消えた星、残る傷
ボクは名も無いただの戦士。
主人と共に世界中の人たちと力比べをしている。
けれどもボクは勝ったことがない…
主人も「またか」と悔しそうに苦笑いだ。
ある日、ボクの所に新しく戦いの通達がやってきた。
通達にあった相手の勝ち星は99で、かなりの強豪として知れ渡っている相手だった…
主人は今日もまた勝てないだろうなと思いながらも承諾したようだ。
ボクも半ば諦めていたけれど、戦うとなったら正々堂々と戦わないといけない…
「お願いします!」
ボクは相手にお辞儀をして戦いの体制をとった。
「ヘヘヘ…よろしく頼むぜ」
相手はボクを嘲笑うかのような態度で戦いの体制をとっている。
そして戦いが始まった。
戦いの場はいかにもデジタルといわんばかりの背景だ。
主人はボクに命令を与えた。
例えその命令がどういうものであってもボクらはその命令には背くことはできない。
けれども命令が無ければ戦うことはできなかった。
先手を取ったのは相手の方だった。
「おらあっ!食らえーっ!!」
相手の一撃はボクのわずか左にそれた。
間一髪のところだった。
ボクはすかさず持っていた武器を相手めがけて振り下ろした。
「うおおおおっ!」
「そんな攻撃……何!!?」
相手はかわそうとしたがそれが裏目に出たらしく、脳天にまともに食らってしまったようだ。
「ぐっ…」
相手はふらつきながらもまだ武器を構えている。
「やるじゃねえか…だがまだだ!おらあっ!!!」
相手の攻撃はボクの左腕に直撃した。
「うわああっ!!!」
ボクはたまらずよろめいたが、主人はニヤリと笑っていた。
左腕の痛みに苦しみながらもボクは懐に忍ばせていたものを相手に投げつけた。
「何!?」
相手は一歩下がったが意味は無い。
ボクが相手にぶつけたもの、それは相手を痺れさせる粉だった。
それをまともに吸い込んでしまった相手は体の痺れと疲れが重なったのか、片膝をついている。
その表情はかなり苦しそうだ。
「よし!とどめだ!」
ボクは武器にすべての力を込めて相手にぶつけた。
「ぐわあっ!!」
相手は完全に倒れこんだ。
ボクは勝ったんだ…初めて…!
主人と喜びを分かち合おうとしたその時だった。
急に戦いの場としての空間がねじれ、相手の顔もねじれで見えなくなってきた。
けれども一瞬見えた顔にはボクと似て困惑しているようだった。
僕は戸惑いながら辺りを見回したが空間のねじれは止まらない。
何が起こっているのかもわからないまま、ボクは気を失ってしまった。
……しばらくして、ボクは目を覚ました。
勝ったはずなのに、主人は怒っていた。
その表情には怒りの他にも何かを失った悔しさが混じっているようにも思えた。
おかしいなと感じてボクの戦績を見てみると、勝ち星は無かった。
かと言って負けたわけでもなかった。
いや、『その戦い自体が無かった』ことにされていた…
何が起こったのか、ボクにはわからないけれど、ボクの左腕には確かに相手と戦った傷跡が残っていた。
その痛みと共に…
何が起こったか解った人もいるかもしれません。
実際にゲーム世界でこの状況に対峙した時、その戦士たちはこのように感じるのかもしれませんね…
所詮ゲームだと感じる人もいらっしゃるかもしれませんが…