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銀雷の魔術師  作者: 天城 誠
第六章:放浪編Ⅱ 
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第七話:限界


 ギニアス、ミリア、ガントの3人は、魔力で脚力を強化して全力で奥を目指していた。

<キメラワーム>に見つかるのは避けられないが、アルがまだ生きているなら、注意をこちらにひきつける価値はある。

 ミリアは嫌々というふうにしているが、なんだかんだで必要以上に不満は言ってこない。

 ガントも真剣な表情で周囲の気配を探っている。


 僕は、<エレボス>に語りかけた。


『エレボス、アルの魔力を感知できないか?』

『いや、無理だな。魔力が濃い。なかなか美味そうな魔力だが――――』


『…どうした?』

『下から接近する気配多数だ。気をつけろ』



「――――ギニアス!」

「来るぞ、二人とも!」

「――――っ、分かった!」


 どうやらミリアも気づいたらしい。一拍遅れて僕にも多数の気配が近づいてくるのが感じられた。<エレボス>を抜きながら走り続け、ガントとミリアも得物を抜きながら後ろに続く。




『グオォォォ――――ッ!』



 遠くから響いてくるような気味の悪い鳴き声と共に無数の触手が地面から襲い掛かってきた。


「<三日月>!」

「<ヴァルカディア>!」

「<ヴァルケイン・レーザー>!」



 ギニアスの剣から漆黒の衝撃波、ミリアの手から紅蓮の炎、ガントの手から炎のレーザーが放たれ、触手をなぎ払うが次々と新たな触手が生えてくる。



「――――くそっ、キリがない!」

「ギニアスのバカ! <キメラワーム>の再生力は常識でしょ!?」

「くはっ、これほどとはな!」



 3人で逃げながら触手を切りまくるが、徐々に床だけでなく壁や天井からも触手が襲ってくる。なんとかやりすごしながら少し進むと、前方の床が崩壊し、下から巨大な口がついた馬鹿でかい触手が這い上がってきた。



「――――あれか、ミリア!?」

「違う、アレは分体! 倒したほうがいいけど! 《スカーレット・バラージ》!」

「うおっ!?」



 ミリアの腕が真紅の竜の腕に変化し、ガントが驚きの声をあげる。竜の掌から巨大な緋色の炎弾が無数に放たれ、分体の口の中に入って焼き尽くす――――が、次から次へと再生していく。



「――――十分削ったでしょ、ギニアス!」

「――――ああっ! <奈落・烈残衝>!」



 体積の減った<キメラワーム>の分体を、漆黒の闇が飲み込んだ。

 ギニアスの額に玉の汗が浮かぶ。


 闇属性の術である<奈落>は、対象を闇で飲み込んで消滅させることができるのだが、対象の体積と魔力量に応じてギニアスの魔力が消費されるので、<キメラワーム>は大きすぎる。そこで、ミリアが体積を削ってから消滅させることになったのだ。



「まだ一個目! へばらないでよ、ギニアス!」

「――――大丈夫だ、問題ない!」

「くそっ、まだ触手が動きやがる!」



 そう、分体を倒すと若干周辺の触手の反応が鈍くなるが、それだけだ。

 <キメラワーム>を倒すには本体の脳か心臓を消滅させる必要がある。

 しかし本体に近ければ近いほど強く、硬い。

 

 3人は最初から倒せるとは思っておらず、いくつあるか分からない分体を可能な限り減らして、生きているはずのアルの負担を減らすためだけに戦っている。




『ギニアス、2体目と3体目が左右から接近している』

『―――わかった!』


「ギニアス、ガント! 左右から一体ずつ!」

「了解だ!」



 再び、ミリアが腕を竜の腕に変化させ、魔力を爆発させる。


「来なさい、ミミズ如きじゃドラゴンには勝てないってことを教えてあげるわ!」






――――――――――――――――――――――――――――――――――




(――――なんだ、背後のヤツの動きが鈍った!?)



 アルは背後から追ってくる分体から必死に逃げていた。

 ドーム状の広場で分体を一つ再起不能なほど粉々にしたのだが、<キメラワーム>は何の影響もないかのように動いている。


 本で読んだ限りだと、<キメラワーム>は記録上最低8、最高20の分体を持つ。

 この<キメラワーム>はかなり大きそうであり、運がよくても15はあると考えていい。

 そんなものを一人で全部潰そうとしたらキリがない。



 だがしかし、今動きが鈍った理由が他に戦っている人がいるからなら―――。

 一瞬、エリシアの顔が浮かんだが、即座に打ち消す。

 俺はそんなものを望める立場じゃない。


 なら、――――ギニアスとミリアか?

 ギニアスは来るような気がするし、ミリアがエリシアと根本が同じならギニアスを一人で行かせるのは有り得ない。



 もしもあの二人がいるのなら、可能性は0じゃない―――!


 俺は反転して分体に対峙し、左手に<天照>を持ち、動かせない右手にだらりと<アイテール>を持った。


「うおぉぉぉ―――――ッ! <疾風剣>!」



 常以上に魔力を込めた<天照>は、眩い純白の光を放ち、白銀の衝撃波が分体を縦に真っ二つに切り裂いた。


 しかし、なんと切れ目から血と一緒に触手が飛び出し、再び接合しようとする。


「――――《イクスティア》!」



 そうはさせじと、銀の流星となった俺が左手一本で分体を切り裂いて行き、分体の中にあった脳が粉微塵になるまで切りまくった。


 <アイテール>の浄化能力をアテにした荒業であり、浄化しきれなかった毒が俺の体のあちこちに火傷のような傷を作り、服が穴だらけになるが、エリシアのコートには傷一つない。……このコートに何回助けられただろうな。



 分体が動かないことを確認した後、《イクスティア》を解除し、一応炎魔法で残骸を焼き尽くしておく。


 

 そしてその場を離れようとしたとき、分体とは比べ物にならない魔力―――殺気が全方位から俺に叩きつけられた。



(――――やばいっ!)



 何かが飛来するのを感じた俺は、咄嗟に<天照>を振って剣技を発動する。


「<白夜>!」


 銀の雷を纏った<天照>で突きを放ち、飛んできた剣のように鋭い触手を弾き返す。

 しかし、地面から、天井から、壁からも無数に同じものが飛んでくる。



「――――――ぐあぁッ!」



 俺は咄嗟に致命傷は避けたものの、右腕と左腕、脇腹を貫かれ、それ以外の箇所にも無数の切り傷を負い、それらの場所が灼熱した。



「―――――――うっ……がぁぁぁぁ!?」



 ―――毒だっ!

 バラバラになりそうな思考のなかでなんとか考え、激痛をこらえて右手の<アイテール>を自分の腹に突き刺した。



 <アイテール>が白く輝き、俺と俺に刺さった触手もその光に包まれ、俺は体の激痛が和らいだ。おそらく毒の浄化に成功したのだ。


 その上、浄化された触手は腐って粉々になった。


 思わぬ効果に心の片隅に希望が芽生えるが、その瞬間を見計らっていたかのように、前方から異形の怪物が現れた。




「―――――嘘、だろ」



 <キメラワーム>の本体は、巨大な、凄まじく巨大なサソリのような形をしていた。

 尾や背中から分体が生えているのが見える。その数23本。

 そのうち5本は死んでいるのか、ほかのものが不気味な光を放ちながら脈動しているのに対して黒ずんだまま動かない。残り18本。

 俺は満身創痍で右腕は使えない。



「―――くそっ、<リヴァイブ>!」



 <キメラワーム>が襲ってくる前にと、自分に<リヴァイブ>を掛けるが、全身が灼熱し、毒を受けたとき以上の激痛が俺を襲った。



「――――――うぐ…ごあっ……ぐあぁぁぁ――――っ!」



 あまりの激痛に地面に転がりながら血を吐いた。


 数秒で俺の傷は塞がった。しかし体はボロボロだった。

 高濃度の魔力に、右腕だけでなく全身の限界が近い。

 負担の大きい治癒魔法はもう無理なようだ。



「――――くそ…馬鹿かよ、俺は……」



 逃げない獲物を訝しむかのように、ゆっくりと<キメラワーム>が近づいてくる。

 距離、およそ20m。

 


「――――まだ…まだやれる……!」




 口からだらだらと血を流しながら俺は<天照>を突いて立ち上がり、俺がまだ動くのが分かったのだろう。<キメラワーム>は再び剣状の触手を四方八方から飛ばしてきた。




「―――まだ…まだ死ねないんだ……。まだ、エリシアに謝ってない……!」


『――――契約が未遂なのに勝手に死なれては困るな』




 俺の脳裏に懐かしいとさえ思える声が響き、暗い洞窟に極光が煌いた。




 剣のような触手が極光に触れた途端粉々になり、極光は洞窟を明るく照らし出す。<キメラワーム>がハサミのような腕で目をかばい、怒り狂った。



「グギョアァァァァ―――――ッ!」



 <キメラワーム>の口が開かれると、虹色の毒々しい液体が洪水のように放たれた。



『ん、これは無理だな』

「――――はぁ!?」



 カッコよく登場したくせに!?


 

『なに、落ち着け。まだいるだろう?』



 と、勝手に鞘に収めてある<シルフィード>が見えない何かに引き抜かれると、その刀身に緑の風が集まり――――。



『呼ばれてないけどデデデデーン! ご主人様のピンチに颯爽と登場です♪』



 いつもと違い、シルフに剣が取り込まれて本当に肉体があるかのようなシルフが実体化した。


「テステス、あー、あー。肉声は久しぶり~♪ <ハリケーン>!」


 シルフの手から洒落にならない突風が吹き荒れ、毒液を吹き飛ばして<キメラワーム>の背中にぶっ掛けた。<キメラワーム>の背中が溶けて悶え苦しんでいる。意外と効いているようだ。



「グググガガギャァァァ―――――ッ!」




「…シルフ?」


 シルフがいつも以上に生々しい存在感を放っており、まるで生きているようだったので、試しにシルフの頬をつついてみると、柔らかいぷにぷにとした触感が返ってきた。

 シルフは誇らしそうにあんまり無い胸を張った。なんか前より幼い?



「えっへん! 構成魔法式の途中でしたが、無理やり来たので若返ってしまいました♪ ご主人様の生命力構成固有術式の7~18番を借りて今までに無い新感覚の完全実体化を実現しちゃってますよ♪」



「……なんかよく分からないんだが、強いってこと?」



「もちろんです、更にできるようになったな…! って感じですよ♪」



 思わずシルフの空気に呑まれて平和な空気になってしまったが、<キメラワーム>がものすごい勢いで俺とシルフに向かって突っ込んできていた。

 口から虹色の毒液を垂らし、目を不気味に明滅させており、かなり怖い。





「……んじゃ、シルフよろしく」

「はい――――って、きゃぁぁ―――!? 逃げましょう!」



「……はい?」

「気持ち悪過ぎます! 断固拒否です! <ウイング>!」




 一応、俺が動けないことは分かってるらしく、俺も飛行術式の中に入れて運んでくれるが、<キメラワーム>は予想外の俊敏性を見せて着実に距離を詰めてくる。

 この魔力の海の中で飛行術式を展開できるのは流石だが――――。



「おい、シルフ!? 追いつかれるからなんか攻撃を―――」

「無理ですよ! あんなグロテスクなの見れません!」



「くっそ!? おいアウロラ! 交代とかないのか!?」

『む、私は構成が終わってないから今は頭しか出せない』



 頭だけ!? 何それ、肝試し以外使い道ないじゃん…。


 そんなことを言ってるうちに俺のすぐ背後に<キメラワーム>のハサミが追いつき、コートの端を切られてしまった。凄まじい切れ味だ。



「シルフ! 適当に後ろになんか飛ばせ! 見なくていいから!」

「うぅ~~! ご主人様はサドです! <カマイタチ>!」



 適当に振ったシルフの手から真空波が放たれ、偶然にも俺の後ろのハサミに直撃。

 が、ちょっと傷がついただけだった。



「シルフ……頑張ってくれ!」

「……ご主人様にそんなに言われては仕方ありません、シルフ行きます!」




 途端にシルフが緑の輝きを放ちだし、<キメラワーム>のいる後ろを向きながら目を閉じた。

 え、余所見運転!? とか慌てる俺を放って、シルフが朗々と詠唱し始める。



『果て無き風は何処いずこへ行くや? 我が刃は何処へ向かんや?』



 まるで歌うように唱えるシルフの魔力がどんどん高まり、シルフと俺を囲うように魔力の突風が吹き荒れ、振り下ろされた<キメラワーム>のハサミを弾き返した。



『気まぐれな天候の女神よ、私に微笑みを――! 《フォアキャスト・テンペスティア》!』




 かつてない規模の魔力の嵐が吹き荒れ、<キメラワーム>をいくつかの分体の触手を引き千切りつつ吹き飛ばし、ついでに今いる洞窟が崩落し始めた。



「――――嘘だろっ!?」

「やりすぎちゃった。てへ、ペロッ♪」



 シルフが舌をペロっと出してる間にも上から巨大な岩が幾つも降ってくる。

 俺とシルフは無数の岩に埋め尽くされてしまった。







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