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銀雷の魔術師  作者: 天城 誠
第六章:放浪編Ⅱ 
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第十八話:願い

 布団の中に先客がいた。

 エリシアが俺の枕と魔法玉を抱きかかえ、恥ずかしそうに俺を見つめていたのだ。



「……アル、きちゃいました…」




 ……俺、据え膳は有難く頂くタイプなんだ。



 って、それより大事なことがあるな…。

 俺は偽装魔法を解除したのか、白銀の髪に赤い瞳のエリシアの横にすばやく潜り込むと、口を開いた。



「どうした、怖くて眠れなかったか?」

「……さみしくて眠れなかったです…」




 そう言って、エリシアはそっと俺の胸に頭を寄せた。

 ……おかしいな、ちょっと嫌味だったはずなのにものすごい返事が返ってきたぞ。



 俺が呆然としてるのが分かったのか、エリシアはくすっと笑ってから、上目遣いに俺の目を見つめてきた。



「…アル、いっしょにねてもいいです……?」

「……ああ」



 この状態で断ることができるだろうか、いや、できない。

 俺はポケットの中身を確認してから、この急展開にどう対処するか考えた。



 そもそも木の上で二人っきりになったときに渡そうかと思ったのだが、予想外の風邪気味で失敗したんだよなぁ…。


 なんかここで告白するのもなんかアレな気もするが、エリシアの場合は明確に気持ちを示してやらないと勘違いして落ち込んだりしそうだからな…。





 仕方ない。ちょっと頑張ってみるか。エリシア相手なら失敗しようがない気もするし。

 俺は、そっとエリシアを抱き寄せて口を開いた。




「なぁ、エリシア―――」

「ア、アル――――――」


 俺とエリシアは同時に口を開き、同時に口を閉じた。

 エリシアを目で促すが、エリシアも同時に目で「お先にどうぞです」と伝えてくる。



「いや、エリシアから―――」

「いえ、アルから―――――」



「…んじゃ、俺から―――」

「…じゃあ、私から………」



「……先にどうぞ」

「……どうぞです」



 

 思わず二人で苦笑いしてから、ジャンケンでエリシアが話すことに決まった。

 ジャンケンは偉大だね。6連続であいこになってかなり焦ったが。

 えーと、729分の1の確立?



 なにはともあれ、エリシアがかなり不安そうに俺を見つめつつ口を開いた。

 相変わらず上目遣いであり、狙ってやってるならエリシアは悪女だな。

 ……エリシアが悪女だったらもう何も信じられない気がするが。





「あ、あの……、アルにお願いがあるんです……」



 あー、あの昨日の夜の話か。昨日は言わせまいと弄り倒したが、もう準備はできてるので止める必要はない。むしろ好都合だ。ジャンケン勝ってよかった。


 とりあえず分からないフリをして俺はエリシアを促す。




「何だ? とりあえず言ってみてくれ」

「……え、話をきいてくれるんです……?」




 ……妨害し過ぎて「お願いなんて聞く気ないぜ!」と思ってると思われたっぽい。

 エリシアは耳を押さえて戦々恐々としている。



「悪い悪い。昨日はアレだ、ちょっと興奮状態だったんだ」

「……あぅ…。確かにすごかったです…」



 聞き捨てならない。

 今すぐにでもエリシアの耳に暴虐の限りを尽くしてやろうかと思ったが(羽でくすぐったりとか)、今は大事な話なので止めておこう。




 後で覚悟してろよ……。まぁ、俺にも非はあるんだが。


 とりあえず、エリシアの白銀の髪を優しく撫でてやる。



「はぁ、悪かったよ。で、お願いってなんだ?」





 途端にエリシアは真剣な表情になろうとしたが、頬が緩んでしまっている。

 エリシアも気づいて再び真剣な表情になるが、再び緩む。



 キリがなさそうなので手を離すと、エリシアは寂しそうに俺の手を見ていたが、ハッとなってから再び真剣な表情になった。




「あ、あの……えっと……」





 抱き寄せているエリシアの体から、早鐘を打つ心臓の鼓動が伝わってきて、俺の服の胸のあたりを軽く掴んでいるエリシアの手が、少し震えていることに気がついた。





 エリシアは目を瞑って小さな声で、しかしハッキリと言った。






「……アル…、わたしを……アルのおよめさんにしてください……っ!」





 俺はこっそり微笑むと、目を瞑って俺の返事を待っているエリシアの左手をそっと取って薬指に指輪そっと嵌め、驚いて目を開けたエリシアを抱きしめて囁いた。




「……喜んで。―――結婚しよう、エリシア」


「―――――アル…っ!」




 エリシアの瞳から涙が流れ落ち、俺とエリシアはそのまま唇を合わせた。







…………







 しばらく雲に隠れていた月が再び顔をのぞかせ、カーテンの隙間から月明かりが漏れ出して、エリシアの白銀の髪を柔らかく照らす。




「…夢みたいです……」




 エリシアは、自分の指で輝く銀の輪を嬉しそうに見つめている。

 俺は、そんなエリシアの髪を撫でながら口を開いた。




「まぁ、前世で約束したからなぁ…。『もし、もう一度出会えたらお嫁さんにしてください』だっけ?」



「…大体、そんな感じです……」



 恥ずかしそうに微笑むエリシアに、俺はニヤリと笑いかけた。





「まさか叶えることになるとは思わなかったけどなー」




 というか、エリシアって意外とロマンチストだよな。

 …あのセリフのせいで大分苦しめられた気もするが、たっぷり可愛がってチャラにしてやるか。



「……そういえば、これって何の模様です…?」


 

 指輪を不思議そうに見つめるエリシアに、俺は普通に教えてやった。




「ああ、いいアイデアが無かったから<天照>の紋様を刻んどいた。ヘンか?」


「―――え? ヘンじゃないですけど、<天照>に入ってるのは私の紋様で…あれ?」




 エリシアは「何かちがうです」という顔で指輪を見つめている。

 なんだよ、俺が下手だっていうのか。

 と、そこでエリシアは俺のセリフの意味に気づいた。



「――――えっ、アルが彫ったんです!?」


「……悪かったな、下手で」




 不機嫌な顔でそっぽを向くと、エリシアは半泣きになってしまった。


「あぅっ…・・・ごめんなさい……」


「お、おい―――分かったから落ち着けって!」





 そんなわけで、<天照>のチェックが行われることになった。

 <天照>を引き抜くと、何もしていないのに刀身が白い光を放ち、以前より圧倒的に放たれる魔力の量が増えて――――って、マナが放たれてないか?


 

 マナと魔力で何が違うかと言われれば、威力はマナのほうが高めだと思う。

 ついでに、マナは魔力を弾くのでこの剣を振り回してるだけでマナが拡散して魔法を防いじゃったりしてくれるかもしれない。



 で、肝心の紋様は―――――。

 紋様を見たエリシアは指輪と交互に見比べ、どんどん顔が真っ青になっていく。

 



「……ごめんなさい…」


「まぁ、あんま気にすんなよ」



 頭を撫でてやると、エリシアはなんとか笑顔になった。


 結局、俺の勘違いではなくて紋様が変わってるっぽい。

 あれか、あんなことやそんなことをしたからエリシアのあれやそれが変わったのか。

 髪の色も変わってるしな。



 よく考えたら、この世界だとアレでマナも一緒にやりとりしてるから……。

 

 まぁ、そういうことだな。








………







 ……まだ夜中だろうか。


 目を覚ました俺は、安らかに眠るエリシアの寝顔をしばし眺めてから、そっと上体を起こしてカーテンを少しだけ開けて空を眺めた。

 東の空が白みだしている。もうすぐ夜明けのようだ。



「……んぅ~…。アル…?」



 エリシアが眠そうな目を擦りながら、上体を起こして俺を見た。


「悪い、起こしちまったな」


 俺はそう言って、エリシアの頭をそっと撫でる。

 エリシアは幸せそうに目を細めてそっと俺に寄りかかってきた。


「…おきたらアルがいるなんてしあわせです……」


 

 寝ぼけてるのか、とんでもなく恥ずかしいことを言いやがる。

 俺はそんなエリシアの柔らかい体を抱き寄せてキスした。


 目が覚めるように、情熱的にたっぷりと。



「で、目は覚めたか?」

「…あさからはげしいです……」



「いや、寝惚けてるみたいだから情熱的に起こしてやろうかと」

「あぅ……ねぼけてないです…」



 えー、喋り方が緩いから寝惚けてるのかと思ったんだが。

 まぁいいや。とりあえず起きて鍛錬でもしようかな…。


 俺はエリシアの体を離して軽やかにベッドから飛び降りると、手早く服を着た。

 エリシアも寂しそうな顔をした後、ベッドの横に置いておいた寝巻きを着る。



 俺は、剣とかの装備を整え、<キメラワーム>の毒液でぼろぼろになってしまったコートを見てちょっと申し訳ない気分になった。せっかくエリシアに貰ったのに。


 

 しばらくコートと睨めっこにていると、エリシアがにこにこしながら俺の背中に飛びついてきた。

 エリシアは俺がコートを大切にしてたのが嬉しかったのかご機嫌だ。(結局壊しちゃってるが)


「―――うぉっ!?」


「――――アルっ、役に立ちましたか?」



 そのまま、俺の首に腕を回してしがみついてくる。

 別に重くないのでいいのだが…。

 俺は苦笑しながら頷いた。



「ああ、すごく助かったよ。ありがとな」

「はい…!」




 

 そんなこんなで、窓まで歩いていってエリシアを下ろし、一応エリシアに一言説明しておくことにした。





「エリシア、ちょっと鍛錬してくるから」

「はい、頑張ってください。……朝ごはんは何がいいです? ……あなた?」





「……ぷっ…」

「うぅ~~! 私だって似合わないと思いましたけど、笑わないでください……」





 口を尖らせて拗ねるエリシアと唇を合わせ、そっと抱きしめる。

 しばらくそのままでいたが、俺はそっとエリシアから離れて窓に足を掛けつつ、俺はニヤリと笑いながら言った。





「んじゃ、朝ごはんはエリシアで!」

「―――――っぅ~~~! アルっ……!」



 一瞬真っ赤になってから、からかわれていることに気づいたのだろう。

 エリシアが恥ずかしそうに俺を抗議するのを聞きつつ、俺は窓から飛び降りつつ叫んだ。



「冗談だよ! んじゃ、朝からカレーが食べたいな―――っ!」


「―――はい、任せてください!」



 

 ちょっと無茶かと思ったのだが、エリシアはむしろ嬉しそうに微笑んで手を振っていた。

 ……ちょっと庭で剣を振るだけなんだけどな?




 俺は苦笑いしながら手を振るつもりが満面の笑みになってしまっていることに気がついたが、残念ながら俺の頬は緩みっぱなしだった。








放浪編Ⅱはこれにて終了です。

こんどこそ召還獣を探しに出かけます。


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