発砲
浦野さんには申し訳なかったが彼女をしばらく放置することにした。新人教育よりも先に、オレにはやるべきことがある。
派遣会社に電話だ。いくらなんでも、これはヒドすぎる。話が噛み合ってなさすぎる。
オレは監視室を出ると地下の談話室へ向かった。いまの時間帯ならあそこに人はいないはずだ。地下なので若干スマホの電波がわるい。窓際へ寄って電話をかけた。
「お電話ありがとうございます。マンパワー・パラダイスでございます」
電話にでたのは女性だった。誰だろう、総務の人か。
「あ、お疲れ様です、派遣社員の石原ですが富田さん、いらっしゃいますか」
オレは一気にまくし立てるように言った。
「少々お待ちください。トミ……あの石原様、失礼ですが派遣先はどちらでしょうか」
「ほんにゃらシステムズです」
「かしこまりました。少々お待ちください」
保留中の音楽が流れ、しばらくすると誰かが電話口にでた。残念ながら富田ではなかった。
「お待たせしました、剛流です」
女性の声だった。うっわ、浦野さんの言っていた謎の担当者とつながっちゃったよ……。
「あのう、石原といいますが富田さんは……」
「石原さん」
彼女に言葉を遮られた。なんだっつうの。
「いま、あなたの背後に敵がいます」
「はい?」
意味がわからない、ふつうの人ならそう言うだろう。だがオレは違った。瞬時に理解した。
「あの、これってもしかして」
「そう予言。そこに誰が立っていても躊躇しないで撃つのよ、いい?」
電話が切れた。オレは覚悟した。
もうつぎの瞬間にも撃たれるかもしれない、そう思うとめちゃめちゃ怖かった。念じて全身装備にする。フードを被りつつ背を丸めた。
撃たれたのはその直後だった。
オレはまだ見ぬ敵に背を向けるかたちで体勢をくずした。ジャケットに護られているとはいえ、ものすごい衝撃だった。
撃たれたのが背中か腰か、痛いのか痛くないのかすら、よくわからなかった。オレはポケットのなかで十円銃を握りしめた。
振り向きざまに相手に銃を向けた。滝岡だった。が、躊躇している場合ではない。ヤツは銃でオレを撃ったのだ。
銃爪を引こうとした瞬間、不思議な感覚におそわれた。
千里眼っての? 滝岡のスキンヘッドが急にアップになって見えた。額の真ん中あたりに第三の目がある。
直感的にそこが弱点だと思った。ま、そら、そうやろ。




