8話
陳留・謁見の間
「さて、あなた達は成り行きとはいえ私の客人。部屋を用意するわ。どれくらい滞在できるのかしら?」
うーん、とりあえず華佗に会って、頼みごとをしないといけないし、路銀も稼がないとな。
あとは部屋を用意してもらった分の礼をしないと、、
「とりあえず、7日程度はいようと思う。部屋を貸してもらう礼もしたいので。」
「あら、客人として招いたのは私よ?客人をもてなすのは当然ではないかしら?」
「たとえどのような形であっても、恩を受けたのであれば、それなりの礼を示してみせるのが人としての道。ただ相手からの施しを受けるような恥知らずな真似はできない。」
「ふふっ、そう。なら、何をしてくれるのかしら?あなたは武官のようだけど、流石に兵の調練なんかは任せられないわよ?」
そりゃそうだ。
「いや、俺はどっちかっていうと戦ってるより、都市計画練ったり、農耕指導したりとかの文官仕事の方が好きなんだよな。」
「「「「「はぁ!?」」」」」
雪蓮や祭さんと新しい酒作ったり、冥琳や穏たちと建業の街をどうするか考えてる方が、戦してるより生産的だし、なにより呉のみんなの笑顔につながる。
「だから、そっち方面でいくつか案を出させてもらうよ。たぶん悪いことにはならないと思う。ただ、短期的に成果がでるものではないから、その点は申し訳ないんだけど、、」
「あっきれた、、貴方あんな武があるのに文官仕事の方が好きだというの?」
驚き顔の曹操がこちらに問うてくる。
見てみると周りの人もみんな驚愕の表情をこちらに向けている。
でも、そんなに驚くことか?
冥琳も穏も亜莎も、呉の軍師たちはみんな、武もかなりのものがあったぞ?
「まぁ、そっちの方が性に合ってるってだけさ。あぁ、それと貴女は相当な美食家らしいから、貴女の知らない、俺のいた世界の料理でもご馳走しましょう。」
「へぇ、それは面白いわね。果たしてこの私の舌を満足させられるものをだすことができるのかしらね。」
なんか、自分でハードルあげたような気もするけど、まぁ、いいか。
祭さんに教えてもらって料理の腕もかなり上がったし、そのおかげで色々と再現できたものもあるしね。
「まぁ、あまり期待しないで貰いたい、、」
「ふふっ、そんな言葉は聞けないわ。それでは4人ともここにいる間は好きに街に出られるように手配しておくわ。度を越えない限り、自由にして貰って構わない。ただし、夜は必ず私と夕食をともになさい。旅の話を聞かせてもらいたいわ。」
うわー、すごいこと言うな、この人。俺たちがなにか仕出かしたりすると思わない、、んだろうなぁ。どんな器の大きさだよ。
などと思っていると、案の定
「華琳様!こやつらをそのように自由にさせてはなにを仕出かすか分かりません!お考え直し下さい。」
夏侯惇が噛み付いたなぁ。
まぁ、当たり前だよな。
「あら、春蘭。あなたはこの者たちがそんなことをするような愚か者に見えるのかしら?それにもしそんなことをされて、私がそれを見逃すと思うの?」
「いえ!そのようなことはありえません!」
「なら、問題ないじゃない。秋蘭はどう思うのかしら?」
曹操がそう尋ねると、青いショートカットの落ち着いた雰囲気の女性が、口を開く。
「この者たちが、そのような愚かなことをするとは思いませんが、城内にいる間は誰かが側についているのがよろしいかと。突然やってきた者が城内をふらふらしていては、兵に示しがつかないかと。」
流石に夏侯淵は冷静だな。
「それもそうね。秋蘭の言うようにしましょう。では、2刻後に夕食にしましょう。折角客人が来てくれたのだから、宴を開きましょう。それまではゆっくりしていなさいな。」
「そうさせてもらうよ。あ、それから明日少し厨房を借りてもいいかな?何品か出そうと思うんだけど。」
「構わないわ。ついでに材料も選んで来たら?秋蘭、明日は北郷と街に行って色々準備して来なさい。あなたにも腕をふるってもらうわよ。」
「御意。」
「春蘭は出ていた兵を纏めて、後で報告なさい。」
「御意!」
「では、解散しましょう。ふふっ、楽しみにしているわよ、北郷?」
曹操はそう言ってこちらに笑みを向ける。
「あのー、曹操様ー。」
解散と思われた矢先、程立が声をあげる。
「風たちは何をお手伝いすればよろしいですかー?」
「あら、あなた達も何かしてくれるの?」
「さっきお兄さんが言っていたように、風たちも礼ができない恥知らずにはなりたくないのでー。」
「あ、いや、俺が君たちを巻き込んだようなものだし、ゆっくりしていてくれれば、、」
俺が勝手に口にしたことで連れてこられたようなものだし、何かさせるのは申し訳ない。
「いえいえ、先にちょっかいを出したのは風たちですしねー。その上、色々面白い経験をさせて貰っているのに、さらに相手に甘えていてはそれこそ恩知らず。お兄さんは風たちを礼を返すこともできない恥知らずにしたいのですかー?」
程立がそう言うと、趙雲と郭嘉もうんうんうなづいている。
「いや、そういうわけじゃ、、」
「ふふっ、貴方の負けみたいね。とは言っても、この地のことをよく知らない者たちにいきなり仕事を振るわけにもいかないわね。」
そういうと、曹操は少し思案し、
「北郷が何か考えて持ってくるようだから、その手伝いをしてあげなさい。貴女たちにもいい経験になるでしょうし。」
「これはこれは、風たちのことまで考えていただけるとは、ありがとうございますー。」
「誠にかたじけない。」
「ありがとうございます。」
あれ、なんか決まってる。
「というわけで、よろしくお願いしますねー、お兄さん。」
程立は薄く微笑んで、
「某も宜しく頼む。」
趙雲はニヤリと笑って、
「私も力を貸しましょう。」
郭嘉は凛とした表情で、そう言って、俺は彼女たちに手伝ってもらうことが決まったのだった。
なんでこんなことになってるんだ、、?
まぁ、それよりも、
「曹操!できれば今日中に華佗に会わせてもらいたいんだけど、、」
「そういえばそうね。華佗をすぐに呼ぶわ。自分の部屋で待ってなさい。」
そういって曹操は玉座の間から去っていった。
さて、明日は程立たちとどんな案を纏めるかを話さないといけないし、夏侯淵と街に食材を買いに行くからさっさと休もう。
なかなか進まなくてすいません。陳留はもう少し続きます。その後はある程度、一気に進む予定ですので。