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侵入者だから

リュティシア視点


すたすたすた・・


「っ・・・、っーー」


私が息を整えながら歩いていく。

 自然豊かな森は、全く人間の手が加わっていなかった。


秋風が凪ぎ、森はポツリポツリと紅葉に葉を染めていくのが分かる。


「」


森の中を私はスタスタと迷いなく歩んだ。

木がざわざわと騒ぎ、向かい風が私の紫がかった銀の長い髪に吹き付ける。


それは歓迎しているのか、戻れと警告してるのか。

それは分からない。


「---」


けど、私が歩くたびに周囲に殺意を向ける気配が

ポツリポツリと現れ始めていた。

しかも私を中心に音もなく周囲を囲んで円を描く。


ーー見られてる。見られてるーー。


私は辺りをひそかに見ながら歩みを進めた。


周りは木々や茂みに覆われていて、

足元の草が足音を響かせても木のざわざわする音がかき消していた。

いや、木が意図的に消しているのかも。


何であれ、とどのつまり、

身を隠すにはちょうどいい場所 ということに他ならないのである。


が、ずっと身を隠させているのも 癪だし

ここはひとまず、現れてもらってそれから方法を考えよう。


「--ふぅ」


私は息を吐いて立ち止った。


ザワザワと、

周囲が木の葉の音に紛れて戸惑いと動揺をし始めた。


「出て来たらどうなの?気配が丸分かりだけれど」


私は言った。

気配は十数人分。少ないほうだが、一つ一つの魔力の気配は大きい。


けど、それを全部かき集めたとしても私には及ばない。

私の魔力は、その何十倍もある。

気配を隠すことすら、ジュエリーを使わないと難しい。


私の格好は、純白のシンプルな衣に白い靴。シンプルすぎるため

装飾をほどこすかのように手首や足首に、腕輪や足環をはめ込まれている。


実はその腕輪や足環が気配を隠す“優れモノ”なのだ。


輪の中央にはめ込まれた宝玉が魔力を抑える働きがある。


通常の人間が魔力を隠すとしたら一つで足りるのだが、

私には四つ必要だった。

四つの宝玉が私の身体があふれんばかりの魔力を抑えるのである。



「--気配を隠すのがどうやら甘かったようだ」


ガササッーーヒュッ


シュタッ


茂みから飛び出す音がすると同時に、一つの人影が

私の目の前に躍り出た。


動揺が収まったような静かな声でその者は言う。


その者は、狼の耳と尾を体に宿していて

それはまるでーーー


「!」

ーー天狼!


私は目を瞠った。


狼の耳を生やした黒髪に金色の獣の瞳を持つ男が

私の行く道を阻んでいるのだ。


その姿は、巫女の書物に記されたとおり


“天の使い”の特徴を示していた。


「この姿が珍しいか、侵入者よ」


目の前の男がそういった。

それを境にぞろぞろと他の天狼も姿を現す。


「いえ、ただ書物に記されたとおりだと思っただけ」


「書物・・?まぁ、いい。ならば、一族の使命も知っているだろう。

俺らの使命は侵入者を排除すること。

それは神の召すままに行われてきたことだ。」


書物という言葉に眉をひそめたが、男は誇るかのように言い放った。


侵入者・・それはけして歓迎の言葉ではない。


けどそれは、彼らにとってあたりの前の対応であった。

私はそれを知っている。


「知ってるわ。だから今まで神の領域は穢れがない。

けど、私にも使命がある。それは絶対のもの。

だからーー通させて貰う!!」


ヒュッーー


私は正面に向かって走り出した。


そう、侵入者だから、

--きっと言い訳なんてさせてもらえない。


巫女であることも、伴侶に見放されて神に逢いにきたことも。



彼らと接近した瞬間、すばやく指先に魔力をこめてーー


「風よ!」


ビュンンッと周囲の天狼をなぎ払った。


「っ!?ま、まてっっ!」


ブワッーーと、風が天狼を襲い、木々にドタンッっと叩きつける。

身動きがとれず、私の後ろで追いかけようとする声が上がるのを聞いた。




ーーダダダダダダダッ


しかしそのまま私は走っていく。

しばらくは追っ手もなく長い間を走った。


森は長く、木々は紅葉に満ちて私を隠してくれる。


すぐに日が傾いた。

日が沈み、夜が訪れようと暗くなり始める。


すぐに夜が訪れて空や森が闇に染まった。


「」


しばらく走り疲れて

 ここで休もう と休む大木を決めた。


大木の太い枝まで浮遊して、幹に腰をかけて身をゆだねながら

目を閉じる。


頭には緊張感を残してそのまま私は眠りについた。


ーーーー


けどそれは一時のことで。


ヒュンッーー


ーーー風を切る音。


「!」


反射的に身を起こしてそれをよける。


ーーグサッ


大木にそれは刺さった。


目を開けるが、それが何か見えない。目の前は真っ暗だった。


「チッはずした。すぐ追いかけろーー!」


突然、そんな声が聞こえた。

いかにも何か見つけたような。


でも私には追っ手が見えない。

遠くに炎がみえる。たいまつの火だ。


あれは、天狼じゃない?


やば、い。


急いで、声とは反対方向に木を飛び降りて、

ふらりと走り出した。


「」


目を閉じなおして、自然を探る。呪文無しでできる巫女の透視能力だ。


暗闇の中に

緑のオーラが漂う大木が目の前にある。


次々とそびえたっている木々を

走りよけながら、夜目の効く呪文を唱えようか迷った。


「---」

ーーどうする、このままじゃ、わからない。やる?このまま行く?


巫女は通常の人間以上に夜目が効かない。

人間は目が夜に慣れて多少見えるが、巫女はけして慣れたりしない。


一方で天狼は狼だから夜目が効く。亜人でもあるからだ。


きっと、それを頼りに遠くから見つけ出されたのかもしれない。

私は焦っていた。


こんなに、っはやくくるなんてーー。


でも、と考える。

ちらとみた、たいまつの火はきっと天狼は使わないはず。


だとしたらやはり追っ手は人間ーーー。


「っ闇を照らせ、シャナアイ!」


私は魔力を目にこめてすばやく省略した呪文を唱えた。


狼相手なら透視能力でも撒けるだろう、でも、

相手は人間。しかも狼は矢もち。

相当夜目が効く相手を送り込んできたんだ。


ヴァアンンッ


目を開くと、朝のようにまぶしい視界が開けた。


「---!」


後ろをちらと見ると、


「待ってください!姫様!!」

「ワンッ、ワンワンッ」

「矢を放てーー!」


見知った人間と警察犬、他天狼も追いかけてくるのが見えた。


ヒュンヒュンッーー


矢が迷いなく一直線に私に襲い掛かる。


紙一重でかわしながら私は舌打ちしていた。


逃げてるだけじゃ埒が明かない・・。

ならばーー


ヴァンッ”


躊躇するのも時間の無駄だと思って、

思いきって魔力を足にこめた。


「・・!」

よしっ


駆ける地に魔力を帯びた足を力強く蹴り上げて、


ッダンッーーーヒュッフワッーー


勢いよくジャンプした。


暗い闇を長い距離跳び、何度もそれを繰り返した。


自分の中の焦りを落ち着かせるために。

自分は大丈夫だと、かなり魔力を消費して。




そうして再び追っ手を撒く。



「っはぁー、はぁー・・っーっ・・」

「--ふぅ、・・・」


呼吸の乱れを整えて、私は再び眠りについた。



けれどーー数時間後、


ザッザッザッーー


遠くで群れの、--草を踏む小さな足音。


「!」


ハッと起き上がって、夜目を効かせて再び逃げ出した。


「チッ感づかれた、はやく矢を放てーー」


ヒュンッヒュンッーー


無数の矢が私に襲い掛かる。

私は魔力を使って守り、駆ける。


気が休まらないーーシツコイ・・


おちおち寝ていられなかった。

本当に彼らはしつこかった。


執念深いともいえるこのおいかけっこに私は疲れるばかりだった。



それが数日繰り返された。


緊張感が高まって休まるときはなく、魔力の消耗が激しくなって

三日後、再び、追っ手が追いかけてきた。


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