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二幕 体験

 駅で真子ちゃんと待ちあわせて、電車で一回の乗り継ぎでスペースランド入口前の駅で降りる。

「なあなあ、あれが観覧車かの? そしてあれが……」

 白ワンピに身を包んだ少女・神様が大いにはしゃぐ。電車からも窓から流れる景色をずっと眺めて、遊園地が見え始めると「あれかあれか!」とずっと蒼い眼をサファイアのように輝かせている。

「そんなにはしゃいでいると、途中でバテるぞ」

「そ、そうだね」

 少し下向きに共感してくれる真子ちゃん。

 髪型はいつもと変わらない二つ結びにしている。

 服装はチュニックとキャミソールを組みあわせて、ジーンズを穿いている。

 けっこう大きいトートバックを肩に担いでいる。

「ほら、行くぞ」

 平日でガラガラでないものの、俺たちと同じぐらいの年代グループや親子連れなど様々いるが、でも休日よりはやっぱり空いている。

 はぐれないように神様の手を引いていく。片方は真子ちゃんが握る。

「なんか親子みたいじゃな」

「いや、いくらなんでも若すぎでしょ」

「それもそうじゃな」

 朝の十時半を回ったぐらいの時間。閉園までいても六時間以上はある。

 たいしていない、人ごみを抜けて、受付でフリーパスに引き替えて、入場門をくぐると。

「おおお! 広いのじゃー‼」

 神様がぐるぐると回って、顔を真上に見上げて、叫ぶ。

 ここはまだ、お土産などを売っている売店やマスコットキャラクターと記念写真を撮ってくれるカメラマンがいる場所で、アトラクションはちょっと先だ。

「わ、わたし、お手洗い行ってくるね」

「あ、うん、どうぞ」

 真子ちゃんがたったっと、駆けていくのを見送って、

「そういや神様、最初はなにに乗る?」

 まっているあいだに広場の真ん中にあるベンチに腰かけて、神様に尋ねる。

「妾か? 妾は、あれに乗りたいな」

 神様が、ズバッと指さすほうをたどると、どうやら、

「観覧車?」

「うむ、最初はあれに乗りたい」

「ここは、ジェットコースターとかに行くのが、本場ってものじゃないのか?」

 てっきりこの遊園地にある、三つのジェットコースターに乗るものだと思っていた。

「それは次じゃ、最初はあれでいくぞ」

「そ、そう」

 俺はどうでもよかったから、どうでもいいか。

「お、おまたせ」

 真子ちゃんがしばらくして、戻ってきたので、最初は観覧車に乗ることを伝えて、そこにいくことに。


「で、でっかいな」

 世界一! なんてことはないがそれなりの大きさを保つ観覧車『サマートライアングル』はスペースランドの真ん中に建っている名物だ。

 神様には、充分すぎるかもしれない。

「なあなあ、あっこのゴンドラはなんで透明なんじゃ?」

「え、ああ、あれはスケルトンだ。一個だけ特別にあるみたい」

 パンフレットで確認してみたら、外装すべてが透明にできているゴンドラ。記念に乗る人もいるみたいだが、正直勘弁したい。

「妾、あれに乗りたい」

「え? ま、真子ちゃんはどう?」

「わ、わたしは……べつにいいよ…………と、透明なだけだし」

 真子ちゃんが賛同した。正直、俺は高いところが人並みに苦手である。

 係員に言って、スケルトンが来るのを数分まって、内心悔しくも乗りこんだ。

「どんどん上がっていくのじゃ!」

 神様が床を見つめながら、上昇するゴンドラに関心度を高めている。

 一周およそ十五分。俺もチラ見で床に目線を落とすがやっぱ、怖い……。

 スケルトンだからか、こっちを見ている人も少なからずいる。

 ぐっとこらえることにした。落ちるわけがないと言い聞かせてはいるが……。

 向かいに神様と真子ちゃんが座る。このままでは精神が持ちそうにないので、話して気を紛らわすことにした。

「ど、どう怖く……ない」

「わたしは……絶叫系はもちろん苦手なんだけど、これならまだ平気かな……ただ高いだけだし」

 神様は相変わらず「高いなー」と言って、ずっと下を見ていた。

「そ、そっか……」

「桜太くん……もしかして……高いところとか……苦手?」

 俺はギクッとなったが「ち、違うよ! 全然そんなことは、まったくそんなことはないからさ!」と全力で否定する。逆に怪しいと思われそうだな。

「そ、そう?」

 真子ちゃんが心配そうに俺を見る。でも俺はそのまま十五分間、どうにか耐えた。




「よーし、次はあれに乗るぞ!」

 神様が名指したのは『ベガ』だった。

『ベガ』この遊園地には他に『デネブ』と『アルタイル』のジェットコースターがあり、それぞれに『高さ』『回転数』『速さ』の三大項目が渇せられている。

「俺……どうしよ」

 ベガは遊園地開設からある王道中の王道のジェットコースターだ。

 時速八十五キロとあっけにとられるほどの平凡で、高度も三つの中では一番高いが一〇〇ちょいぐらいで、魅力を挙げるなら乗車時間が七分と異様に長いことで有名ではあるが、近々改良されて、速度を上げるみたいだ。

 デネブはジェットコースターの中で、最近改良されたらしく、捻りと回転数が一段落増えたみたいだ。

 問題はアルタイルだ。乗車時間が一分にも満たないが、最高速度二〇〇キロでスタートして角度九〇度のレーンを昇っていき、急速落下がお客さんには大人気である。

 乗るならベガだな、間違いなく。

「真子ちゃんは……どうする?」

 俺はさりげない感じに尋ねた。

「わたしは、乗ろうかな。絶叫系苦手だけど……何事にも挑戦だよね」

 真子ちゃんが自分に喝をいれるように「よし!」と言い聞かせている。

「桜太も。ほらいくぞ!」

 神様に袖を引っ張られていく。

「わ、わかったから、引っ張るな!」

 ベガに並ぶ人はけっこう少なく、十分も並ばないうちに俺らに順番は回ってきた。

 ベガの搭乗口は一列に二人乗りで、神様が一人後ろに乗って、なぜか俺と真子ちゃんがペアで乗ることになった。

 配列は一番後ろである。

 始めはマシンがチェーンにかかり、上へ上へと、いざなう。

 ゆっくりゆっくり、と観覧車とはまったく違った、スリルがある。

「ねえ……真子ちゃん」

「な、なに桜太くん?」

 目線はまっすぐにしたまま、俺は独り言のように真子ちゃんに自分の今の心情を話すことにする。

「俺……じつ、わああああああああああああああああああああああああ!」

「な、なにー? 聞こえないよー」

 俺は最後まで言えずに後ろのせいか、急滑走にも気づかずに降下に身を乗りだして、口も開けたままだったし、思わず意思とは間逆に思いっきり絶叫する。

 横で真子ちゃんが理解しようと聞いてくるのは、わかってはいたが、今の俺には到底返事は無理そうだった。

「俺、じつ…………わあああああああああああああああああああああああ!」

 マシンのスピードが落ちたのをきっかけに言おうとすると、また降下を繰り返し、うまく言葉になる前にかき消された。

 横のレバーのせいであまり真子ちゃんが見えないが、叫んだりしないあたり、怖くはないのかな?

 後ろに乗る神様もはしゃぐのを予測していたが、とくに声が聞こえたりはなかった。

 そのあともマシンが真横走行や回転がないにせよ、それに似た走りをして、説明通りの七分間の絶叫ツアーはどうにか終わりを告げた。



「ど、どう……だった?」

 俺はダイエット中で水しか飲んでいない人みたいになり神様、真子ちゃんに聞いた。

「妾は、途中から目つぶっておった」

「それ、意味ないじゃん」

「わたしは、怖くて下をずっと見てた。やっぱり怖いね……」

「俺も似たようなものだ」

 神様と違って、目は開けてはいたが。

「そういえば桜太くんは、なにを言おうとしてたの?」

 真子ちゃんが改めてさっきのことを尋ねてくる。

「……俺、ジェットコースターとか高いところとか、その……苦手なんだ……」

 俺は視線をそらし気味に答えた。

「やっぱり、かな」

 真子ちゃんの明るい声が俺の胸に突き刺さり、がっくりと沈む。

「ださいよな……」

 すると真子ちゃんは顔を横に振る。

「ううん、そんなことないよ。人間、なにか一つでも苦手なことがあるはずだよ。逆になにも苦手なものがない人は、人間味がないよ」

 真子ちゃんが俺を励ます。

 俺はやっぱり……真子ちゃんのことが…………そうなの……かな。

「よーし、次はデネブに乗りにいこうと思うんじゃが、よいかの?」

「お、俺は……休憩……したい」

「わたしも、まってるよ」

「そっか、ならまっててくれ、妾一人行ってくるのじゃ!」

 神様が準備体操を始める。こいつは元気だな……。

「でも、さっきずっと目つぶってたんだろ? 大丈夫なのか?」

「今度こそ楽しんでくるのじゃ」

 神様は胸を張って、強調してくる。

 三角形のように設置されたジェットコースター乗り場。きちんと星座に則って造ってあるみたいだ。

 神様しか用はないが、まずはデネブの乗り場まで移動して、神様は参列に並んで、俺と真子ちゃんは、その前のベンチに二人で座った。

「早麻ちゃん……元気だね。見習いたいな」

「まったくだな。俺なんて、今すごく気分悪い……」

 こめかみがズキズキする。この途中に買ったお茶を口に含んで、潤ませる。

「だ、大丈夫? 無理はダメだよ?」

「そ、そうだね……」

「やっぱり……ジェットコースター、乗らないほうがよかったんじゃないかな」

「でも……俺……誰かとの、思い出とかほしかったんだ、あんまりないだろ? こういう機会とかさ。無駄にもしたくないし」

 俺は手を振る神様に手を振り返す。

「わたしと……一緒だね。わたしも家族とか学校の人と来ても一切乗らないから、話の輪の中に入れないことがたくさんあったから」

「これは思い出になったのかな?」

「なったんじゃないかな。素敵な体験だったとわたしは思うよ」

 あっという間にからっぽになったお茶をポケットにいれる。

「真子ちゃんはどう? 遊園地」

「うーん。まだ来たばっかりだから、わからないかな。でも、楽しいよ」

 真子ちゃんが嬉しそうに、はにかむ。

 その笑顔に胸がギュー、と熱くなった。

 神様の乗せたマシンが出発の合図のサイレンが聞こえてくる。

「そー……だね。俺はこの時点で来てよかったと思ってる……」

「うん、それには、わたしも同意見……かな」

 絢さんは今ごろなにをやっているのだろう、とか、やっぱり絢さんも来たかったんだろうな、とか、俺の中で思想がぐるぐるかけずり回っている。

「ねえ桜太くん」

「な、なに、真子ちゃん?」

「あの子、迷子……かな?」

 真子ちゃんがデネブの近くにあるメリーゴーランドのところで、しゃがみこんで泣いている女の子を見つける。

 しゃがんではいるが、神様よりさらに小さい女の子みたいだ。

「両親と、はぐれたのかな?」

「そう、なのかな、わたし行ってくるね」

「う、うん……」

 バッグを置いて、真子ちゃんだけ女の子の元に駆け寄る。

 真子ちゃんが声をかけると、遠目だが女の子が安堵した顔に変わったのがわかった。

 真子ちゃんもしゃがみこんで女の子と同じ目線で話している。子供は上から話されるのは怖いみたい、なのを聞いたことがあるのを思いだした。真子ちゃんはすごいな、と心から感嘆する。

 女の子は泣いて、うずめていた顔を上げて、真子ちゃんを見つめて、安心したのか、コクンと頷いたのが見えた。

 泣くことをやめてくれた女の子を真子ちゃんがなでようとしたが、真子ちゃんは手を止めた。

 俺にはよく見えなかったが、なにやら女の子が少し身を引いた気がした。それに真子ちゃんは気づいたようだった。暴力? なで慣れていないのかな? どちらかにせよ、人間は知らない人に身体を触られるのはイヤなもんだ。俺も多分そうだ。

 真子ちゃんは女の子に手をさし伸べると、女の子はしっかりと握ってくれて、そのまま俺のところに戻ってきた。

 なので、俺も立ち上がって、真子ちゃんに事情だけでも、と問いかけた。

「やっぱり迷子だった?」

「うん。この子、名前は朱乃ちゃんって言うんだけど、メリーゴーランドに見とれてたら見失っちゃったんだって」

 俺が朱乃ちゃんを一度見るとなんか目線をそらされた。

「そっか、迷子センター……行ってみる?」

「そ、それが……朱乃ちゃんが行きたくないんだって、だから、一緒に捜してあげない?」

「わ、わかった……神様が戻ってきたらそうしよう」

「妾がどうしたんじゃ?」

 やけに戻ってくるのが、遅かった神様がようやく戻ってきた。

「遅かったな?」

「いやー二分ぐらい気絶してたんじゃ」

 神様がははは、と面目ない感じに笑う。

「お! その子はどうしたんじゃ?」

 真子ちゃんにしがみついて、俺をずっと警戒する朱乃ちゃんに気づいたようだ。

「この子、迷子になっちゃったみたいで」

 真子ちゃんが朱乃ちゃんに神様のことを教える。

 すると、

「このお姉ちゃん。不思議な雰囲気だね」

 朱乃ちゃんが神様に近づく。

「そりゃ妾は神様じゃからな!」

 神様が右手で胸をポンと叩いて、威張ったふうに言う。

「神様? ホンモノ……なの?」

 朱乃ちゃんは抑揚のない声だった。

 神様? のところも疑問を感じさせない。

「本物じゃ。ウソじゃないぞ」

 神様が手をさしだすと、朱乃ちゃんは視線を一時もそらさずに手を握った。

「これでもうはぐれないのじゃ」

 微笑ましいものだなと俺が思っていると、どこからかは、わからないが寒気のするような視線を感じとったあとに、

「ハァハァ…………幼女が二人……ハァハァ」

 えっ? と俺は周辺を見回す。絢さん? と捜すが誰もいなかった。

「どうしたの?」

「な、なんでもないよ」

 真子ちゃんが不思議そうな顔をしていた。それもそうか。

「よーし、朱乃よ、メリーゴーランドに乗ろうか」

「うん」と朱乃ちゃんは神様にかなり懐いていた。


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