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序章 王女だから


「お父様、お母様、ベランダにいってもいい?」

「いいわよ」

「あとでまた呼ぶからな」


とある夜に開かれた、とある貴族の舞踏会。

仮面をして、楽しむという、乙な催しだった。


けれど六歳の私には、顔が見えないだけの不安で暇な催しだった。


「ありがと、お父様っお母様」


にっこりと笑顔で御礼を言って、

タタッっと走ってホールから抜け出し、広いベランダに行く。


誰一人いなくて、カーテンでホールから隔離され、静かで心地よい場所だった。


雲ひとつない夜空には、満月が爛々と輝いている。

その月に魅了されて、ベランダの手すりに近寄る。


「きれい・・これとおんなじだ」


そう呟き、胸元に在るネックレスをチャリッっと音を立てて月とみくらべた。


三日月のようになだらかな曲線を描く二つの勾玉が

丸い月を主張するペアネックレスが小さな幼い私の胸元を飾っていた。


そんなときだった。


ガサッ、ガササ・・スシャッ


カーテンを開けるのにてこずった音を立てながらベランダに来る人の気配。


「」

だれっ?


反射的に振り向く。

すると、


「・・ふぅ」


小さく息をついたきれいな少年が自分の服についたほこりとかを払っている。

不思議なことに仮面はしていなくて、容姿がまるわかりだった。片手で仮面をもっていた。

金髪に、青い瞳、そして端正な顔立ち。すべてに惹き付けられる。


「---」


きれいな・・子。


ドキッと高鳴る心臓の音を聞きながら、

無意識に息を潜めて、音も立てずにその子を見つめる。


「!・・」


少年が、ハッと、顔を上げて私をみた。

ようやく気づいたらしい。


「・・・」

「・・・」


数秒、みつめあった。


お互いが言葉を失っているようであった。


だが、そんな沈黙も、あとでしった年が二つ上の少年が

私に問いかけることで、破られた。


「--どうして、ここに?」


最初はそんな一言だった。

単純な質問に、私の緊張は一気に解けた。


「だって、人いっぱいなの、やなの。」


したたらずな私の答え。

人ごみがずっと嫌いだった。

恐くて嫌で・・逃げ出したくなる気持ちを今まで必死に抑えてた。


「・・同じだ。ボクも嫌だった。」


心底嫌そうな表情。でもそれは、共感するところであった。


「ほんと?じゃあ、おなんじだねっ!」


お互い私たちは笑顔になった。


「ねえ、名前なに?」


そう聞かれて、


「名前?えっと、リュ・・ルティ」


リュティシア そんな長ったらしい名前は舌足らずな私にはいえず、

いつも自分をルティと呼んだ。


「ルティ?いい名前だね。」


「ありがとう・・ほめられたの、はじめて!」


気分が一気に上昇する。どきどきした。


「ねえ、お願いがあるんだ。仮面とって?」

「仮面?」

「ルティの笑ってる顔がみたい。うれしそうな声を出すから」


それからいろんな話をする。

楽しかった。二人だけの会話。誰にも邪魔されることがない話。


そして、最後に彼の名前を知らないことに気付いて


「ねえ、貴方の名前なぁに?」

「ボク?ボクは教えられないんだ。秘密」


「えーずるぅい、」


「決まりだから、仕方がないんだ。

でも、ボクが君の顔も名前もしってるからまた会えるよ」


「ほんとっ?じゃあ、私からも、約束。

また、会うために、これ、あげる!」


ペアネックレスの片方をその少年に手渡した。


「いいの?」


「うんっ!おまじないがかかっているんだって、これ。

だからっ」


「ありがとう。じゃあ、約束。」

「うんっ、約束ね」


心躍った一瞬のような短い時間の出会い。


しかし、会えずに十年を過ごすことになるとは、

私もその少年も思っても見なかったことかもしれない。



ーーー十年後


「お前の婚姻先が決まった」


「婚姻、・・ですか」


***


ーーー神が人間を生み落として数千年。


人間がその歴史の中で数多く王国を作り上げた


そ の 世 界 の 中 で 


最も神を崇め神の力を託された

とある王国の第一王女で且つ巫女である少女に

不本意な(・・・・)婚姻が舞い込んだ。


それが、巫女の人生に終わりを告げる




      因果




の、始まりだった。



***



「そうだ」


私の目の前には

玉座に腰を下ろした王が憎らしくも笑みを浮かべている。


それは、私にとって父親とは呼べない存在だった。


「どういうことですか、陛下。

私は巫女で、神に身をささげる身ーー」


「巫女の前にお前はこの国の王女であろう。

その責務を果たすのだ。国の利益のためにな」


「--っ」


国益のために、私を?


どこまで私を追い詰めれば王は気が済むだろうか。


今まで、王女であるための教育や、巫女の教育。

そのためには手段を選ばず、ひどく過酷な教育を施された。

私を痛めつけては喜ぶのだ。


今回のことは私にとって今までの辛さの比ではない。


私は唇をかみ締める。


そう、私にとっては、不本意でしかない。

私は望んでいないのだ。

神ではなく、他の者に全てを捧げ尽くすことを。


「お前の嫁ぎ先は隣国の第二王子ヴァル。

巫女が身を捧げるのは神だけではないのは、お前も知っているはずだ。」


「っ」


だから、いや。

巫女である以上、巫女の規則は絶対であり、それに従い動く。


規則の中には、

巫女は 神または伴侶に身を捧げ 忠誠を尽くすこと が含まれている。


王はそれを利用しようとしているのだ。



「現世で真の巫女の魂を宿しているのはお前だけだ。

次の世代に巫女の血を引き継がせるためにも、

お前は婚姻を結べ。それが最優先事項だ、わかったな?」


「・・はい。分かりました」


私は、頷くしかなかった。


私も分かってはいたのだ。

巫女という存在は

私のほかにも多くいるが、それは私とは全く違う在り方をしていることを。

彼女等からしてみれば、私こそが次元のかけ離れた存在だと称するかもしれない。


それもそうだ。

“巫女の先祖がえり”とよばれるほどの、

神聖な穢れなき魂が宿っているのは現世では私だけなのだから。


その魂の宿る体には、普通の人間の何倍もの魔力が宿っていて、

神から託された力が使用できる。


それは穢れから身を守り、人を救うことに使う防衛と良心の本能そのものだ。


神から与えられたそれらの幸福は、至福の喜びだと魂は私に訴える。


神にささげたかったこの身。

しかし、それは叶わないのだと悟る。


王は私を追い出したいのだ。

私が巫女だから、厄介ごとに今までも巻き込まれた。



私に残されたのは、巫女の誇りと力 だけ。


ならば、伴侶だけに、巫女として身を捧げ、忠誠を尽くそう。


私には、巫女の誇りが全てであり、支え だった。



ーーーー数日後。


「お初にお目にかかります。

ヴァル殿下の側近を仕るリドと申す者です。

お迎えにあがりました、リュティシア姫」



迎えが来た。

恭しく一礼する若い青年は、どうやら王子の側近らしい。


「ええ。」


これから行くのか・・。


憂鬱な気分で挨拶して、そして用意された馬車に乗り込んだ。


ガタガタと馬車にゆれながら、

見るのが最後になるだろう母国の城下町を眺める。


この数日間、噂を聞いた。

もちろん、婚姻を結ぶ王子のことだ。


なんでも、仕事に一直線で、ほかの事に興味はないらしく、

もちろん王子なだけに端正な顔立ちで、女性に人気らしいが、

会話などすれば、恐くて意見も言えなくなるらしい。


そんな人が婚姻を結ぶことに賛成などするのだろうか。

いや、しないだろう。


もし、巫女である私が夫となる彼に拒絶されたなら、

私のすることはひとつ、神の下へと向かうことだ。


夫に忠誠を尽くすのは妻である限りは絶対である。

しかし、巫女は、神にも身を捧げる宿命をもつ。


神は、山の頂上にあるとされる神殿にいる といわれている。


どの国の領地とされなかった未開の地の中央部の神山。


戦争で土地を奪い合った歴史の中で、母国の王もその場所を狙ったらしいが、

そこに住む原住民がその場所を守り抜き、どの国も自分のものにできなかったという。

原住民は異国民に対して、警戒心が強く鎖国状態なので

いまだ開かれざる未開の地であった。


私は、その場所へ向かうことを覚悟していた。

いや、それを期待しているのだ。


まだ原住民以外が、神山に上ったという記録はない。

どんな場所なのか、神はどういうものなのか。


巫女の魂を持つ私には気になって仕方がなかった。




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