エントランス
銃爪を引いた。これで二度目だが一度目は部屋のなかでの、ためし撃ちだ。実戦でははじめてだった。
もっと練習しておけばよかった、いまさらそう思った。
だがこれが未来の指導者となる人物の実力か、オレの放った十円玉は一発で滝岡の急所をとらえた。
「ギャオウッ」
滝岡はおよそ人間らしからぬ叫び声をあげ、額を押さえながらその場にうずくまった。オレは急いでヤツのもとへ駆け寄り、可哀そうだったけど、銃床で彼の手の甲を打った。
またしても悲鳴をあげる滝岡の手から銃が落ちた。オレはそれを拾いあげるとポケットのなかに仕舞った。
はやくこの会社から脱出しないと、そう思って階段を駆けあがった。
上司とか同僚とか新人さんとか、申し訳ないけど、かまってられない。滝岡からして化け物になってしまったのだ。この建物にいる全員、化け物だと思ったほうが無難だ。
「石原さん!」
建物のエントランスでオレを待ち構えていたのは、新人の浦野さんだった。
「きゃあ」
オレが銃口をむけると彼女は悲鳴をあげた。ふつうはそうだよね、でもそれが演技かどうかオレには区別できないんだ。
「どいてくれ、さもないと撃つぞ」
浦野さんは後退り道をあけた。オレは彼女に銃口をむけたまま自動ドアをくぐりぬけた。
ドアのむこうで浦野さんがにたあ、と笑った。思わず心臓が凍りそうになった。
「シャラ、伏せて!」
声が聞えたのと、目の前の自動ドアが砕け散ったのが同時だった。とっさに防御の姿勢をとったものの、あまりの衝撃でオレの身体は吹き飛ばされた。
誰かがオレをずるずると引き摺ってエントランスから遠ざけた。健康そうな生脚が見えた。
「……メグか」
「そのまま、前だけ見てしゃがんでいて」
数秒たったが浦野さんが追ってくる気配はない。メグもそれを確認してオレに声をかけた。
「立てる? 逃げるわよ」
オレは身体を叩きつつ立ちあがった。すでにスーツがボロボロだ。内側に着込んだ防弾衣がなければ、とっくにあの世行きだろう。
メグに引っ張られるかたちで、会社の駐車場に停めてある一台の車に乗り込んだ。