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騎士だから

彼女を抱きかかえて、俺は馬車に乗り込んだ。


「」


彼女を馬車の奥にそっと下ろして、

そのそばに乗り込んで腰をかける。


バタンッ

ドアを閉めて、それを合図に


「では、行きますね」

「あぁ」


ガタガタと揺れて馬車が動き始めた。


「」

「」


パカッパカッパカッーー


馬車の走りが安定になったところで俺は救急箱を取り出した。

中身は 消毒液、ガーゼ、包帯・・など用意周到だ。


「やるか」


中身を確認した後、

俺は彼女の左腕を消毒液で傷の周囲から慎重に消毒し始めた。


こびりついている血を液体と布でぬぐっていく。

消毒の独特な匂いがツーンッと鼻に突く。


「つっーーー”」


時々傷口に当たるのか、彼女が顔をゆがませて呻いた。

右手でこぶしをつくってぎゅっと耐えている。

左腕は動かそうとしても動かないようだった。


指先から肩まで痙攣を起こして、ビリリッと電気をわずかに帯びている。


「--ガマンしろ」


俺は小さく囁いて、傷口をすばやく消毒し始めた。


「っっ”うぅ”--っ」


辛いのだろう。

ぎゅっと目をつぶって、呻き耐えようとしている。


「」


傷の中心部に消毒液で湿った綿を当てると、

彼女の身体は我慢出来ずに、暴れだした。


「っ”!っぅ~~~!!」


右手が縋りつく様に左腕に伸ばされる。


「やめろっーーもう終わる」


右手首をつかみ、背もたれに体を押さえつけて呟く。

そして、すばやく消毒を済ませた。


手際のよさは早いほうだと、自分でも自負している。

痛みが早く遠のくように、魔法で治癒を施しながら行った。

そういう工夫は“騎士だから”できることだ。


「っー”、ぅ、はぁ・・、っはぁーっ」


消毒を終えてガーゼで傷口を保護し、包帯をガーゼの上から巻きつける。

消毒の痛みが薄れていくと、彼女は肩で息をしはじめた。

かなり呼吸が乱れてる。


「っー・・っーー、っーー」


治療を終えて、額から吹き出る彼女の汗をぬぐってやると

彼女の息は次第に整っていった。


「」


これであとは専門医に直してもらうしかないな。

特に、毒は・・麻痺がらみの類だろうし。


そう分析して、彼女の表情に視線を向けなおす。

治療間の疲労や熱もあってか疲労困憊な表情だ。


「ーー・・」


魔力も、奪われた・・か?


彼女の魔力の気配が以前よりも小さくなっている。

湖の中に入ったとたん、消耗は激しくなった。

今は、今にも消えそうなロウソクの火のよう。


クロウとグレイも魔力は消費していたようだが、

それほどでもなかった。


「-----」


一時間ほどもんもんと俺は考えた。

謎が多すぎる。


考えても考えても分からない答えに苛立ち、

俺は過去を振り返った。


そうだ、まず、こいつが出て行ったあとが問題だった。


***


彼女が出て行ってから、

側近が、俺を説得し始めた。


「何おいだしてるんですか!?」

「一国の姫ですよ??」

「陛下になんていうんですか!!」


扉越しにそう叫ばれて俺もいい気はしない。

だがそれ以上に、本当に出て行った巫女姫の行動力に驚いていた。


俺もそれだけの行動力がほしいと思う分、逢いたいと願うルティに思いが募る。


「陛下に、言いつけますからね、」

「どうなってもしりませんよっ!」


側近は俺を説得するのを諦めたのか、早々に陛下の下へ向かった。


「勝手にすればいい。俺も抵抗してやる。」


俺の隣は、ルティをおきたい。

今ならそれを実行するために、あいつを追い払えるはずだ。


俺はその時、そんな決心をしていた。


しばらくすると、アイクが現れた。


コンコン


静かなノックに俺は視線を扉に向かわせる。


「団長、陛下がお呼びです。」


アイクにイヤだと言っても、アイクが困るだけだろう。


「ああ、わかった。今から行く」


俺は立ち上がり、部屋を出た。

アイクが呆れ半分でこう言う。


「一体なにをなさったのですか、団長」

こんなに事件を大きくして。


アイクはまだ事情が呑み込めていないようだったが、

それでも俺がわがままを突き通していることは察したのだろう。

そして、姫の気配が、すでに城にないことも。


王の間に向かいながら、


「アイクはもう分かってるんじゃないのか?

どちらにせよ、直に分かるだろうがな」


俺はそう答えにならない呟きを返す。


そうして

着いた王の間の扉をガチャッと開けた。

そこには王と王の側近、俺の側近がいた。


「ヴァル、

お前、姫を追い出して何様のつもりだ」


王が鋭い目つきで俺をにらむ。


「陛下は知ってるはずだ。

俺には探している人がいると。」


俺は負けじと言い返した。


「ほぅ、お前は追い返して

隣が空いた状態になったのを喜んでいるわけだな。

お前は困らないわけだ」


「俺には何も困ることはない。

困るなら、陛下たちが探しに行けばいい!」


「そうだな、今のお前にはまだ困ることは無いだろう。

まだ・・な。では、お前の側近と、

手の空いてる騎士達に姫を探しに行って貰うとしよう」


王はそう言って、側近と騎士頭に姫捜索隊をつくらせた。

そして出発させる。


「まだ・・ってどういうことだ・・・」


俺はつぶやいた。何かが頭に引っかかる。

だがこの状況は俺にとっては都合のいいことだった。


「ヴァル、お前には一週間、調べてほしいことがある。

もしその間、姫を保護できないなら、お前が出向け、これは王命だ」


王は基本、王命を使わない。

だが、一週間も異国の姫を保護できないとなると色々問題が生じるのだろう。


王命なら俺はそれに従うしかない。

不本意であってもーー俺は騎士だから。


「調べてほしいこととは、なんだ?」


俺は頷いて、さっそくきいた。


「お前が追い出した、隣国の姫のことについてだ。

余の執務室の隣にある書斎に色々載っているだろう。

一週間、余の傍で調べて理解しろ。

お前が姫を追い出したことを後悔するくらいにな」


「後悔だと?そんなのするわけがない。だが、どういうことだ。

さっきも、まだと言っていた。あれはーー」


「最後に、一週間の終わりに

それでもわからない鈍感なお前に教えてやろう。

それまでは言わない。分かったな」


王は俺の返事を待たずに、王の間を去った。

そのときの表情は、面倒なことになったという疲れた表情と、

何か悔やんだような瞳の色をしていた・・。


「ー?」


それがやけに心に印象づく。


それが引っかかりながらも、俺は姫について調べ始めた。


一日目、隣国についての情報の載る本と

そうでないのを分別するのにてまどった。


二日目、量が多く、

今回と無関係にある隣国の地理や歴史の本を読むことになってしまった。

三日目も同じ。


四日目、巫女について読み漁った。

五日目に同じ。


そこで巫女の掟を知った。


六日目、隣国王家の歴史を知った。

最終日の七日目、姫のことについて記す場所を見つけた。



「っこれ、はーーー」


目の前にあるのは、今の姫の肖像画。


髪色は銀に紫がかかったような綺麗な色で、

瞳も同じように銀に紫の瞳。


それは、俺が逢いたいと願った人の髪色と瞳の色だった。

でも、顔立ちは全くあの時と変わってる

・・同一人物のはずがない。

同一人物のはずがーーー俺が逢いたい人とはーーー


「やっと、みつけたか?ヴァル」

「陛下!これはーー」


突然王が現れた。

そして全て悟ったかのように問いかけられ、思わず、本を見せる。


「お前が探していた人はこの娘じゃないのか?

余がせっかく親心で正妃にこの娘をやろうと思ったのに

お前はあの娘の姿すら見ず、気付かず、追い払った。」


「!!あの声は違うっあんな声じゃなかった。

あんな性格でもないーーっそれに名前も違う。

俺が逢いたいのはルティだ!」


もっと明るい声だった。もっと華やかで、あんな冷たい声と性格ではなかった。

名前だって、違う。


「そう、お前の聞いた名前とは違う。

でも、お前らが会ったときは幼かった。

彼女がリュティシアという長ったらしい名前を言い切れる年ではないだろう。

それに、余はその娘の親に聞いた。本名はリュティシアだ、まぎれもなく」


「!!じゃあ、俺が追い返したのはーーー」


頭をガンッと金槌で叩き割られたような衝撃が走った。

後悔と焦りが中で沸騰する。


「そう、お前が逢いたいと十年も恋焦がれた娘だよ」


「っ!!けど、それが本当なら、あいつの変わり様はーー」


その真実が衝撃的だった。

頭では理解したのに、心が追いつかない。

心は否定していた。

あんな華やかで隣にいると楽しくて明るかったのに、じゃあーー


「王家の歴史を見なかったか?代々巫女をやっている。

それに、噂なども書かれていただろう?今の王妃は病で狂っていると」


「!!」


「狂った教育を受ければ、心は凍ってしまうさ。

月の様に美しく、太陽のように華やかな性格であっても、な」


「!!それで、あいつはーー」


あいつは、本気だったのか!!


俺はぎゅっとこぶしを握り締めた。


親に捨て駒にされ、

なおかつ、巫女であるから、拒絶を受け入れて神の山にーー。


「今日が最後だ。

もう下に騎士が待たせてある。保護しに行って来い」


「俺はーーまだ同一人物だと信じることができない。信じられない。

だが、王命だ。騎士だから、行って来る。」


本当はどこかで同じであることは頭では悟っていた。

けれど心が認めるわけにはいかなかった。


でも俺は騎士だから。だから、行って来る。


俺は王に背を向けて、すぐに騎士達と共に彼女を追いかけた。


未開の地で合流した犬に俺が自ら命じて彼女を追跡する。

やっと、湖に追い詰め、俺は空から彼女を見ていた。


彼女の目の前に降り立って、


改めて姿を目にして、衝撃を浴びる自分と、

話しかけて会話して、違うと言い張る自分とがーーー心の中で相対した。


***


そうして今は、これから知っていけば良いと思った。


そこまで振り返り、最初から王が教えてくれれば

追い返すことは無かったのにと責任転嫁する余裕が出てくる。


そんなときだった。


プルルルルーー”プルルルーー”


通信機に電話がかかった。


「もしもし」


電話に応対すると、


「おおヴァルか、よかった。

急だが今夜、お前と姫との婚姻の儀をしなくてはいけなくなってな。」


と、思いもよらぬ爆弾が一つ投下された。


「!?無理に決まってるだろ!彼女はそんな状態じゃーー」


「そんなこと言っている暇が無くなった。

城にお前の専門医をすでに用意してある。

それでも無理か?」


王もかなり切羽詰った状況のようだった。


「彼女は今、意識が無い!高熱と毒を追った怪我もある。

儀式中に倒れたりでもしたらそれこそーー」


俺は何とかして彼女の状態を訴えたがーー


「わた、しは、だいじょうぶ、ですーーー・・っ」


と、彼女が意識を取り戻し、突然そんなことを言い出した。


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