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銀雷の魔術師  作者: 天城 誠
第六章:放浪編Ⅱ 
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第十話:月と竜

 エリシアは眠っていた。

 ずっと泣いたり悩んだりして疲れきっていたのだ。



 しかし、突然目が覚め、布団を跳ね飛ばして飛び起きた。



「……アル!?」


 

 <天照>と贈ったコートはどちらもアルの居場所が大まかに分かる。

 コートはあまりにも離れると意味がないが、<天照>は違う。

 


 竜族の秘宝・ルーンクリスタルで作られた<月詠>と<天照>は、余程の悪環境でなければ相互にリンクしてお互いの感情や居場所を知ることができる――――という伝承だ。


 私とアルは感情は分からないものの、居場所はいつも分かっていた。

 しかし、今は分からない。



 どこにいるか分からないアルの苦境を示すかのように<月詠>の刀身は黒ずみ、銀の光が弱々しく明滅していた。



 私は<月詠>と<エルディル>だけ持って、何も考えずに部屋を飛び出した。





 しかし、どこに行けばいいのか分からなかった私は、ちょうど夕食の時間だったらしく全員が集まったリビングに扉を蹴破るような勢いで入った。



 食卓はなんとも重い雰囲気に包まれていたのだが、私が入ってくると全員驚いたような顔で――――いや、驚いて私を見た。



「エリー、大丈夫なの!?」

「――――アルはどこですか!?」



 リリーが話しているのを遮って問いかけると、再び重苦しい沈黙がおりた。

 が、何故かいたフィリアが不安そうな顔で教えてくれた。


「アルは頭を冷やすといって昨日の朝出て行ったのですが、帰ってきてません…」



 私はそれだけ聞くと、一言だけ叫んで部屋を飛び出した。


「―――――探してきます!」

「―――エリー、ご飯は!?」



 お母さんが呼び止めるのが聞こえたが、私は帰ってきてからみんなに謝ろうと決め、窓を魔法で開けて外に飛び出し、翼を広げて一気に舞い上がった。




(――――誰か、誰かアルの行き先を知っていそうな人は…!?)



 そして、咄嗟に思いつけたのがローラとフェミルだった。

 しかし、ローラが何処にいるのか分からない。

 あてどなく彷徨うよりはと、私は藁にもすがる思いでフェミルの家に飛んだ。




 


 フェミルの家の入り口を破壊する勢いで飛び込むと、幸い患者さんはいなかった。




「フェミルさん、アルの居場所をしりませんか!?」

「――――なんじゃ、突然!?」




 アルの居場所が探知できなくなったことと、アルに危険が迫ってることだけ伝えると、信じがたい話だろうに、フェミルは信じてくれた。




「…まぁ、あのアルの恋人ならそれくらいできるじゃろうな」

 なにやら小声で呟いたので聞こえなかったのだが。



「まあよい、アルが最後に来たのは固有魔法を教えた時じゃが――――」


「…固有魔法です?」




「…なんじゃ、お前さんも知らんのか。己の本質たる魔法で、個性があって他人には真似できない魔法じゃ。そういえば探知系の固有魔法も――――」



「――――今すぐ教えてくださいっ!」



「…うむ、安全で遅い垂れ流しとコースと、危険で早い暴発コース――――」

「――――暴発でお願いします!」


「…いや、本気で死ぬぞ?」

「急がないとアルが死んじゃいます!」





――――――――――――――――――――――――――――――――――




 エリシアが風のように現れて風のように去っていくと、フェミルは溜息をついた。

 あの少女は本当に何者なのだろうか。


 魔力を暴発させたのに制御してみせ、アルの《イクスティア》と全く同じ状態になっていた。色は白だったが。


 しかも、固有魔法は別に習得したのだ。

 しかもその威力がまた…。

 目標にした大岩を跡形もなく粉砕し、後ろの木が大量に消し飛んだ。

 ……それで10%とか言っていた気がするが。



 探知系ではなかったので落ち込むかと思いきや、魔力が強くなったら電波がよくなっただの言い出し、礼を言うと一目散に南に飛んでいった。



 やれやれだ。とりあえず私もアルの無事を祈っておこう。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 エリシアは《イクスティア》を解除せずに王国に向かって白い閃光となって飛んでいた。

 フェミルの話だと、《イクスティア》はアルの固有魔法らしい。


 ……おそらく、アルのマナをダイレクトに何度か貰っているので体に受けたマナを取り込む私の体質と合わさって習得したのだろう。なんだか不完全な気がするが、他人の魔法なのだから仕方がない。



 《イクスティア》は身体能力・全感覚・魔力を一時的に強化する術のようだ。

 おそらく、使いすぎると解除されたときに一気に疲れが来るのだろうが今はそんなことを気にしていられない。




 私は鉱山らしき場所にアルの魔力を感知し、上空で止まった。

 アルの気配の流れ方から逆算すると、アルは相当奥深くにいるようだ。

 上のほうで無数の人が動いている気配もある。


 <月詠>の刀身の輝きがほとんど消えてしまっているのを見た私は、普通に潜る時間はないと判断した。



 天空を見上げると、白銀の満月が輝いていた。

 思い切り翼を広げ、両手を鉱山に向けて瞳を閉じ、呪文を紡ぐ。




『常夜の天空を照らす白き宝玉よ――――――!』



 私の掌が白く輝きだし、徐々に光は全身に広がっていく。

 月明かりを受けてその光は徐々に増していく。


 でもまだ……まだ足りない……!


 力を溜めつつ、確実に当てるためにアルと敵、そして鉱山内の構造を全神経を集中させて感じ取る。鉱山の壁は硬いようで、まだ力を溜める必要があった。




 中の魔力が濃過ぎて状況が分からず、アルの魔力がどんどん無くなっていく。


 しかし、今撃っても届かない。

アルが受けているかもしれない苦痛を思うと、ここで術を発動する選択をしたことを後悔した。



 それでも、絶対に間に合うと信じて力を溜め、遂に私の全身が白く輝いた。


 しかし術を放とうとしたその時、無情にもアルの気配が消えた。

 


 

 術を放とうにも気配が掴めなくて撃てない。誤射の危険がある。

 それ以上に、気配が消えたということは―――……。



 


「……アル?」



 私の頬を一筋の涙が流れ落ちた。

 私は一体何をしていたのだろう。心配してくれたアルを拒絶して、アルがどう思ったかも考えずに一人でめそめそ泣いていて。



 アルがいなくなるなんて耐えられなくて、気がつくと私は涙を流しながら全力でアルを呼んでいた。



「アル―――――――――――ッ!」



 きっと、アルは生きてる。いつものように笑って返事をしてくれる…。

 しばらく経っても何もなく、返事はないのだと思い、私はぼろぼろと涙を流した。



「アル……。アル……!」



 その時、小さな声が――――アルの声が聞こえた。





『ごめん、エリシア……。大好きだったよ』



 

 その瞬間、アルが『見えた』

 私は瞳を銀に輝かせ、叫んだ。





『ムーンライト・ブラスタ――――ッ!』





 私の手から爆発的な白い光芒が放たれ、鉱山を縦に貫いた。

 超高濃度に圧縮された私の魔力の残滓は結晶化して雪のように舞い落ちる。



 あまりにも巨大な術を放った反動で悲鳴をあげる体を無視し、私は翼を広げて急降下した。






 私は洞窟の中を急降下し、<キメラワーム>の死骸2つを完全に無視して倒れているアルとシルフに叫んだ。



「――――アル、シルフ、大丈夫です!?」


 

 アルは全身から血を流し、毒に蝕まれ、酷い有様だった。

 シルフも全身を毒にやられているようだが、致命傷ではなさそうだった。


 アルは茫洋とした目で私を見て、呟いた。



「……ユキ…?」



「―――――えっ…!?」




 一瞬、雪のように舞い落ちる魔力の結晶のことを言っているのかと思った。

 でも、アルの目はそれらではなく、私を見ていた。



 しかし、アルの目がどんどん虚ろになっていくのに気づいた私は、アルの唇にそっと自分の唇を合わせてマナを流し込んだ。


 同時に、高濃度の魔力に汚染されたマナをアルから引き抜き、自分の体で引き受ける。

 


 白竜の持つ癒しのマナによってアルの傷は瞬く間に治癒されていき、完全に治癒しきって唇を離そうとした瞬間、アルに抱きしめられた。



「―――――んぅ…!?」




 なんと、アルの魔力が唇から私の体に流れ込んできた。

 全身をまさぐられるような感覚に頭が真っ白になり、唇を離そうとするが離れない。



 本気で突き飛ばせば無論離せただろうが、そうする気にはなれなかった。



 どうするつもりなのかと思っていると、せっかく引き抜いた汚染させれたマナをアルが私から引き抜き返そうとしていた。



――――それはアルに苦痛を与えるだけなのに! 



 さっぱり訳が分からないものの全力で抵抗していると、私にも悪影響があるのではないかとアルが思って奪い返そうとしていることに思い当たった。



しかし、私には影響が無いのだとアルに伝えようとした瞬間、なんとアルは私の耳の神経を魔力で直接刺激してきた。



「―――――んぅぅ~~!?」



 言葉では表現できない感覚に襲われて私は全身を震わせ、力が抜けた私から、アルは汚染されたマナを全て奪い返して唇を離した。




「んぅ~~~っ!」



 私は耳に残る感覚に耐えられず、両手で耳を押さえて地面を転げまわった。



「――――って、大丈夫かエリシア!?」



「――――み、みみぅ~~っ!」



 「耳が~~!」と叫びたいのにヘンな声が出た。平衡感覚もイカれたらしく、頭がぐらぐらした。


「―――ま、待ってろ今治す!」

「――――っ!? ら、らめっ!」



 上手く力が入らない私の手をどけてアルが耳に触った瞬間、更に激しく感覚が爆発した。






――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 数分後……。



 エリシアをノックアウトしてしまった俺は、シルフを治療した。


「……まさかエリシアも耳が弱点だったとは」


 俺は一人呟き、エリシアを見やった。

 


 かなりやりすぎてしまったらしく、直接魔力で神経を刺激されたエリシアはまともに立つことすらできない有様だった。

 ……焦ってたし、ドラゴン相手だから思いっきりいったほうがいいと思ったんだよ。

 

 ちなみに、何で耳かっていうとユキが耳が弱点でさ…。



 そのとき、顔を俺に見せないように地面に転がっているエリシアからすすり泣く音と何やら呟いているのが聞こえた。


「…ぐすっ、またお嫁にいけません……」



(……また?)



 その時、再び洞窟に地響きが轟いた。

 で、俺はようやく思い出した。


「――――後2体いるんだった!」


「―――――えっ!?」



 エリシアが慌てて立ち上がろうとするが叶わず、地面にへたり込んだ。


「……えーと、ごめんな?」

「……アルは変態です!」



「待て待て、あれは自分の汚染マナは自分で引き受けようと――――」

「…私に汚染マナは効きません」



「…マジ?」


 エリシアは無言で頷いた。



 いつもなら謝ればすぐ許してくれるのに…。

 やっぱり嫌われただろうか…。

 いや、こんなところにまで助けに来てくれたんだし…。


 俺は少し考え、エリシアの目を見つめて問いかけた。



「…嫌だったか?」

「――――っ!?」



 エリシアは顔を真っ赤にして俯いた。

 おお、嫌じゃなかったのか。よかったよかった。



 おっと、シルフを起こさないと――――。


 シルフを見ると、俺とエリシアを思いっきり楽しそうに見ていた。

 で、俺に見られてることに気づくと慌てて目を閉じた。



「…シルフ」

「呼ばれて飛び起きドドドドーン! シルフ只今―――きゃあっ!」



 シルフが飛び起きた瞬間、毒でぼろぼろだった服が崩れ落ちて、見えちゃイケナイものが見えてしまった…。


 


 そこで俺も自分の服も殆ど意味を成さなくくなっていることに気づいた。

 なんだろう、すごく恥ずかしい。コートはなんとか原型をとどめているが。

 なんか視線を感じてエリシアを見ると、エリシアは顔を真っ赤にして視線を逸らした。




 仕方ないので、俺は自分とシルフに服を着ているように見える偽装魔法をかけた。

 これは余程の使い手でなければ看破できないし、できる人間でも看破する気がなければ俺とシルフは服を着ているように見える。


 あと、エリシアが上着を脱いでシルフに渡した。

 夏なのでエリシアは下着と上着一枚しか着ておらず、なんともコメントしにくい格好になってしまった。

 思わず偽装魔法を看破して少しだけ見てしまったが、エリシアに気づかれて真っ赤な顔で睨まれてしまった。



 で、エリシアが開けた穴から脱出しようとしたのだが――――。



「あ、ギニアスとミリアいるじゃん」

「……え? あ、ほんとです!」

「エリシアさんは気づいてなかったんですか…」



 ……あれ、そんな状況で俺たちは一体何をしてたんだ?

 一瞬3人で顔を見合わせ――――。



 俺は軽く咳払いして口を開いた。



「……よし、助けてくれてありがとう。エリシア! すぐギニアスたちを助けよう!」

「はい、急ぎましょう!」

「流石ご主人様ですね♪」




 俺たちは何も無かったことにしてギニアスたちのいる場所を目指した。




 と、俺はエリシアの術が直撃したところになにやら銀色のものを見つけ、エリシアの耳に息を吹きかけて悶絶してる間にこっそり飛行魔法を使って拾っておいた。

(風穴が開いたので魔力濃度が下がり、飛行魔法が部分的に使えた)



「――――うぅぅ~~!」


 いきなり何をするんだとばかりにエリシアに睨まれたが、本来の目的だったのだから見逃してほしい。









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