司令と副司令
「助けてくれて、ありがとな」
オレらを乗せた車はどこへむかうとも知れず走りつづけている。後部座席、オレはとなりに座っているメグに礼を言った。
「2分で駆けつけるって言ったでしょ?」
ドヤ顔だ。なんだか、ひさしぶりに見た気がした。
「2秒じゃなかったか?」
「細かいことは、いーの」
後部座席からは運転席が見えない仕組みになっている。誰が運転してるのだろう。さあ、なにから尋ねよう。
「どうしてオレの危機がわかったんだ?」
「副司令が教えてくれた」
「誰だそれ」
「剛流……副司令」
ああ、電話で話したあの女性担当者か。もちろん会ったこともないし、名前を聞いたのも今朝だ。
「副ってサブ・リーダーみたいなものか。じゃあリーダーは、もしかして……」
「わかってるでしょシャラ、あなたよ」
オレは頭を掻きむしった。
「リーダーとサブ・リーダーが会ったこともないって、おかしくね?」
「たしかに」メグはからからと笑う。「でも、しょうがないじゃん。まだまだ実現してない予言のほうが多いんだから」
オレが背後から狙われている、と電話で教えてくれたのは剛流さんだった。
「つまり、さっきのドンパチも予言どおりってわけか」
「そういうこと。言っておくけど、アタシだってぜんぶ報されてるわけじゃ、ないんだからね?」
思わずため息が出た。
「あのさあ、おまえの組織……いやむしろオレの組織か、ってなんで情報を小出し小出しにするの。オレに万一のことがあったら、どうするの?」
少し黙ったあとでメグが言った。
「ごめんなさい」
えーっ! ……まさかの謝罪ですよ。ようするに我慢しろってことか。
「はい謝ったので、今日の一部始終を報告してちょうだい」
「あのさ、あきらかに剛流副司令よりオレ、扱いわるくない? リスペクトがないと言いますか……」
メグに完全にスルーされたので、仕方なくオレは報告した。
朝一番に新人の浦野さんを紹介されたこと。浦野さんが営業担当富田をしらなかったこと。かわりに、オレのしらない剛流さんが営業担当だと聞いたこと。
派遣会社に電話したら、富田じゃなく剛流さんにつながったこと。そしてあの直後だった、オレが同僚の滝岡に襲われたのは。
「滝岡……こころの友よ!」
「それ、ぜったい思ってないでしょ」
メグのツッコミに、オレは乾いた笑いで返した。妙に現実味がなかった。だって同僚のオデコに第三の目ですよ。
「……そっか、闇の女王がついに動きだしたんだ」
なんか深いかんじでメグはつぶやいた。




