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義務だから

リュティシア視点


「こん、いんのぎ・・わたし、は、やれますーー」


痛みで覚醒した体に顔をしかめながら、

私は王子に向かって声を紡ぎだした。


話は、ほとんど聞こえてしまっていた。

朦朧とした意識が浮上して、

耳に遠くから吹くように意味ある言葉の羅列が流れ込んできていたのだ。


切羽詰った陛下らしき声と、

なぜか必死に私の容態を知らせて止めようとする殿下の。


婚姻の儀 という言葉に、私はハッとして意識を傾けていた。


「!?なに、いってる?今のお前にできるわけ無いだろっっ」


王子は私が意識を取り戻したことでかなり動揺していた。

声が震え、どこか平常心を失ったように声を上げ、焦っていった。


「なんだ?姫が目を覚ましたのか?」

「おいーーどうなってる」


受話器の向こうで陛下の困惑した声が聞こえた。

しかし、殿下には聞こえてないように思えた。


そのまま私に、説得するように声を張り上げる。


「第一、回復が間に合わないっ!もし、儀式の最中に倒れたらーー」


「だいじょうぶ、ですっ、

意識は絶対に手放さないし、たおれま、せんっ」


痺れて痙攣する左腕に右手をあてがいながら、彼に主張した。


「何故、やろうとする!?一度はお前を拒絶したこの俺との婚姻の儀なんかにっっ

何故無理してまでーーー」


彼は私に責任を感じているようだった。

彼の蒼い瞳が揺らぎ明らかに動揺し、焦っている。

彼の瞳には、痛みや辛さに必死に抗っている自分の痛々しい姿があった。


「義務、だから・・です。」

「!」


私の言葉に彼が息を呑んだ。目を瞠って私を凝視する。


「私は、巫女という立場だけをーー考えていました。

だから何をかも投げ出して神山に向かったのです、でもっ」


「」


「でも!意識が戻るとここにいて、殿下方の話を聞いていて気づきました。

私は、私が出て行ったせいで、王女としての責務を全うしてません。

今、そのつけがきています。私にはこの責任を果たす、義務があります。」


「義務・・?一度は投げ出したモノを責任取るつもりなのか!?

そんな状態で?」


信じられないようなものを彼は目にしているかのように呟いた。

実際にはそうなのかもしれない。


巫女を尊重した私が、本来なら意識を取り戻せはしない状態で

舞い戻って王女としての義務を果たすということを。


「殿下も義務があるでしょう?だから私を捕まえにきたのではないですか?

ーー私もそれを、果たそうとしているだけです。」


「----」


彼は瞳の奥を動揺で揺らしてしばらく、私を見つめていた。



***ヴァル視点


「」


目の前にいる傷ついた彼女が、義務だからと

無理してまで主張していた。俺はそのことに少し衝撃を受けていた。


なぜこうも積極的になれるか分からない。


俺は、巫女の掟の厳しさを最近知ったばかりだ。

それはかなり拘束力のある・・いうなれば人生を縛る鎖だ。

その鎖に彼女はずっとこだわっていたはずなのに、巫女の矜持を。


次は、王女として渦巻く鎖にこだわろうとする。


自分を過酷な道へと追い詰める彼女の姿を俺は見るに耐えなかった。

けれど、それしか窮地を脱する道が無いのだとしたら?


現に婚姻の儀はもう延長できない。

残された時間はあと数時間。


俺は彼女を手助けする以外にやることはないのでは?


彼女ばかりを辛い目に合わせてしまう自分に苛立った。

おれのせいのはずなのにと悔やむのを、


彼女に気取られないように俺は彼女の主張を受け入れる決意をした。

受け入れることが、今、王子()にできる義務だと自分に言い聞かせる。


***


「ああ、義務だ。王命だったからな・・。

だが、今のお前では婚姻の儀まで体も意識も持たないはずだ。

何か、方法があって言ってるんだろうな?」


彼は自分に言い聞かせるようにつぶやき、

落ち着いた口調で私に問いかける。


ようやく落ち着いたようだ。

義務 という言葉が頭を冷やしたのかもしれない。


「はい。それを言う前に、聞いてもいいですか」


「何だ」


じっと彼が私を見つめる。

その瞳は真剣だった。


「殿下は、巫女について知っていますか。

巫女と人間の生態の違いを」


「・・あまり覚えていない。

核とするエネルギーが根本的に違うことは知っているが」


彼は、眉をよせてそう答える。


やはり、興味ないことはすぐ忘れてしまうのだろうか。。


私は彼が無関心で有名だったことを

ぼんやりと思い出してそう思った。


ーー

彼が事前に二日かけて調べてることを全く知らないのは当たり前のことで、

彼が覚えていないという表現を使ったのは、

巫女の掟を知った衝撃で、記憶が抜け落ちたからなどということも知らなかった。


    --


「そう、です。生粋の人間である殿下方の、核にある原動力はーー

生命エネルギーと魔力が、対となっています。

一方、私達巫女は・・、いえ、私個人は、生粋の巫女の魂を持ってるので、

核にあるのは、魔力単体です。」


「・・とすると、

お前の今の状態はやはり危険じゃないか・・っ」


私の説明に彼は眼を見開いて

私の魔力を探りそんな不安そうな顔をする。


「そう、なりますね・・だから魔力の消費は命の危険につながってーー」


「そんなことわかってるから、はやく説明しろ」

「は、はい。」


ずいっと私に体を近づけて、有無を言わせない口調で私を壁に追い詰める。


ちかい、ちかいよ・・でんか。


そんなこと思いつつも、うなずいて、


「危険といっても、今の私なら、足輪をはずせば、多少は楽になります」


「足輪・・?」


「はい。魔力抑制用のわっかで、

--私の魔力の最大値はおそらく殿下の三倍くらいなのでこれがないと・・」


巫女の魔力は大きい。しかも魂が核にあるから余計だ。

殿下も人間にしては魔力が大きいほうだ。


「俺は抑制器具が無くても気配は消せるが、--お前はダメなのか」


「四つ、してないと、気配は完全にーー消せません。

だから常に四つしてます。抑えた魔力は器具をはずさないと使用できませんが、

器具したままでも私が使用できる魔力の量はたぶん、殿下くらいかなと」


「!そんなにあるのか・・」

「だから、二つはずせば、少しはーー」


今、使える魔力は残りわずか。

そんなわずかな魔力でさえフルで活用しているのは

生きようとする心の臓と腕の治療だった。


「わかった。足輪だな。」

「?」


勝手に彼がうなずいた。

そしてすぐさま私に命令する。


「はやく足をあげろ。俺がはずしてやる」

「ぇ?」


彼が何を言ってるか、すぐには理解できなかった。


「おい、はやくしろっ」

「っ、なにをーー」


命令じみた声を上げられ、

思考がショートしてるうちに彼が苛立ったように私の両足に手をかけるーー


「!?」


びくっと身体が跳ねた。

思いのほか彼の身体がすぐ近くにあって、壁に体を寄せる。


私の肩を片手でゆっくり抱きこむと同時に

膝裏に手をかけられて、ひょいっと足を上げられる。


「!!」


「すぐ外したほうがいいだろ」


彼は固まってる私を馬車のソファに完全に足まで乗せて、足を折り曲げながら

長いソファの隅の壁にそっと委ねさせる。


なんとも器用な男だった。

もう、足輪に触れて今にも外しそうだーー


「わ、わたし、じぶんでーーー」


右手で彼の手を払いのけようと手を伸ばしたとき、

すっと、軽く手をつかまれながらーー


「片手だけじゃ無理だ。

それに、こんなにも熱い・・」

「っ」


彼が私の右手を撫でるように触れて呟いた。びくっと手が震える。

彼の手はひんやりと心地よいくらいに冷たかった。


ちらっと私を見てさらに


「お前、熱もあるのにーー分からないのか?」


上目遣いで不思議そうに尋ねられた。

蒼い瞳が純粋さで満ちている。

そんな瞳がーー私を見上げて・・


「----」


思考が一気にショートした。

それに答えることすら言葉が出ない。

ドキッと心臓が跳ねるのを無視したくて仕方がなかった。


「高熱すぎて分からないか?

まあ、無理もないが・・、外すぞ」


私が黙っていることは追求せず純粋に不思議がって

そのままカチャリと両足首にある二つの足輪を外された。


足首を重くしていた負荷が取れて開放感でいっぱいになる。


「あ・・っ」


魔力はすぐに体に吸収されていった。

心臓や傷口・・体全体に開放された魔力が惜しみなく使われ消耗していく。


足輪二つ分で抑えてた魔力は瞬く間に使われていき、

その余韻に私が浸っているとき、


「まだ、足りないだろ。お前、まだーー」


ーーー危険な状態だ。


彼は、目を細めて呟かれ、低く囁くように言葉を繋いだ。


「っーー・・」


自分でも、それは分かっていた。

彼を直視できず、視線をそらして呻く。


「その二つの腕輪は外せないのか?」


私の足をソファの下に戻して、

彼が何か期待をこめて私の腕輪を指摘する。


「これはーー、この二つの腕輪で抑えてる魔力は殿下たちで言う、

生命エネルギーの代わりのようなものなので、

これは命の危険が近づいたら勝手に外れる仕組みになってるため

だから、外すことはーー」


腕輪はいざというとき・・なんて肩書きで、確かに意図的には外せない。

けれど、これは“巫女の矜持を忘れさせないための足枷のようなもの”だった。


魔力の暴走を止める最終手段に使われて、以降そのまま。

巫女にとって、魔力の暴走は掟を破りかけたにも等しい。


「そうか・・。他には

まだ方法はないのか?お前の魔力を回復させるためにはーー」


「・・・これ、は、あまりにも他力本願なので、

言いたくないけれど、ひとつありま、す」


私はちらっと彼を見て、再び視線を逸らし、答えた。


そう、これは最終手段。

私が最も嫌ってる手段。


でも義務だから、

そのためには、協力してもらわないとーー


「なんだ、その方法は。

なんでもいい、言え」


最初のときとは打って変わった彼の献身的な態度に

少し、まゆをよせながらも、私は口を開く。


「魔力を他者から注入してもらう方法です。

ただこれは相手もかなり疲労感が出るようでーー」


「俺がやる。」


率先して迷い無く彼が答えた。


「!」


「お前が倒れたら困るんだ。

それに俺しかできないだろ。どうすればいい?」


眼を見開く私に彼はそう言ってのけた。

俺様で身勝手で強引でーーなのに

どうしてこう・・言葉で表現しきれない発言と行動ができるか私には理解不能だった。


「血管の張り巡らされている場所が一番伝わりやすいので、

わた、しの・・首筋か・・もしくは、手の甲にキスを・・。

唇に魔力をこめれば、自然と私に流れるはず、--です。」


巫女は電磁石のようなものだ。S極もN極も相手次第で変えられる。

人間よりも魔力回復にぴったりな方法だった。


ただ、一番魔力を多く早くに伝えるなら、

恋人同士で行う親愛のキスか、もしくは夫婦の間柄で行う夜の枷だというのは、


絶対に言いたくなかった。

私は、人に触れられること自体、好きではない。

足輪を外されるときでさえ、声にできない恐怖と震えが中で渦巻く。


「わかった、首筋だな。」


彼はそう言って私の肩を抱き寄せて、すぐさま首筋に顔を埋めた。


「!」


びくんっと身体が震え、

退けようと無意識に身体が逃げ出そうとした。


「動くなよ」


低く優しげな声で囁かれた。


その声にびくっとしつつ、震えをとめるかのようにぎゅっと反射的に目をつぶった。


抱き寄せる腕は逞しく、

それでも優しく労わるように私に触れなおしてくれる。


「」


ふわっと彼が私の首筋に柔らかな唇をおしあてた。

そのまま魔力が私の中に暖かく流れていく。


長く長く彼は私の首筋に口付けていた。


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