三幕 片道
部室が薄暗かったせいか、昇降口が無駄に明るく感じる。
うわばきからクツに代える時に何気なく神様に聞いた。
「遠回りなんだけどさ、べつの道から帰らないか?」
「そんな道があるのか?」
「まあな、いろいろ話したいこともあるし、いいだろ?」
「妾はかまわんぞ!」
クツを履いた神様がつま先をとんとんとしながら、無邪気な笑顔を見せる。
いつもは昇降口をでて左に行って運動場を抜けて帰るのだが、校門をくぐって、右にずっと行くと町並みからはずれて道路一本道になり、一つの土手がある。
横に川原もあり、この時間の夕焼けの景色はすごいキレイで、そこに行くつもりだ。
まず土手に着くまで時間がかかってしまうのが、難点なんだがな。
「どれくらいかかるんじゃ?」
「うーん、まあ、六時までには帰り着く距離だよ」
神様は「そっか、楽しみじゃ」と幾分気にせず、俺の横を歩く。
夕日が西の方角から徐々に沈んでいくのを自分の影でわかる。
神様は落ち着きのないように俺を見ては笑い、スカートをひらひら揺らしながら、両手を広げて「ビューン」と飛行機のマネをする。
「あのさ」
「うん、なんじゃ?」
「よく……転入できたな」
「それなら姉さんに頼んで手続きをちょいとしてもらったのじゃ」
「そ、そっか……でも面接とかもあっただろ?」
「そうじゃな~それには多少困った」
神様は俺に背中を見せて、スキップをしながら答える。
「なんか……あったのか?」
「いやな、面接官の人がの妾に『興味のあるものは?』と質問をされたんじゃがな、ここは一つ知的なところを見せようとな『人類の神秘』と『相対性理論』についてな」
「語ったのか?」
「うむ、知ってるかぎりをすべて話したんじゃ」
「それで……面接官の人は?」
「終わった時にはみんな倒れておった」
「おいおい……」
「まあ、そのおかげでテストは受けずに合格をもらった」
「すげえ、頭いいな」
「ふふん、妾にしゃべれない言葉はないからの!」
神様がこちらに振り向き、胸を張る。
「それは羨ましいな、見習いたいものだ」
「そんなことよりどうじゃ?」
「なにが?」
神様はぴょん、とジャンプをして、俺の前に立つ。
「制服じゃ、似合っておるじゃろ?」
膝下のスカートの裾を持って俺にアピールする。
「よくサイズあったな」
「もっと、ほかに言うことがあるんじゃないか?」
「ごめん、その……すごい似合ってるよ」
俺は褒めることに慣れてないからか、照れくさいものだと、顔をぽりぽりとかいてしまう。
「ふむふむ、ありがとな」
夕日で神様の顔は茜色に照らされる。
でもいつも通りの俺の知っている無邪気な笑顔だ。
「それより着いたぞ。ここからの景色が俺は好きなんだ」
「おーキレイじゃのー」
距離のない特別でもなんでもない普通の土手。
左には川が流れ、右には運動場ぐらいの広さのある草のない原っぱ。
俺らは今、その真ん中を歩いている。
「桜太はいつ見つけたんじゃ?」
「見つけた、っていうか姉貴に教えてもらったんだ。それが、たしか引っ越してきた次の日かな、散歩がてらに気まぐれで来たんだ」
「ふむ」
「つか、神様でも知らないことは、いっぱいあるんだな、ほら、ラーメンのすすり方とか知らなかったし」
「そりゃなんでも知ってたら、神なんて一つでこと足りるじゃろ? 妾はまだマシなほうじゃ、なんたって妾は人間界の常識や知識や教育は把握しておる。まあ、それ以外はさっぱりじゃが」
「そ、そうなのか……」
それで極端な情報量だったわけだ。箸の持ち方は知ってても、実際持ったのもあれが初めてで、すすり方なんて教わるほうが貴重だし、かといって勉強は完璧にこなす。
面白いものだ。頭の良い人と頭の悪い人がいても、それは時と場所によって異なる場合が多々あるわけだ。
俺が知ってて、神様が知らないこと。逆でもあること。興味のあるもの、ないもの。世界にはたくさんある。だから、嬉しさがある。
「おお! こっからの見晴らしは絶景じゃのー」
ちょうど中間地点にさしかかった時、神様が声を上げる。
「だろ」
「うむ! サイコーじゃ」
ちょっとした些細な出来事が俺にとっても神様にとっても、小さい想い出にもでもなるのなら、俺はなんでも教えてやるつもりだ。
神様は何回目になるかはわからない笑顔を俺に見せた。
筆記者 春島桜太
活動初日、いろんな遊びを追求するため、本日はトランプをした。
神代を中心に進む、我が部は今の所は三人ですが、楽しい部活ライフと発見をするつもりです。 以上
机に向かって、就寝前に書いたが、まあこんなもんかな。
そう思って、提出日まで机の上に置いておくことにした。