表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/9

掟だから

「っーー待て!」


「ワンワン

ウゥー”ワンワンッワン!!」


休んで魔力を回復する暇もなく、次の追っ手が現れる。


犬だった。


「っーー」


冷たい粉雪が強風に当てられ舞う明け方、

しょうこりもなく次の策を練ってくる王子の側近、・・他騎士たち。


今度は接近戦らしい。


「ワンワンッ」


全力疾走が続く中、それでも私に食らいつこうと犬は追いかけてくる。

騎士よりも手ごわいともいえる犬の執念深さはすさまじかった。


数日で私と走りは互角に追い込まれた。


ダダダダダダッーー


「っーー、っーー・・」


走るのが長引くにつれて強風も相対して

犬との距離は縮まっていく。


「待てーー!!」


遠くのほうから追いかけてくる人だかりもある。


「っーー」


つかまるわけには、いかないーー!


部外者につかまるわけにはいかないんだ・・。


 それは彼らに宣言した。


私は、神と伴侶にしか捕まらないと。

私の行動は崇高なる存在にこそ決定権が在る。

私の意志はそのすぐそばに存在しなければならない。


巫女は下々の者に屈する存在で在ってはならない!

それが掟だから。


「」


それを見せ付けなければ、きっとこのまま

この無謀な消耗するだけのおいかけっこは、終わらないだろう。



「!」


ダダダダダダダッーーーザザッ


私は少し距離を開けて立ち止った。すぐに後ろに振り返って、


「ワンワンワンッ!!」


襲い掛かろうとする犬の目をじっと見つめる。

黒い毛並みの犬と灰色の毛並みの犬。

どちらも走るのに長けた四肢を持っている。


「私を追いかけるのはやめなさい。

あなた達は私に逆らってはいけない」


「ゥウウ--”ワンワンッ」


二匹の犬が立ち止り、毛を逆立てて唸った。


僕たちも命令がある!と訴えてくる。

確かにそうだ。主人の命令は犬にとって絶対のもの。すなわち掟。


掟だから私を捕まえようとするんだ。

巫女()を。


「あなた達にはわかるはずよ!!」


スシャーーー!!


私の体に神光が溢れた。


巫女の魔力は神の光。

それは神聖で、何人たりとも侵すことのない穢れなき光。


それは間近で見る犬に主人より自分が上だと証明するものとなる。


「ぅー”・・クゥウンッわんっ」


犬は唸るのをやめて、伏せて頭を垂れた。


「おい!?何してるっ!早く捕まえろーー!!」

「どうした!?はやく捕まえるんだっっ」


「クゥウンッわんっわんっ」

「ウーー”わんっ」


後ろから騎士達の命令に、

犬達は耳を垂らし私に「行って」と急かした。


「あり、がとーー。

そう、それでーーいいのよ・・っ」


息を切らして私は頷いた。魔力の大半をこれで消耗した。


ツッーー、かなり、つかっちゃった・・っ


ズシリと体が重くなる。

今ので体に大きく負担をかけた。


「まてーー!!」

「犬が使えなくなったぞ、走れ!」

「おい、はやくおいかけろ、いまがチャンスだ!」


「っ!!」


スタタタタタタタッ

ッタタダダダダダダダダダダダダーー


足音が徐々に大きくなっていく。


遠くから追いかけてくる彼らに焦りを感じた。


ダダダダッーー

すぐさま背を翻して走り去る。


***



ーーそれから数時間後、


「はぁーっはあっーはぁっっ・・」


追っ手を撒くことに成功。


ちょうど見晴らしの良い木に登って一息ついた。


「まだ、--とお、い・・--」


神山を目を細めて見やる。

けど、神山までまだ距離はあった。


少し行ったところにある青々とした湖と、その奥にある雪の積もった森。


執拗に追いかけられて

何時間も走っったのは意外と距離を稼いでいたようだった。


「ちい、さいーー」


後方をみれば、自分の出発地点である二国間の国境が思いのほか遠い。

国の町並みが小さく見える。


--ユラッーーーグニャ・・


それが次第にゆがんで見えてきてーー


「っ、--”」


身体が重い・・。

まぶたも急激に重くなった。


魔力を光に変えて放出するのは

休息を要してた体には過酷だったのである。


ふと霞む意識の中で、

魔力使いすぎたな・・と苦笑する。


そのまま腰掛けて、意識を闇に落とした。



***


そして太陽が真上に昇り、

雪はやんで穏やかになった冷たい風が吹き付ける真昼間、


ザザザザザッ

ーーザザザッッーーザザ


なにやら探し回って動き回る足音が、私の耳に届いた。


「!!」


反射的にハッと起き上がる。するとーー


ーーグラッ”

「ぇっ”」


目を開けた瞬間、めまいが襲った。


瞬時に幹にしがみついて、その場をやり過ごす。


「っはぁっーーっっはぁーーっ」


それだけで息が上がった。

心なしか体もほてったように熱い。


「はぁーーっっーーはぁっーー」


何度か深呼吸して、呼吸を整える。

それでも身体は熱が収まるわけでもなく、熱を帯びたままだった。


「っ」


このままじゃ、つかまっちゃう。

部外者にーー、掟が破られてしまう・・--ー


それだけは何があっても許されることではなかった。

巫女の生きる世界は掟がすべて。

それに従うことで、生きることが許される・・そんな世界。


だから、部外者である天狼や騎士達に捕まることはーー


「--!!」


絶対・・、--避けなきゃ!!



ヒュンッーーシュタッッ”


意を決して私は木から飛び降りた。

ふらつくのを気合でカバーしながら神山へと走り出す。


「!?いました、団長!」


声が後方から聞こえた。


「っ!?」

しまった、逆に見つかったっっーー

応援を呼ぶつもりだーーまずいっ


頭をかなづちで割られたような悔しさが全身を覆った。

焦燥感が湧き上がる。


「みつけたぞー!全力で行け!!」

「アォーーーンッ」

「ヴゥーー”ワンワンワンッ」


次々と遠くで気配を抑えるのをやめた騎士が全力で

駆けて来るのを肌で感じた。


しかもその騎士より前に出た黒と灰色の二匹の犬が

殺気を私には放つ。


ぞわっと悪寒が背中を駆け巡る。


「っーー!?」


神光が効いていない?なんでーーー


ただただ殺気に焦って私は全力で走った。


この状況をどう打破するかなんて混乱してる今は

何も考ることなどできずーー


「」「」---


走る足の感覚もおぼつきながら無我夢中で走っていると、


「っ!」


湖が見えてきた。

当然、泳がない限り行き止まりである。


「おいつめたぞーー!」

「囲めーー!!」


騎士の声が頭に大きく響いた。


それをすぐに認識すると、


「っ!!」

捕まりたくない!!


そんな思いに突き動かされ、私は飛び込んだ。


いつもの冷静な思考と余裕は完全に消し飛んでいたのだ。

魔力の少なさと熱による体の限界から。

頭が通常運転なら、別の方法を使っていたかもしれない。



ダダーーフワッーーバシャーーンッ


「っーーー」


ブクブクブク・・プハッ


冷水のように冷たい水が服に浸みこみ、服が泳ぐのを邪魔しても

捕まりたくない(掟を守ること)”が一番にあって、一心に湖のその向こうを目指した。


水をかきあげ、後ろに押し出して前へ進む。


バシャーーンッ


「っ!?」


後ろで飛び込む音がして、波が押し寄せる。


「ワンワンッ」

「ウゥーー”わん」


バシャバシャと一直線に泳いで向かう犬達がそこにはいた。


「っっーーーー!!」


逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃーー!!


恐怖にも似た感情が一気に私の中をいっぱいにする。


捕まった後の絶望が、

今押し寄せてくるかのようだ。


バシャバシャバシャッーーバシャバシャッ!!


必死に向こうの岸へと泳いだ。

何度も何度も繰り返し、両腕両足を懸命にうごかす。


泳ぐ間、ずっと水に魔力が流れていく感覚が

頭の隅で感知しているのにも関わらずに。


懸命に、それはもう必死に。


バシャバシャッっーー・・


「ッわんわんっ!!」

「ワンワンッーー!!」


ますます犬達の声が近くなっていく気がした。


「・・!」


このままじゃ捕まる・・!

そんな焦りも混じって頭はさらに混乱していく。


その分距離も縮んでいく感覚に襲われて、

それに怯えて体に無理を重ねながら泳ぐペースを上げた。



そのときだった。


ヒュンッッーーー・・


風を切る音ーーそして、


ーーグサッ””


「っ”!?」

ビリリッーー!!


左腕に激痛が走った。

その痛みに、一瞬、意識が真っ白にはじける。

腕全身が何か麻痺していくような侵略感に意識を取り戻した。


「つっ”ーー!」


稲妻が暴走したように中で何かが暴れた。

反射的に右手でその場所を押さえる。


ぬるっとしていてでもさらっとしている液体の感触と

木の細長い棒のようなものが肌で出っ張ってるそれを手のひらで直感する。


手で押さえるその場所には、血塗れた肌を突き破った矢があった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ