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一幕 経緯

 代わり映えしないと俺は信じて疑わなかった入学式の日。

 そんな俺に光が射した。そう神様と出会ったんだ。

 好奇心旺盛で無邪気な笑顔を振りまき、俺をも笑顔にしてくれた。

 神様と出会って一ヶ月ぐらい経つ今も。部活の四人とほぼ毎日のように暇をしない日々を送っている。

 この日は今までよりも特別な日になりそうな。そんな予感もする。

 毎日訪れる朝食の時間にいつもはいない姉貴(休日)も含めた三人で食卓を囲む。

 神様はまだ寝起きで半開きの目をこすりながら、ご飯を食べている。

「今日、でかけるんだっけ?」

「おう」

 そう。今日は遊園地に行くことになっている。三人で。

 すでに食べ終わって、つまようじで歯の掃除をする姉貴。オヤジかよ……。

「へえ~桜太。あんたなに? デートでもするように機嫌よさげだね」

 ご飯を食べているのに喉につかえてむせ返る。

 胸をドンドンと叩いて、お茶を流し込み「ち、違うし」と否定するが、ニヤニヤをやめなかった。

 なんか負けた気がしてきたのはなぜだろう。

 遊園地にでかけることになったきっかけは昨日の放課後。部活での会話に真子ちゃんが提案してきたところまで遡る。


「ねえ、みんな。明日……遊園地に行かない?」

 部活開始から一ヶ月ぐらいが経って、だいぶぎこちなさが消えたころあい。

 定番になりつつある、いつもの四人で今日は、一つの机を四人で囲み議題『明日の創立記念日の休み』という中・高だけが六年に一回だけ休みの日がある。小学校が休みではない理由については、おそらく親御さんともめごとがあったみたいでないみたいだ。

 そんな中、真子ちゃんがチケットを四枚、俺らに提示してきたのだ。

「どうかな? 『スペースランド』のチケット、昨日お父さんにもらったんだ。遊んでこい、って」

『スペースランド』ここから電車であれば一時間ぐらいで着く距離にある遊園地なのは、俺も知ってはいる。

 注目を集めるような乗り物がないものの、規模はほかと引けを取らないほどの広さがあるのを、地元テレビ番組で観たのを思いだした。

「すぺーすらんど?」

 神様が小首を傾げる。

「神様も観ただろ? ほらこの前、お笑い芸人の人が……」

 いまいち、ピンときてない神様に俺が思いだすよう誘導する。

「あー、あの遊園地か!」

「うん、どうかな? わたしは五年ぐらい前に一回学校の行事で行ったことはあるんだけど、あれからまた、変わってるみたいなんだ」

「へえー、どんなのがあるんだ?」

 引っ越してくるまで知らなかった遊園地。特集で見たのは、主なアトラクションだけだったので聞くことにした。

「えっとね――」

「それは、行ってからのお楽しみにしようじゃないか!」

 神様が真子ちゃんの言葉を遮る。

 たしかにそのほうがいいかもしれないが。それよりも、俺はもう一人の存在が気になった。

 こういう会話に一回も話に潜りこんでこない人がいた。

「どうしたんですか、絢さん?」

 神様の反対に座る絢さんが、違和感を覚えるくらいに静かなのは妙だった。

 絢さんは、顔は笑っているものの、どこか不思議な感じがする。

「わ、私ですか? じつは…………明日……私用があるんです」

 絢さんは目を薄く閉じて、残念そうにしょんぼりとする

「そ、そうなんだ……じゃ、じゃー日にちをずらせば……」

「ご、ごめん桜太くん、このチケット……有効期限が明日まで……なんだ」

 真子ちゃんが身の丈を低くして、申しわけなさそうに言う。

「じゃ、じゃー…………行くのをやめ――」

「わ、私のことはお気になさらずに行ってきてください!」

「で、でも、俺たちだけ楽しむのも、なんか気が引けるというか……」

 部活の全員で行かないと意味がない気がした。誰かが抜けて、でかけてもそのあとがツライだけなのは、目に見えてる。

「ならば、真子さん、チケットを一枚ください」

 絢さんが真子ちゃんに手をさしだす。

 真子ちゃんが「は、はい」と一枚、手渡す。

「これでどうですか?」

「どうですか、ってなにが……ですか?」

「もう、どんくさいですね。これで私も行ったことになるはずです」

 絢さんの言っていることが理解することができなかった。わけがわからなかった。

「本当に、絢ちゃんいいの?」

「かまいません。また今度、機会があれば、その時は必ず私も」

「残念じゃな……でも絢」

「はい、なんですか?」

「お土産に期待するがよい」

 神様が落ちこみ気味にしていたが、ありったけの言葉を絢さん投げかける。

 心なしの笑顔をしていた絢さんがいつも通りの微笑みで「期待していますね」と答える。

「よーし! 明日は絢の分も遊ぶぞ!」


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