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銀雷の魔術師  作者: 天城 誠
第六章:放浪編Ⅱ 
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第六話:深部




 俺は無茶な加速で右腕を痛めたものの、なんとか<キメラワーム>の体をぶち抜くことに成功し、下にあった真っ暗な洞窟に下りた。

 途中で毒液っぽいものも見えたが、<アイテール>が浄化してくれたようだ。


 ……ということは、突っ込まなくても<アイテール>で浄化すればよかった気もするが、終わったことは仕方ない。

 偶然にもすぐ近くで<天照>と<アウロラ>がちかちかと明滅しているのが見え、拾いに行った。が、拾った瞬間、ものすごく嫌な感じのものを踏んだ。



 で、<アウロラ>と<シルフィード>を鞘に収めてから、真っ暗な洞窟を<アイテール>の光で照らしてみると――――。



 俺の周囲に無数の目と触手が見えた。



「―――――…っ!?」



「グオォォォォ―――――ッ!」



 止めとばかりに俺の目の前に巨大な口があり、咆哮した。




「うおぉぉぉ―――――っ!?」



 俺はへばりつこうとする触手を浄化しながら<天照>と<アイテール>で切りまくり、口と反対の方向に全力でダッシュした。



「グガァァァァ―――――ッ!」



 触手を切られて怒り狂う口が、物凄いスピードで大口開けながら俺めがけて突っ込んできた。魔力濃度が高すぎて飛行魔法が使えない! こんな高濃度なところで飛んだら制御できない!



 ビームでできた剣の如く輝く<アイテール>の光で分かれ道が見えた。

 咄嗟に右に曲がると、俺は足場と重力が消失するのを感じた。



「――――んな!?」



 そう、<キメラワーム>が開けたらしい穴が開いていたのだ。

 飛行魔法が使えない俺は、何も出来ずに奈落の底に落ちていく――――。



 咄嗟に落下しながら<アイテール>で穴の中を照らすと、穴は直径およそ30メートルほどもあり、俺は両腕を広げて姿勢を安定させつつ、底が見えないか落ちながら目を凝らすが、全く先が見えない。




 このままの速度で地面に激突したら、確実に死ぬ―――!




「―――くそっ、シルフ!」




 <シルフィード>に呼びかけるが、返事はない。




「おい、アウロラ!」



 やはり<アウロラ>も返事はない。




「…頼む、アイテール! <サーマルブラスト>!」




 <アイテール>が銀の流星となって放たれ、反作用で俺の速度が若干落ちるが、焼け石に水状態。だが、そっちは本命じゃない―――。




 いつも以上に魔力をこめた<アイテール>は眩い銀の光を放って落下し、地面に突き刺さって閃光を撒き散らすのが見えた。




「―――――天をも切り裂け、銀の雷! <サンダーボルト>!」



「轟け雷砲、ぶち抜け! <サンダーブラスト>!」




 続けて雷を地面に叩きつけるが、俺の勢いは全く衰えない――――!




 くそっ、シルフがいれば――――って、ん?




「吹き荒れろ烈風! <ハリケーン>!」



 魔法で強烈な上昇気流をつくると、俺の速度はみるみる落ちていき、そのまま軟着陸に成功した。


 俺は一体何をしていたんだ……。飛べなくても風は使えるだろうに。


 若干自分の短絡さに落ち込みつつ、<アイテール>を回収して周囲を照らした。




 今まで色々試してきて、単純に魔法で灯をつくるより<アイテール>を光らせたほうが魔力を撒き散らさないので魔獣等に見つかりにくいことに気づいたのだ。




 上を見上げるが、暗闇しか見えない。

 慌てていたのでどれだけ深く落ちたのか見当もつかない。

 というか、<キメラワーム>が俺を追っている可能性があるので、この穴を登るのは論外だ。待ち伏せの危険がある。

 

 Sランク魔獣ともなれば、一定の知性を持っている…らしいのだ。



 何はともあれ、道を探そうと周囲を見渡すと――――。



 4方向に洞窟が枝分かれしていた。




「うわぁ……」



 正直、勘弁してほしい。

 魔力が濃過ぎて魔力探知しようとすると気分が悪くなるし。

 一人で真っ暗な場所で<キメラワーム>に狙われてるとか洒落にならない。

 代わりに魔力の回復速度は早いだろうが、こういう場合は魔力探知ができたほうがよかった。


 とにもかくにも、どこかに上に向かう道もあるはずだ。俺は適当に一番近い洞窟に入った。







……………






 一体どれだけの時間歩き続けたのだろうか。

<キメラワーム>に発見される危険性が高まることから、魔法はなるべく使わないほうがいい。


 そのため、急過ぎる道などは登ることができなかった。


 ときたま現れる<ワーム>の群れや、吸血コウモリの<キラーバット>などとの戦いで、俺は徐々に消耗していった。


 しかも、ほとんど上にあがれていないことが俺の疲労に拍車をかけた。





………





 小さな洞窟の行き止まりで結界を張って仮眠をとった。


 目覚めると空腹を覚え、お土産にもらっていたニーナさん製のパンがあったことを思い出して食べた。

 そして俺は右手の感覚がおかしいことに気づいた。上手く動かすことができず、治癒魔法をかけると激痛が走る。



(――――まさか、長時間高濃度の魔力に浸かっているから体がイカれてきてる?)



 高濃度すぎる魔力は体に悪影響があると本で読んだような気がしてきた。

 力を込めようとすると小刻みに震える右手を見つめながら俺は考えた。



 助けが来れる可能性は限りなく低い。<キメラワーム>相手に逃げ遅れた上に、ここがどれだけ深い場所なのか見当もつかない。こんなところにくるのは余程のバカくらいだ。

 それでも来そうな人たちはみんな遠く離れた皇国だ。というか、誰にも行き先を言っていない。


 

 ……イカれた右手を見ればわかる通り、あまりこの場所に長居することはできない。

 


 再び歩き出した俺は、近くにあった分かれ道のうちの一本が、かなりの急角度で上に向かっているのをみつけ、魔法を使って上を目指すことを決意した。

 時間が経ったことで<キメラワーム>が俺を忘れたことを祈るしかない。




「……吹き荒れろ、突風! <ハリケーン>!」



 飛行魔法の応用のような形で、俺の体に強烈な上昇気流をあてることで上を目指す。

 自分の精神力が更に削られるのを承知で全力で魔力を探知しようと気配を探る。

 今の状態で奇襲されたりしたら目もあてられない。



 全力で気配を探ってもすぐ近くの魔力しか探知できなかった。

 心臓が大きな音をたてているのを感じつつ、俺はなんとか無事にその急斜面の終わりに行き着いた。

 


 急斜面を登りきると、比較的大きな洞窟に繋がっているようだった。暗くて良く見えないが―――。





 そのとき、俺は右から何かが飛んでくるのを感知した。

 咄嗟に右腕を振り上げて叫ぶ。


「<サンダーボルト>!」



 しかし、常のように勢いよく雷は放たれず、白い雷がわずかに放たれ――――。


「―――――うぐっ!?」


 すさまじい激痛が俺の右腕を襲った。高濃度の魔力でイカれた俺の右腕は、<サンダーボルト>の発動に耐えられなかったのだ。



 そこに追い討ちをかけるように、突き出した俺の右腕に不完全な<サンダーボルト>では防ぎきれなかった紫色の液体がかかり、更に凄まじい激痛が俺を襲った。



「ぐあぁぁぁ――――っ!?」



 服の右腕部分が瞬く間に溶けてなくなり、皮膚が焼け爛れていく。

 咄嗟に左手で<アイテール>を右腕に押し当てて魔力を流すと腐食が止まるが、痛みが止まるわけではない。




 あまりの激痛に右腕を押さえ込んで膝をついてしまった俺の前方に、不気味に光る目がいくつも現れた。



「――――くそっ!」



 力を振り絞って立ち上がった俺は、<アイテール>で牽制しつつ反対側に向かって駆け出した。





―――――――――――――――――――――――――――――――――――




 時間は少し戻り、ミリアに言われて鉱山行きの準備をしていたギニアスは<キメラワーム>の出現と、アルが食い止めるために残って行方不明だという報告を聞いた。

 ギニアスは用意していた荷物を引っつかみ、自力では飛行魔法が使いこなせないため、ミリアの部屋に駆け込んだ。



「―――――ミリア!」

「あ、ギニアス。なんだか大変みたいだね。……鉱山閉鎖かなぁ」



 ミリアは「もう行く気ありません」といわんばかりにソファーに足を伸ばして座っていた。



「ミリア、鉱山まで運んでくれ」

「やだ、なんでわざわざ危ないところにいくのよ。そんなマゾ趣味ないわ」



「なら、入り口まで運んでくれればボクが一人でいく」

「もっと却下。ギニアス一人で<キメラワーム>に勝つなんて無理。あたしにも勝てないでしょ」



「……アルと協力すれば勝てるんじゃないのか?」

「無理無理、もう死んでるわよ。生きてたらとっくに脱出してる。もう5時間は経ってるんでしょ?」



 そう、飛行魔法なんて使える人間はごく限られており、鉱山にはいなかった。

 即座に早馬がとんだが、<キメラワーム>出現からかれこれ5時間は経過している計算になる。



「行ってみなければ分からないだろう! ……怖いなら行かなくてもいいが」

「……なんですって?」



 途端、ミリアの目が燃え上がり、荷物と剣を引っ掴んだ。



「いいわ! ミミズ如き、私が一捻りにしてやるんだから!」




 ギニアスは急にやる気になったミリアに呆れつつ、窓から飛び降りて竜になったミリアの背中に飛び乗り、鉱山を目指した。




10分後……。


 ドラゴンの飛行速度は飛行魔法を大きく上回る。背中にギニアスを乗せてなければもっと速いらしいが。ギニアスとミリアは<ガルガント鉱山>に到着し、現地の担当者がいるというレンガ造りの建物を訪ねた。



 するとドワーフの男と、見慣れた大男の将軍が話していた。


「―――ライル将軍!」

「うわ、このオヤジかぁ……」



 人型に戻ったミリアが嫌そうに呟くのを尻目に、ギニアスが将軍に声を掛けた。


「――――ギニアス殿下、なぜ此処に!?」


「取り残されたのは私の友人です。状況を聞きたい」



 ミリアは「うわぁ、ダメだこりゃ」と思いつつ、周辺にいる兵の配置と数を頭に叩き込む。将軍の返事は予想通りだった。



「殿下、一国の王子たるものが私情を持ち込むべきではありません!」


「わが国の民を助けるために残った者を見殺しにするというのか!?」



「必要とあらば。殿下のお命のほうが大切です」



「もういい、私だけで行く!」



 そう言ってギニアスは踵を返すが、出て行く前に将軍の指示が飛んだ。


「お前たち、殿下を行かせてはならん!」



 途端に、兵たちがギニアスを止めようと――――。




「<スモーク・ハリケーン>!」



 ミリアの周囲から煙幕が爆発的に発生し、ミリアはギニアスの手を引っ掴んで適当に兵士をあしらって外に出た。



「ギニアスは甘過ぎ!」

「―――ありがとう、ミリア!」



 そのまま二人で洞窟に駆け込む。止めようとした兵士は適当にミリアが撹乱魔法でやりすごした。と、後ろから先ほどのドワーフが走ってくるのが見えた。


「―――――待ってくれ、俺も行く!」

「…はぁ?」


 意味がわからないという感じのミリアを制し、一緒に走りながら事情を聞くと、アルと一緒に洞窟に入っていたガントというドワーフだった。


 先にいくように言われて、アルの腕を信じて従ったものの、戻ってこなかったために助けにいこうとしたが、行かせてもらえなかったらしい。




 ミリアは懐疑的だったが、ギニアスは協力してもらうことにした。

 ガントは道を知っている上に、なかなか強そうだったからだ。

 

 3人は、<キメラワーム>がいる奥に向かって急いだ。







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