金箱とか人形とか、そんなかたちかも」
「うっわ、それじゃあ、かわいい人形だと思って手にしたらいきなり十円玉を吐き出すとか、そういうこと?」
「うん」メグは言った。「だから形状の特定は、すっごい大事なミッションなんだよ」
「あのさ、もし形状が変化するタイプだったら、お手上げじゃね?」
「あ、それはない」
オレの不安をメグは一蹴した。
「戦闘にも最低限のルールがあるの。ひとつ、登録した銃以外は使わないこと。ひとつ、弾は十円玉を使用すること」
思わず言葉をうしなった。いったい、どういうことだ……。
「そのルールを破ったら?」
「即、失格」
「失格って、なんだよ。死ぬのか?」
「まあゲームの世界では死を意味するわね」
オレは頭をかかえた。
「ゲームって、なんだよマジで。……この世界がゲームってことか?」
「そうだよ」
メグは真剣な表情で言った。
「でもアタシたちは、どうやってこのゲームに入ったかおぼえてない。もしかしたらゲームの死はリアルな死かもしれない。だからマジメにやるしかないじゃない」
「……わるいけど、ちょっとだけ考えさせてくれ」
「うん。誰だって混乱するよね、こんな世界」
彼女はそう言って窓の外をみた。車の進行方向とは逆方向に、景色は流れて行った。




