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6話

「そこの者達!」


美しい黒髪をオールバックで纏め 、なぜか一房だけとびだしたアホ毛をもつ少女-夏侯惇、真名は春蘭-が、騎馬の先頭で走り寄り、馬上から声を発する。


対する星、風、禀は思わず頭をかかえそうになった。

世の見聞を広めるとはいえ、立場を鑑みれば、何の地位ももたない人間が貴族の子息ともいえるような衣服を纏った人物とともにある。


さらには、近くに賊の死体があり、周囲が道を外れた平原だというのが厄介だった。


どれか二つ、いや、一つがその条件から外れていたとすれば禀と風の智謀によって、簡単にこの窮地をまぬがれ得たかもしれない。


だが、実際は、

状況は自分達に告げている。


即ち、貴族の子息を攫おうと護衛を殺し、諍いをしている自分達3人と男。


賊の一味として処断される、、という覚悟さえも考え始めた三人の横で、


一人の男が声をあげた。


「如何なる用向きがあって我らを呼び止めた。もはや衰え、腐りかけた龍でしかない漢の犬ごとき官軍が何を問いたいのだ?」


「「「「なっ!?」」」」


聞いていたもの達は兵はおろか将ですら絶句する。

この時代、皇帝は神、存在は絶対。神に刃向かうものは殺し尽くされる。神は抗ってはいけないものである。

それが庶人の常識であり、いくら先を見通すことのできる者が、王朝の滅びを感じとってはいても、公然と口にしていいものでは絶対にないのである。



「貴様!天子様を、我等を侮辱するかっ!その頸すぐにうちとってやる!」


「待ちなさい!春蘭!」


「か、華琳様!」


「待ちなさい、春蘭。これは命令よ。」


「ぎょっ、御意」


その場に現れた小さな少女は、他者に自然と頭を垂れさせるような覇気を身に纏い、左右に括り、螺旋の形に纏めた美しい金色の髪を揺らしながら、


「さて、一体どのような考えから今のような大言を吐いたのか」


聞かせてもらいましょうか。

と彼女がその男にその芸術品のように整った顔を向け、自信の現れである笑顔をもって、その男の目と目を合わせた瞬間、


覇王、曹孟徳は自身の頸が刎ねられたと感じた。


「えっ?」


彼女らしからぬ、思わずでてしまった、といった言葉を漏らし、自分の頸に手をやる。


繋がって、、いる?


彼女は自身が生きていることを疑問に思い、そして、屈辱に身を震わせる。


覇王たらんとしている私が、初めて会った者、しかも男相手に自分の頸が落とされると思ったというの!?


ありえない、ありえないわ!


しかし、その屈辱と怒りが彼女に大きな好奇心を抱かせる。


この男は一体何者なのだろう。


「あなたは一体何者?名を名乗りなさい!」


そして、その瞬間、男からとてつもない怒気が迸った。





曹孟徳っ!!


何度その姿に怨嗟の声をあげただろう。

何度その頸をとらんと戦場を駆けただろう。

雪蓮を救い、冥琳を救うために何度外史を繰り返し、


そして、


彼女達の死を目にしてきただろう。


自身の怨敵とも言える相手に対し、凄まじいまでの怒気を発し、その怒気に当てられた兵は次々と腰を抜かし、春蘭と星は無意識に武器を構える。


そして、覇王はほんの僅かに顔を歪めたものの、小柄な体躯から圧倒的なまでの覇気をだし、悠然と

一刀に相対してみせる。

両者が互いを見据え、場の緊張感が高まっていく。


だが、唐突に一刀が放つ怒気が消え、凛とした、しかし落ち着きをもった声で告げる。


「自身の名も名乗ることなく、相手の名を求めるか。器が知れるぞ。曹孟徳。我が名は北郷一刀。貴方達が天の御遣いと呼ぶ者だ。」





男-北郷一刀といったわね-が言葉をを発すると周囲の兵がざわめく。そして、


「貴様ぁっ!華琳様を侮辱するか!」


春蘭が剣を振りかぶりながら、前へでる。


「春蘭!やめなさい!」


「しかし、華琳様!」


「剣を引け!私の命が聞けないのか!」


「はっ、はいっ」


全くこの子は、、

いくらなんでも先走りすぎね。まぁ、そういうところも可愛いのだけど。

でも、今はそれよりも、


「此方の非礼を詫びるわ。我が名は曹孟徳。陳留の刺史をしているわ。もっとも名乗らずとも私のことを知っていたようだけれど。」


この男だ。





曹孟徳から覇気が溢れるのを感じ、血ののぼった頭が僅かに冷える。


落ち着け。雪蓮や冥琳、そして蓮華達、彼女たちのために、彼女達の未来の為に呉での生を捨て、曹魏に下ると決めたのではないのか。

自分の怨みのために、呉の未来を捨てるのか!

それだけは絶対に許すことはできない!


呉の愛する人達の笑顔を思い描き、自分のドロドロとした感情を抑える。


そして、北郷一刀ではなく、王の隣に立つ天の御遣いとして言葉を放つ。


「自身の名も名乗ることなく、相手の名を求めるか。器が知れるぞ。曹孟徳。我が名は北郷一刀。貴方達が天の御遣いと呼ぶ者だ。」





「天の御遣い、、ねぇ?」


管路とかいう占い師が言っていたあれかしら?

占いなどというものに興味もないし、信じる気などさらさらないが、、


「そんな胡散臭いものであるという証はあるのかしら?」


この男を計る試金石になってもらいましょうか。


「証、ねぇ。」


男が薄らと苦く笑む。そして、挑む様な笑みを浮かべて此方に言葉を吐く。


「どのようなものが証となるだろうか?そこで此方を睨む、魏武の大剣、いや、今は曹武の大剣か。

夏侯元譲に一騎討ちで勝てばよいのか、それともあちらで警戒している夏侯妙才に弓で勝負し、勝てばよいのか。それとも、魏の覇王、曹孟徳と大陸の行く末とその在り方について論議し、貴方を屈服させればよいのか。さては、天の知識でもここで示し、度肝を抜けばよいのか。教えてくれないか?」


「なっ!?」


この男は一体なんなの!?

春蘭の名を当てたのはまだあり得ないとはいえない。

でも、目の前に姿を現していない秋蘭の居場所を見て、その名を当てる。なによりも、まだ、春蘭、秋蘭にさえも言っていない、私の頭の中にしかない国の名、魏を知っている。当然の知識のように。


この男は何故、、


「貴様ぁ!華琳様を侮辱しただけでなく、私や秋蘭に勝つだとぉ!そのような言葉、もはや許してはおけん!華琳様!どうかこの者を切り捨てるお許しを!」


「春蘭!よしなさ」


「主の会話に割って入る愚か者が。彼我の力の差もわからんか。」


「きっ貴様!」


「いいだろう。少し相手になってやろう。曹孟徳、腹心に多少怪我を負わせてしまうかもしれんが、許してくれ。」


「あっ貴方、春蘭と戦うつもりなの!?言っておくけれど、春蘭は」


「知らぬはずはない。曹魏における武の象徴。曹孟徳の片腕。」


「知っているならっ!」


「だが、まだその武は未熟だ。」


「え!?」


春蘭の武が未熟ですって!?

確かに猪突猛進なところはある。けれど、その武は私の知る中でも間違いなく一、二を争うもの。

それを未熟、、?


ふふっ、面白い!


「そう。ならばその大言を示してみせよ!春蘭!一騎討ちを許すわ。ただし、殺すことは許さん!必ず生かして捕らえよ!」


「御意!」



さぁ、見せて頂戴!

あなたの全てを!
















相変わらずの春蘭さんでございます。

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