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銀雷の魔術師  作者: 天城 誠
第六章:放浪編Ⅱ 
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第十一話:瞳にうつるもの


 ミリアはギニアスとガントを掴んで、翼を使って軟着陸することに成功した。エレボスは浮遊しているのでもとより関係ない。


 しかしかなり深いところに落ちてしまったようで、魔力濃度が高い。

 ギニアスは若干不安な気分になりつつ、周囲を見渡す。


 と、近くに上に向かいそうな道があった。

 ミリアは「おお、何これいい感じ」と言って高濃度の魔力を深呼吸して取り入れているが、人間には悪影響のほうが多い。


 ミリアもそれに気づいたのか、苦笑いしてから歩き出した。



「ねぇ、ギニアス。さっきって何があったと思う? 風魔力は感じたけど」

「う~ん、エレボスは分かるか?」

『あの少年が使っていた風精霊の魔力だと思うが』

「ってことは、坊主は生きてるのか!?」



 ガントが喜びの声を上げ、僕も顔が綻ぶのを感じた。

ミリアも若干口元が緩んでいて「これは保護してエルに土下座させるチャンスだわ♪」とご機嫌そうだ。……素直じゃないな。




 その時、地響きが徐々に近づいてくるのを感じ、僕たちは走り出した。





―――――――――――――――――――――――――――――――――――――





 さて、俺はエリシアを背負って洞窟を飛ぶように走っていた。

 洞窟をぶち抜いた魔法と俺の治癒でエリシアの魔力があんまり残ってなかった上に、俺がエリシアをノックアウトしてしまったことで、まだエリシアはまともに走れなかったのだ(歩くことはできるようになった)。


 実は《イクスティア》を使っていたのも大きいが、俺は知らない。




 そこで活躍するのがシルフ製<ホバー>だ。

 やけに短いが一応術の名前で、飛行魔法より消費魔力が圧倒的に少なく、そこそこ速く移動できる。




 徐々にギニアスたちの気配が近づいてくる。どうやら子<キメラワーム>と戦っているようだ。と、エリシアが俺の肩をつついた。



「ん、どうした?」

「……アル、中に入れてください!」


「…はぁ!?」



 エリシアは俺の返事を聞かずに俺のコートの中に入って背中にへばりつき、俺の後ろから頭だけ出した。


……意味が分からん。というか、このコートなんでそんなに伸びるんだよ。



「……どういうつもりだ、エリシア」

「……ギニアスさんにミリアもいるのに、この格好じゃ……」



「……さっきは気にしてなかっただろ、俺はいいのかよ」

「…………」



 エリシアからの返事はない。

 ……俺なら見てもいいと?



「……まぁいいや。でも、戦えるのかそれで?」

「大丈夫です、口から火を吐けます」



「―――――マジで!?」

「一応できます?」



「ご主人様、私も入れてほしいです♪」

「いや、これ以上は重くて無理だろ」



「そ、そんな!? 重くないですよ、羽のように軽いですよ!」

「いや、軽いにも限度ってものがあるだろ」





……





 到着すると、ミリアが魔法を発動したところだった。


「ぶち抜け! 《ローズレッド・バレット》!」


 <キメラワーム>は脳天を薔薇色の弾丸に打ち抜かれて崩れ落ちた。

 もう一体も既に<闇>魔法で消滅させられたのか、体がごっそり無くなっていた。

 要するに、もう終わっていた。




 俺は思わず呟いた。


「これ、来た意味なくね?」

「……あ、ギニアスさんにお礼を言いませんか?」

「そうですね、そうしましょう♪」



「おーい、ギニアス!」


 俺がぐったり座り込んでいるギニアスに呼びかけると、ギニアスの顔が輝いて立ち上がってこっちに走ってきた。元気そうで何よりだ。



「アル、無事だったんだな!」

「ああ、おかげで助かったよ! ありがとな、ギニアス、ガントさん、ミリア!」



「お安い御用だよ!」

「坊主のお陰で鉱夫も全員無事だぜ!」

「私はエルのやつに貸しを―――ってエル、何してんのあんた」



 何故か全身に鱗が生えたミリアは、俺の背中から頭だけ出したエリシアを見て微妙な表情になった。



「ミリアこそどうしたんです…?」

「これは竜族秘伝だから簡単には教えられないわね! 必死で頼むなら教えてあげてもいいけど―――」



「あ、分かりました」


 エリシアはコートから右腕だけ出すと、白竜の腕に変えてみせた。


「……相変わらずズルイわね、エルは」



 エリシアはちょっと得意そうな顔になったが、俺が竜の腕を見ているのに気づくと、慌てて元に戻してコートの中に引っ込めた。



 と、そこでミリアが気づいてしまった。


「エル、あんた服はどうしたの?」


 流石ドラゴン、偽装魔法は効かないようだ。まぁ、腕を外に出したりしなければ気づかれなかっただろうが。

 ちなみに、俺はコートを完全に閉じてるので大丈夫だ。


「…シルフに貸してます」


「はぁ、なるほど。エルらしいわね。」




 そんなこんなで和んでいると、バタバタと武装した兵士が走る音が聞こえ、上の穴のから将軍が顔を覗かせて叫んだ。


「ギニアス殿下――――! ご無事ですか!?」

「ライル、来てくれたのか!」



 そんなこんなで、シルフの飛行魔法で上の穴にところまで上がった俺たちは、将軍と兵士に付き添われて鉱山を出た。


 出た後色々聞かれたりするはずだったんだが、ギニアスが権力にものを言わせて押し切ってくれたので、俺とエリシアとシルフはギニアスとミリアとガントさんに別れを告げて、飛行魔法で家を目指すことになった。



「またな、ギニアス!」

「ミリア、ありがとうございました!」

「えーと、ご主人様がいつもお世話になってます♪」


「アル、いつでも来てくれよ!」

「エル、この貸しは必ず返しなさいよ!」

「坊主、元気でな!」




……




 

 そんなわけで帰宅の途中。

 エリシアはぐったりしていたので、俺が背負っている。

 そして背負ってたら気持ちよさそうに眠り始めやがった。

 シルフは――――って、あれ?



「なぁシルフ、なんで実体化しっぱなしなんだ?」


 実体化し続けていると契約者である俺の魔力が減り続けるハズなのだが…。

 シルフは困ったように苦笑いした。



「……完全に実体化したのは良かったんですが、戻り方が分かりません♪」


「…はぁ!?」



 シルフによると、《イクスティア》の応用で肉体を形成できるのではないかという仮説を<アウロラ>と一緒に立て、俺の《イクスティア》をそのまま流用してみたら上手くいって、肉体ができたのはいいけど戻れないとのこと。


 その代わり、維持費は生活費以外かからないとのこと。


 …仕方ないので、シルフは俺の家で居候することになった。



(ちなみに、シルフの実体化にアウロラも魔力を貸したらしく、まだアウロラの復帰は先になりそうだ)







 家に帰ってきた俺たちは、とりあえずエリシアとシルフをエリシアの部屋に放り込み、俺は自分の部屋に入った。服を着るためだ。


 風呂はとりあえず我慢。浄化魔法だけかけておき、3人でリビングに行くとみんなが出迎えてくれた。



 さっき帰ったらしい兄さんと父さんにバシバシ叩かれ(歓迎の証)。

 フィリアに抱きつかれて、リリーも泣きながら抱きついてきて仲直りした。

 母さんはご飯を作ってくれて、空きっ腹に染み渡った。

 




 その後フィリアは家に帰り、俺は風呂に思う存分入り、今は考え事をしながらベッドで横になっていた。





 もう夜中だから寝てもよかったのだが、気になってることがあった。





 ……ユキって誰だっけ?



 ぼんやりと思い出せるんだが、顔がハッキリと思い出せないというか―――。





 ――――コンコン



 俺の部屋のドアがノックされ、俺はベッドから上体を起こして適当に返事を返した。



「あいよー?」

「…アル、起こしちゃいましたか?」



「いや、起きてたけど…」



 寝巻きを着たエリシアが遠慮がちに部屋に入ってきた。

 俺は返事をしつつ姿勢を変え、ベッドに腰掛けた。



「その…ちょっとお話してもいいです…?」

「…ああ」



 俺が頷くと、エリシアはそーっと俺の横に来て同じくベッドに腰掛けると、偽装魔法を解除して白髪赤瞳に戻った。



「…エリシア?」


 意味が分からず問いかけると、エリシアは俺の目をじっと覗き込んで、しばらく沈黙してから口を開いた。



「…ごめんなさい!」

「…へ?」



「その……せっかくアルが心配してくれてたのに、私……!」



「…ああ、気にしなくていいよ。あ、そうだ。耳のやつをチャラにしてくれれば―――」



「…いやです」



 エリシアが泣きそうだったので耳の話を持ち出すと、思い出したのかエリシアは真っ赤になって俯いた。狙い通り。




「……はぁ、どうしたら許してくれるんだよ」




 これは俺としてはただの愚痴のつもりだったのだが、エリシアは真っ赤な顔ながら真剣な目で俺をまっすぐ見つめて小さく呟いた。





「…じゃあ、アル……せきにん、とってください」





「……え?」


 


 エリシアが俺にぴったり体を寄せてきて、バランスを崩した俺は、エリシアに押し倒されるような形でベッドに倒れこんでしまった。




「…エリ…シア?」





 エリシアの顔が目の前にあり、その赤い瞳に俺が映っているのが見えた。






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