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銀雷の魔術師  作者: 天城 誠
第六章:放浪編Ⅱ 
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第十七話:月と太陽

 さて、自分の部屋に戻った俺は<アイテール>と<アウロラ>を装備し、気配を殺しながら窓から飛び降りて庭に着地した。



 エリシアにバレないように魔法玉(第一章2話参照)に俺の魔力を分けて部屋に残してきたので、俺は部屋にいるように感じる―――はず。




 そんなわけで、俺は双剣の素振りを開始した。

 まぁ、鍛錬ってのは毎日やらないとな(昨日はやんなかったけど)。

 

 

 俺は様々な型で剣を振り、双剣が空中に無数の銀の軌跡を描く。

 俺は戦いの中で型どおりの動きはあまりしないほうだが、基本をしっかりしておいて悪いことはない。



 徐々に剣の速度を上げていき、実践を想定した動きに変えていく。

 俺には鞘から<サーマルブラスト>を飛ばす不意打ち技があるので、余程の強敵でなければ一瞬だけでも隙を作れれば一撃で仕留められる―――ハズだ。




 魔力装甲は物理ダメージを緩和こそするが、魔力ダメージと違って無効化はできないのだ(例外はあるが)。よって、<ビッグボア>のような元から体の硬い生き物と違って、人間に<サーマルブラスト>はたとえ柄から激突しても十分なダメージになる。




 まぁ、弾数が少ないのだが。<シルフィード>がシルフと一体化している以上、残っているのは<アルザス>と<アイテール>、<アウロラ>と<天照>だ。

 十分多い気もするが、双剣で戦う以上は弾数は2発と考えていい。




 一対一ならまだしも、大勢を相手にするには不十分だ。

 しかも、<アルザス>以外は魔法銀ミスリル製のため、磁力で引き寄せて再使用はできない。



 ……なんか新技ほしいな。



 俺は一度剣を止め、鞘にしまって近くの木の根元に座り込んだ。


 

 辺りにはよくわかんない虫が「ひゅるるる~」と鳴いている音が満ちている。

 ……まぁ、きれいな音ではあるのだが。やはり前世と違うと妙な感じだ。



 死んでしまった以上、前世のことは考えないようにしているのだが……。

 やっぱり、懐かしいものは懐かしいんだよな。



 なんとなく月を見上げながら新技のアイデアを練る。

 やっぱりピンチになったら都合よく必殺技が誕生したりすればいいんだけどさ……。

 まぁ、前世の記憶は必殺技を考える参考にはなる。真似できない技が多過ぎるが。




 最初に<サーマルブラスト>を考えたときは大変だったなぁ…。

 電磁砲レールガンにしようと思ったのだが、<アウロラ>は磁力で引き寄せられないので使用不可能で、適当な鉄の剣でやったら空気摩擦で溶けてしまった。

 <シルフィード>も<アルザス>も非売品だから溶けたら嫌だし。




 とある超能力者さんの電磁砲もゲーセンのコイン使い捨てだったなーと思いつつ、俺も大量の使い捨て剣を持ち歩こうかと思ったがさすがに重過ぎる。



 かといってこの世界にはゲーセンないし。

 一回投擲用のピックを某VRMMO小説の主人公が持っていたのを思い出して真似してみたが、戦いの最中に手が滑って、間違って手に刺さったのでやめた。


 ただの鉄の塊を持ち歩いたりもしたのだが、ふとあることに気づいた。

 毎日戦うわけでもないのに、こんな殺傷能力が高すぎて重過ぎて持ち運びが面倒な装備が必要な技はどうなのかと。



 で、電磁砲と違ってプラズマ膨張圧で加速させるだけなので磁力が関係ないサーマルガンをもとにした(あくまで参考にしただけ)<サーマルブラスト>が完成した。



 磁力よりも俺には威力の調整がしやすかったので、剣が溶ける心配がいらなかったのだ。

 多分、全力でやると<アルザス>とかは溶ける。


 


 ……おっと、新技考えてるんだった。

 でも肉体強化系はあんまり適当にやると怖いし、専用のアイテムとか能力が必要な技は無理だし…。

 


 そこで俺は、鉱山で一瞬だけ見えたエリシアの術を一応試しに真似してみることにした。

 初めて見た術だが、なんとなーく分かる気がするんだよなぁ…。


 

 見たことの無い術体系だったし、おそらくエリシアの固有魔法だろう。




 フェミル曰く、固有魔法は使い手の魂を表す術である。

 故に、他人には決して真似することはできない。


 自分が見ている世界と他人の見ている世界は必ず違う世界だから。

 経験が違う。魂が違う。想いが違う。


 双子の兄弟であろうが、魂は二つ。

 愛し合う夫婦であろうがなんだろうが、決して魂が交じり合うことは無い。




 って言ってたが、俺は何も魂を一つにしようって気は無い。

 心が触れ合えればそれで幸せ、きっと何よりも幸せだろう。



 おっと、話が逸れた。

 完全に理解することはできなくとも、エリシアの魂を30%理解できれば術も30%理解できる!

 と強引に解釈したのである。


 まぁ、術の根幹を理解できれば俺風アレンジでなんとかなるだろう。



 実は、あのエリシアの術の威力が凄かったから真似したいんだ。

 《イクスティア》って地味じゃんか。ただ身体能力が上がるだけだし。

 俺もああいう浪漫砲カッコイイやつが欲しいんだ。




 そんなわけで、魔力を右手―――いや、威力的に両手だな。多分。

 両手に集め、記憶の中のエリシアの術を思い浮かべる。




 洞窟を貫いた純白の光芒。


 舞い落ちた雪の如き魔力の結晶。




 記憶に焼きついている魔力の構成を思い浮かべるが、やはり未知の言語で書かれているかの如く、さっぱり理解できない。

 何かを核にして何かのエネルギーを集めてる気がするが、それだけだ。

 



 俺は溜息をつきつつ、空を見上げた。



(……やっぱり無茶か)



 

 俺ってエリシアの事を理解できてないんだなーと、妙な方向で落ち込んでいると、明るく輝く月が見えた。



 そういえば、ユキが月を好きだったかもな…。





『誠司、月って寂しいですよね』

『んー、どうして?』



『太陽はお昼で、月は夜。一緒にはいられないです』

『……大丈夫か、熱でもあるのか?』



『……せいじのばか』

『悪い悪い。でも日食忘れてるぞ、ユキ』



『あ……。でも、ちょっと重なってすぐ別れちゃいます』

『ロマンチックじゃね?』



『……いつもいっしょがいいです』

『んじゃ、月はいつも太陽の光を浴びて綺麗に輝いているぞ』



『……そういえば、月はほかの星と違って自分では光ってないんですよね』

『まぁ、肉眼で地球から見える範囲だとそうかもな。綺麗だけどな』



『私も、誠司の……』

『ん、なんだって?』



『な、なんでもないです……』




 今考えるとやたらと月に感情移入してたなぁ……。

 というか、ユキが俺を好きだという前提でいくと俺は太陽か。

 

 ……うわっ、恥ずかしい。よかった、周囲に誰もいなくて。

 多分、今の俺の顔は若干赤いと思う。





 待てよ。まさかと思うが、集めてるエネルギーって月か…!?

 魔術で月のエネルギーというのはごく自然な感じがする。

 固有魔法は魂を表す術だし、月をエリシアが選んでもなんら不思議はない。


 そう考えると、何故か術の構成が理解でき始めた。

 理論では相変わらず分からないが、感覚が教えてくれる。




 そうして分かったのだが、この魔法には、根幹にあるメッセージが入っていた。



太陽アルがいるから、わたしも暗い夜空の中でも明るく輝いていられます。たとえ一つになれない運命だとしても、私はずっとアルがだいすきです』



 


 ……なにこれ恥ずかしい。

 絶対これ見られないと思って入れてあったよな。

  

 つまり、この術は俺への想いを核とした月のエネルギー収束砲だ。

 ……気づかなければよかったかもしれん。いや、嬉しいけど。




 えー、ごほん。


 何はともあれ、大まかには分かったので早速試してみる。

 名前どうするかなぁ……暫定で適当にやっとけばいいか。


 あと、エリシアから力をもらうってのは俺にはちょっと合わない気がする。

 エリシアが太陽から光をもらう月の力を借りるなら――――。


 思い切って全部かき集めてみようか。



 俺は目を瞑って術の構成を開始。安全のため天に向けた俺の手に、周囲から色とりどりの光の粒が集まり、俺の手で銀の光となる。

 そのまま徐々に光は強まり、手だけでなく腕に胴体に、徐々に全身に銀の光が広がる。

 

 全身に魔力がある程度満ちるのを感じた俺は、銀に輝く瞳を見開いて叫んだ。




「<エリシアビーム>!」



 自分で言っといて、「うわぁ、厨二な名前のほうがまだよかったよ」と思ったが、考えるのが面倒だったんだよ。うわぁ、恥ずかしい。


 

 なにはともあれ、俺の両手から眩い銀の雷が放たれ、わずかに上空にあった雲を吹き飛ばした。うん、エリシアの術のバージョン違いっぽい。満足いく出来だな。

 名前は後で考えよう。



 とりあえず、こんなド派手な魔法を使ったらエリシアに気づかれないわけはなく。

 風邪疑惑の俺が外でうろうろしてたと知れたら、エリシアが本気で怒るかもしれん。

 普段優しい人ほど怒ると怖いっていうのは、世界の真実の一つだと思うんだ。




 そんなわけで、エリシアが仮に怒りに来てももう寝てました的な状況をつくるべく、俺は魔力抑えめで飛行魔法を発動し、窓から自分の部屋に飛び込んで華麗に前転を決めた。


 そのまま布団を捲って素早く滑り込もうと――――。



 したのだが、布団の中に先客がいた。

 エリシアが俺の枕と魔法玉を抱きかかえ、恥ずかしそうに俺を見つめていたのだ。





「……アル、きちゃいました…」






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