一幕 曖昧
中学卒業と共に生まれ育った地元を離れ、都会方面に住んでいる姉貴の家に居候させてもらうことにした俺。その付近の高校にも死に物狂いで勉強し、どうにか進学もすることができたわけだ。
そんな姉貴の一人暮らしにしては、無駄に大きい二階建ての一軒家に住んでいるため、俺は二階のあまっている一室を頂いた。
なぜわざわざ地元に進学せずに、引っ越してまで都会のほうの高校に志望したのかというと、自分の置かれた環境を変えたかったからだ。
小、中と友達と呼べる友達は少なからずできた。だが、すぐに慣れた頃合いに揃って皆は「お前、なんかつまんない」「もう近付かないでくれ」みたいなことを実際に面と向かって言われたわけではない。でもその人の目がそう訴えているように俺は感じていた。
わからない、ただの俺の勘違いなのかもしれない。考えすぎなのかもと改めたことも数え切れないほどにある。
しかし、状況を変えきれず案の定、俺の今までの青春は基本的に独りでいるばかりだった。
だからこそ、今度のこれは俺にとってのビッグチャンスだと思っている。うん、他人まかせはダメだし、ためにもならないのも承知の上だ。
しかし、今回の件だけは目をつぶって耳も塞いでいてほしい。おそらく大学にまで行く気がない俺の最後の青春を謳歌する切符を手にいれるチャンスだと、だから賭けてみせる……。
――――高校デビューを――――
青鷹高校――この春から俺の通う学校の名前でとくに名の知れた有名校とかでもなく、珍しいかどうかはともかく、この学校は幼・小・中・高と場所は違うが、エスカレータ式に進級できるシステムになっているらしい。
だからかはわからないが、荒れた校風とかも見当たらなく。そんでもって本校最大の魅力なのが、ゆったりとまったりとした校風(ここ重要)で規則が非常にゆるいところである。
男子の制服は藍色の学ランタイプの上下とシンプルな仕上がりである。
逆に女子も同色のセーラー服とチェック柄のスカートといった藍色に染まった、青鷹の青を彩ったデザインである。
チャームポイントといえば、襟の後方の両端についている中サイズくらいの白リボンらしい。
今の時代にもまだセーラー服の学校があるんだなぁ……とか、入学式の五十代後半ぐらいであろう校長先生が「――選手は小さいころから」と、とある有名選手の生い立ちを調べたことを自慢げに語っている最中に俺は上の空でそんなことを考えていた。
長ったらしくも入学式も終わり、次は命運を分ける教室で行われる自己紹介。ここで面白いことが言えれば、俺も……。
そんなふうに緊張してしまった俺は、平凡でジョークの一個も言えず、誰でも思いつくような言葉を並べてスベったらどうしようかと迷い、無難な紹介で終了していた。
最大のイベントとなる帰り際でさえ、自分から声をかけるスキルを持ちあわせていないため、誰かが声をかけてくれるのを、ひたすらまっていたが、周りの生徒からの声かけもなどもなく、無口で影の薄い野郎でなにもないまま終わってしまった……。
収穫もなく、ただただ反省と溜め息だけが残り、虚しい気持ちのまま俺は帰路についた。
このままいっそのこと勉強漬けの青春を送って、秀才になって一流企業に就職したいがために青春を捨てるのもいいかもな。絶対しないけど……。
徒歩十五分でたどり着く距離のため、通学には支障はなさそうだ。そんなこんなで発展もなければ始まりもしなかった青春を明けてしまったが、無事に家に着いた。
姉貴の趣味なのかリビングとダイニングの壁は薄い青色にされていて、なぜだか落ち着かない部屋になっている。他の部屋は普通に白で統一されているのに。
そんなことはさておき、ダイニングテーブルのイスに制服の上着とカバンを置いて、壁時計に目をやると長い針が十二時を指しかかっていた。
「お昼か……」
そのまま昼飯にしようとキッチンに足を運ぶ。
その時――――ピンポーン、とインターホンが鳴り響いた。
「ん?」
おそらくは宅急便かご苦労さんな新聞の勧誘かなにかだろう。メンドーだし居留守を使いたいがここは実家ではなく、姉貴の家。あとで文句でも言われたらなにかとうるさそうだし、でておこう。
とりあえず「はーい」と気だるそうな合図を送り、そこにあったスリッパを履いて、玄関を開けた。
「どちらさまですかー、っと」
しかし、そこに立っていたのは、宅急便のお兄さんでもなく、勧誘のおじさんとかでもなく、一四〇センチ程度の金髪の女の子がいた。
「なにか……用事かな?」
腰ぐらいまであるストレートヘアーが風に乗せて、ゆっくりとなびいている。
小顔に似合わずな大きい蒼い瞳は、じっと俺の眼からそらさない。
色白な肌とシンプルな真っ白いワンピースがより一層、俺の中のイメージが膨らみ、こう囁いている「妖精」みたいだなと。
…………ってなに考えてんだ俺は?
「一つ頼みがあるんじゃがよいか?」
不思議なしゃべり口と幼い声質、カタコトでもないし、日本生まれなのかな? と勝手に分析。
さておき、女の子が尋ねてくる。
「な、なに?」
すると女の子は少しあいだをおいて、発言する。
「妾をこの家に住ませてくれ!」
…………………………………………。
「へっ?」
小さな口から放たれた言葉を吸収できず、なんか思考が止まった気がした。そのあいだにさっきまで感じていたものも一瞬だけ忘れていた。
「えっと、あのーもう一回。いいかな?」
「じゃからな、この家に住ませてくれ、と言ったんじゃ」
女の子はさっきより、強調して発する。
「な、なんで?」
「なんでと言われても困るぞ。あとお主の姉さんには、許可をもらっておる」
「えっ? い、いつ?」
「えっとな……小一時間ほど前に家からでてきたところに頼んだら、許可をもらえたんじゃ」
女の子は淡々と明かす。
姉貴が許している? バカな……俺がこの家に居候させてもらう時の条件は『青鷹高校に合格できたら』だった。この条件でさえ、姉貴に三日間頼んだ末の姉貴が呆れたからだ。
春島美桜。二十二歳。身長は一七〇センチくらいで俺より身長が高い。
姉貴と俺は歳が七つも離れている。そのせいか俺は幼少期に姉貴と遊んだ記憶がまったくない。それもそうだ姉貴は中学入学と共にガリ勉で部屋に缶詰になっていたからだ。その成果か今はファッション関係の仕事をしているらしいが、俺はよく知らない。
幼少期の名残で姉貴はきっと厳しい人というのが、この家に来てから定着してしまっているのが現状である。
「姉貴にどう頼んだんだ?」
「そんなの事情を話したら笑顔で許可をくれたぞ!」
えらい簡単に了承しているんだな、姉貴。俺にもそれくらいの寛大さを分けてください。
「あ! あと姉さんから手紙も預かっておるぞ!」
女の子は思いだしたかのように、ワンピースの右ポケットから一枚の紙切れを取りだした。
「ほれっ、読んでみてくれ」
手紙を俺の顔のほうに腕を伸ばしながらに差しだす。
それを受け取る。
折り曲げてある紙を広げると二十字あまりの短い文章が、なぐり書きされていた。
五時には帰る それまでその子を頼む 姉
えらく汚いが間違いなく姉貴の字であった。
「そう……みたい、だな」
「じゃろ! だからな、お主の許可も欲しいんじゃ」
「まさか……そのために俺が帰ってくるのをまってたのか?」
「そうじゃ、お主の許可なしに家に上がりこんでいたら失礼じゃからな!」
なんかこの子、ただの女の子ではない気がするな……。
「律儀な奴だな。べつに俺の許可とかなくてもよかったのに」
俺にこの家の所有権もなければ、ただの押しかけてきた弟にしかすぎない。だからか少し遠慮がちなわけで――
「でもお主もこの家に一緒に姉さんと住んでるんじゃろ?」
「……えっ?」
「なら妾はお主からも許可をもらう必要があるんじゃ、そうじゃないか?」
「そういう……もんなのか?」
「だってこれから同じ屋根の下、共に暮らす仲になるわけじゃし、もしも勝手に家に上がりこんでお主が不愉快な気持ちにでもなったらイヤじゃからな、そのためじゃ」
「そ、そこまで考えてるのか……」
すげーな……俺なんか自分のことで手一杯なのに……。
「じゃー改めて聞くがどうなんじゃ?」
俺は後ろ髪をポリポリとかいて、素直に返答した。
「まあ、姉貴がいいって言ってるわけだし、俺もべつにいいぞ……」
「そっか! よろしく頼む! それと……一ついいか?」
「うん?」
「二時間ずっとまってたから……足が限界なんじゃ……」
前かがみになり、両足の膝を押さえる仕草をする。
二時間もじっとまってたらそりゃ疲れる。けど、
「気になってたんだがなんで……俺が家に入る前に声かけなかったんだ? そっちのほうが手っ取り早かったはずだが」
「それは……妾がお主を庭でまってたんじゃが、いつの間にか寝てしまってな。お主が帰ってきた時に起きたんじゃ、それでじゃ」
「な、なるほど……それはともかく、どうぞ」
ドアを全開にして、女の子を招きいれた。
「じゃーお邪魔するぞ」
ドアを押さえる俺の前をスゥーと通りすぎる。
その時にほんのり甘い匂いが俺の鼻腔を刺激する。
それは香水や洗剤の匂いではなく、無邪気な子供のころに嗅いだことのある自然の香りがして少し懐かしくなった。
「あっ、リビングは上がって左だからな」
「わかったのじゃ! よっと!」
女の子は、履いていた黄色のサンダルを無造作に脱ぎちらし、リビングのほうにドタバタと足音を立てて小走り気味に駆けていった。
俺もスリッパを元あった場所に揃えて、ついでに女の子のサンダルも揃えて、少し遅れてリビングに向かう。
リビングを見渡し、ダイニングを見ると女の子は、ダイニングテーブルのほうに座ってくつろいでいた。
「おお! ほらお主も早く座るのじゃ!」
「飲み物とかいらんか?」
「それも欲しいの」
「なに飲む?」
「ジュースが飲みたい!」
「オレンジしかないが、いいか?」
「それで頼むぞ」
とりあえず女の子用にオレンジジュースと自分用に麦茶を注ぎ、俺も女の子の向かい側の席に座るため、カバンと上着を横にずらして、そこに腰を下ろす。
「ほらよ」
「すまんな。では最初にお互いの自己紹介でもしようじゃないか。ではさっそく先にお主から教えてくれんか?」
女の子は俺が用意したストローでジュースを飲む。
「俺から? まあいいか……俺の名前は、春島……桜太だ」
名は体を表す。こんなことわざがあるが、俺はどうやら違うみたいだ。べつに桜のイメージである明るくもないし、人に好かれるわけでもない。なぜ親がこんな苗字共々、春満開にしたのかもわからない。今更知りたくもないわけだが。
「おうた……おう、た…………うむ! いい名だな! これからよろしくな桜太!」
女の子は身体に染みこませるように覚え、俺に笑顔を見せながら名前を呼ぶ。
「お、おう……よろ、しく……」
正直自分の名前を呼ばれたのは、ひさしぶりな気がした。
幼少期はよく知りもしない子でも名前を知れば、お互いに名前で呼びあうほどに抵抗がないものだ。でもこれぐらいの歳にでもなれば、よほど仲良くならない限り、呼ばれることはまずない。
だから……嬉しかった。
「うん? 桜太どうしたんじゃ?」
「え? うん……なんでもない」
自分でわかるくらいに胸が熱くなるのがわかった。
名前で呼ばれるのって……こんなにも嬉しいんだな……。
「まあよい。じゃー次は妾の番じゃな」
そう言うと女の子は呼吸を整えてから発言する。
「妾は神様じゃ!」
「えっ…………か、かみ……さま?」
思わず、オウム返しをしてしまった。
「そうじゃ! 正確には第二九九代目の神様じゃがな」
度肝を抜く宣言を聞いてか、意識が完全にそっちにいってしまった。
「えっと……本当に神様、なのか?」
「そうじゃぞ! 桜太も神という存在が一つではないことくらいは知っておるな?」
「まあな」
俺は、とりあえず相槌を打った。
「様々な神がおってその中で一番エラいのが、妾なんじゃ」
「えらく省いたな」
とはいえ、それなら聞きたいこともあるわけだが、
「質問してもいいか?」
ジュースを飲んでいた神様(?)に俺は尋ねる。
「たしかに今のでは桜太も納得できないじゃろうし、納得できるまでどんどん聞くがよい」
「じゃー……始めに、なにしに人間界に来たんだ?」
これを一番目の質問にした。
この質問に神様(?)はとくに悩むことなくさらっと答える。
「そりゃーもちろん。妾は桜太の『観察』をしに来たんじゃ」
「そ、それって……」
「仕方ないじゃろ、妾は桜太の神様なんじゃからな」
俺が驚いていることを裏腹にさらに続けて言う。
「いやいや! まてまて! 俺を置いていくな!」
「うん? ああ、そういうことか、すまんすまん。なぜ妾が桜太の神様であるか、ってことか?」
「うーん、まあ、そこから頼む」
こりゃ話が長くなりそうだな……。まあいいけど。
「妾はな、桜太がこの世に誕生した時に一緒に、桜太の観察者にするために生まれた神なんじゃ」
いきなり、話が呑みこめないんだが……おい。
「でもそれは、みんな同じなのか?」
「いーや、神が観察できる対象に制限はないんじゃ、中には百人観察しとる者もおる」
「それって、珍しいのか?」
「う~ん、いや、べつに珍しくはない。逆に観察者一人の妾のほうが稀ではあるぞ」
「そう、なのか」
俺の日常なんか見ても退屈だろうに、それがいいのかな?
「じゃー歳は俺と一緒ってこと?」
「見ての通りじゃ!」
神様(?)の顔、身体のラインを改めて見直す。だが、
「やっぱり、小学生にしか見えない……」
素直な感想を述べたが正直言ってよかったのか? と思えた。
「あれ? これじゃ幼すぎたかの、もう少し大人なほうがよいか?」
「いや、べつにそのほうが俺的には気がラクだし……」
「まあ、これはこれで需要があるからな」
「え? どういうこと?」
「妾はまだピチピチじゃからな、どうじゃ?」
神様(?)はテーブルを乗り上げ、俺の目の前に胸元を近づけて、手でぐいっと襟を引っ張り見せてくる。
まったく膨らみのない、控えめといったら、まだ褒めすぎなぐらいだ。
いやいや、自分にその気はないつもりなのだが、
「あの……そういうのはちょっと……」
俺は胸元に視線がいくと、即座にヘタレなのか、まぶたを強くつぶる。
「冗談じゃよ、少し試しただけじゃ」
「あ、ああ……」
そ、そうだよな……。
「桜太がきちんと異性に興味があるか、試したんじゃよ」
「なんだよそれ……」
「じゃー話がそれたな」
「まったくだよ……」
と、いってもなにを質問していいのやら、神様、神様といったら…………
「なんか、特別な力……とかあるの?」
「うーん、そうじゃな、妾は特別なにも力はない、じゃからご利益とかは期待するだけ無駄じゃぞ!」
そこまでは聞いてないし、なんか自虐的にも聞こえる。
それなのに威張っているように見える。
「なら奇跡を自在に起こしたり、天罰を下したり、とかもできないってこと?」
これはダメだったかな? とまた後悔した。
神様(?)の顔が一段だけ険しくし、腕を組んで答える。
「妾たち神にとって絶対にやってはいけない『掟』があるんじゃ」
「おきて……?」
「うむ、神たちはあくまでも人間観察および保護による習慣だけを行い、その人が歩むべき人生や運命を妨げることを全面的に禁じる掟があるんじゃ」
神様(?)は険しくしていた顔を元に戻すが、俺は素朴な質問が浮かんだ。
「で、でもそれじゃ俺の運命を変えてないか? ありえないだろ? 神様が同居するなんて」
「…………それなら、問題はない」
「な、なんでだ?」
俺が聞き返すと、人差し指を立てて、
「『妾が桜太と同居する』ということは運命によって定められていたからじゃ」
「なんで……そんなことがわかるんだよ」
「エンマに聞いたからじゃ」
さらっとすげーことを言うな……。
「エンマって、あの死人を裁く……あのエンマ大王だよな?」
「さばく? あー今はやっとらんぞ。千年前に辞めたみたいじゃ、というか部下に押しつけたみたいじゃ」
「そうしたら、今はなにやってんだ?」
「後継ぎをさがしておるそうじゃ、でもなにしろエンマは仕事が多いから誰も継ぐ者がいない……と嘆いていったな」
大変な仕事は気だるいし、キツいものだし、どこの世界も同じなんだな。
「エンマって、どんなことしてんだ?」
「ええっとな、妾も詳しくはないが、たしか人の生死の確認と天国・地獄の裁判の確認とかじゃなかったかの」
ずいぶんと年中無休のイメージだな、そんな休みがなさそうな仕事は、なんていうか使命感がないとダメだな。でもやりがいはありそうだ。
「そういえばエンマは何代目なんだ?」
「初代のままじゃぞ、たしか」
「代わったことないのか。じゃーなんで、神様だけどんどん代わってんだ?」
「そりゃ妾たちも初代さまがおれば、おそらく今もやっていただろうな」
「なに? 初代って今なにやってんだ?」
「……それに関しては妾も知らん。三十万年前に行方不明になって以来、情報はない。ただ一つ言えるのは死んではいないってことじゃ」
神様(?)がジュースをチューと吸いながら少しだけ険しい眼になり、思わず「そ、そうだったのか」と素気ない反応をしてしまう。
「というわけでエンマにも確認してあるから大丈夫じゃ! 心配はいらぬ!」
蒼い瞳をキラキラさせて、俺を安心(?)させようとしている。
いや、心配はしてないが……。
「そういや、聞き忘れてたんだが、どこらへんが……神様なんだ?」
「う~ん、さっきも申した通り、妾には特別な力が一切ないわけじゃし、そうじゃな、あらかた人間と一緒と思っててくれてかまわないぞ」
ということはこの神様(?)はただの名札だけの神様で、でもそれじゃなんだか、納得がいかないし、でもでも、このままずっと疑ったまま同居をするのも気が引ける。じゃどうすれば……。
俺の半信半疑に気がついたのかのように神様(?)が優しく声をかけてくる。
「そういえば桜太よ、さっき観察の話の時に、俺なんか見てても暇だろう、とか思ってたんじゃないか?」
「なんで今更…………でもその通りだろ?」
この言葉に神様(?)は驚いたような顔をする。べつに驚くことなのか?
でもそのあとすぐに俺の眼を見て言う。
「妾はな、伊達に十五年間見てはおらぬ、あと教えておくぞ。なんで妾がこの世界に来たもう一つの理由、それはな、桜太と遊びたいからじゃ」
「俺と……か……?」
なんだろう……今、不思議な気持ちになった気が……。
「桜太が今まで友人関係に疎いことも踏まえて、妾は桜太と遊びたいんじゃ」
神様(?)…………いや、神様は俺に微笑みかける。無邪気な笑み。
それに俺も応えるかのように無意識に笑顔になった。
グ~~~~、
と向かいから可愛らしい腹の虫が聞こえた。
「あはは、お腹減ったのう、桜太なにか食べたいのじゃ」
「えっ……ああ、そういえば俺も昼はまだだったな、じゃあラーメン……食べるか?」
「ラーメンか! 妾も食べてみたいな」
神様は嬉しそうな顔をした。
「じゃあ作るから、まってろ」
席を立ち、キッチンに行こうと神様の横を通りすぎようとした時に神様が、
「お! 妾も手伝うぞ!」
「いいよ、インスタントだし。それと」
「うん、なんじゃ?」
「お前のことはこれからも『神様』って呼べばいいのか?」
この質問には、神様もちょっと悩んでから答えた。
「ほかにないからな、妾はずっと神様としてやってきたからな、多分この先もずーっと桜太の神様じゃ、だから妾のことは『神様』でいいぞ」
神様は手を差しだした。
俺も手を一度Tシャツで拭いてから神様の手を握って、
「よろしくな、神様」
「こちらこそなのじゃ!」
神様の手は小さく、すべすべでとても温かった。