第五話:探し物
さて、俺はアイリア大陸でも最大級の鉱山<ガルガント鉱山>に来ていた。
入り口にいた気のよさそうなドワーフのおっちゃんに許可証を見せると…。
「おう、迷子になるんじゃねぇぞ! 魔物には気ぃつけろよ!」
と言って快く通してくれた。
俺はお礼を言ってから坑道に入った。
坑道の中には、一定間隔でランタンが並んでいるものの、薄暗い。
また、高魔力濃度のため光る苔なんかも生えてたりするが、暗いものは暗い。
坑道の中は魔力濃度が高くなっており、魔物が多い。
なんでそんなところに鉱山をつくるのかというと、そのほうが優良な魔法鉱石が採掘できるからだ。
そしてこの<ガルガント鉱山>の魔力濃度も大陸最大級であり、でる魔物も鉱石も最高品質である。
なんで今鉱石採掘なのかはさて置いて、かなり危険だ。そのため集団で潜ることになっており、ちょうど出発間際だった。グループはおよそ150人といったところか。
そして、俺の背後から大声が響いた。
「ようしっ! そろそろ出発だ! 俺が今回のグループリーダーのガントだ! よろしく頼むぜ!」
……さっきの入り口のドワーフのおっちゃんだった。
ガントさんは先頭に立って歩き出し、戦闘力なら一般平均より少しくらい上だろうと思う俺もガントさんの少し後ろに続く。気持ちが急いでいるのもあったかもしれないが。
ガントさんはそんな俺に心配そうに声を掛けた。
「おい坊主、無理せず後ろにいていいんだぞ? 許可証を持ってるんだからノルマも何もないんだ。魔物が出やすい先頭は一番死にやすいんだぞ」
「ありがとう、ガントさん。こうみえても俺も一般平均くらいは戦えるよ?」
「……ここは王国最大の魔物の溜まり場だぞ? いいから下がって――――」
「――――ガントさん、魔獣の群れです。<サンダーボルト>!」
早速コウモリ型魔獣が20匹ほど現れ、俺が雷を放って十数匹を一度に殲滅する。
ガントさんも流石の反応をみせ、瞬時に魔法を発動した。
「<ヴァルケイン・レーザー>!」
ガントさんの右手から10本ほどの炎のレーザーが放たれ、残ったコウモリ魔獣を殲滅した。
ガントさんは俺を見て楽しそうに笑った。
「クックック、悪かったな坊主。やるじゃねぇか!」
「ガントさんは流石ですね」
「へっ、褒めたって何もでねぇぜ?」
「あー、魔獣なら出ましたよ」
魔法の気配に驚いたのか、大量の<ワーム>が地面からワラワラ出てきた。
<ワーム>は、簡単に言えば毒持ちの巨大ミミズだ。長さ約5メートル…とのことだが、ここのワームは特にデカイとの話も聞いている。
俺は、<天照>を――――いや、<アウロラ>を引き抜いて魔力を流し、手近なワームを切り裂き、周囲を見渡す。
鉱夫の人たちは、突如地面から襲ってくる<ワーム>にも驚くことなく剣を引き抜いて応戦している。けっこう戦いなれてる感じだった。
周りを気にしている俺に気づいたのか、ガントさんが<ワーム>を斧で切り裂きつつ叫んだ。
「坊主! 一応全員手だれだ、気にせず戦え!」
「――――わかりました、閃光を撃ちますから目を閉じて!」
「――――はぁ!?」
「――――<サンダー・ライトニング>!」
俺の手から爆発的な閃光が放たれ、一瞬だけ視界が白く染まった。途端に<ワーム>が全てダウンし、ピクピク震えるだけでほぼ動かなくなった。
俺は、味方に巻き込まれた人がいないのを確認しつつ、次々と<ワーム>を切り裂いていった。
全ての<ワーム>が片付くと、ガントさんが驚きすぎてなんと言っていいのか分からないといった顔で話しかけてきた。
「……どういう仕組みでぃ?」
「いえ、<ワーム>の表皮と目はとても敏感らしいので、強力な光には弱いだろうと。いやー、思った以上に上手くいきましたね」
「…坊主、おめぇ何者でぃ?」
「……ただの学生ですよ?」
「……まぁいい、終わったら一杯付き合えよ」
「いえ、未成年ですけど」
「魔力薬のほうだよ、この調子で魔法撃ってたら消耗するだろ?」
「あー、そうですね……」
確かにそうなのだが、アレはしばらく飲みたい気分じゃなかった。
というか、俺には急用があるのだ。
「すみません、せっかくですが急ぎなのでまた今度で…」
「む、それなら仕方ねぇ。いつか付き合えよ?」
「ええ、是非」
――――――――――――――――――――――――――――――――――
その後、<スライム>の亜種やコウモリ魔獣に襲われたりもしたが、概ね平和であり、誰も負傷したりすることなく採掘場所になっているらしいドーム状の空間にたどり着いた。
けっこう広く、体育館6個分くらいはありそうだ。
「ようし、お前ら! 堀りまくるぞ!」
「「「「オオォォ――――ッ!」」」」
ガントさんの掛け声に応じて全員一斉にピッケルを振り上げ、各々掘り始めた。
俺は前世の鉱山には詳しくないのだが、こっちでは魔力の特に溜まった空間をドーム状に掘ることが多い。魔力鉱山は概ね頑丈であり、落盤事件などはほとんど聞かない。
俺も魔力を使って借りたピッケルを強化し、ガリガリ掘っていく。
まず、ルビーっぽい宝石を見つけた。違うな。
俺はルビーっぽい宝石を適当に地面に置いた。
次にダイヤモンドっぽいのをみつけた。何か違う。
ダイヤモンドっぽいものも適当に地面に置いた。
魔力強化したピッケルはどんどん宝石やら鉱石やらを掘り出し、しかし俺はそれらを地面に放置する。興味ないと言わんばかりである。
数十分ほどすると、ガントさんが見かねたのか声を掛けてきた。
「おい、坊主。ちゃんと仕舞っとけ。というか、何か探してるのか? 俺はココには詳しいぞ?」
俺は一旦手を止めて、ガントさんに言った。
「…実は、何か綺麗なものを探してるんですが」
「……そこに散らばってるのじゃダメなのか?」
「えーと……、これより綺麗なほうが」
そう言って俺は<天照>を少し引き抜き、その白銀の刀身をガントさんに見せた。
「……無茶言うなぁ、坊主。その剣が何でできてるのか見当もつかねぇが、そんなもの滅多に見ねぇぞ。あるとしたら、もっと下―――――」
その時、洞窟が激震した。
下から魔力が爆発的に溢れ出し、何か巨大な存在がいることを俺は直感した。
そして、ガントさんは即座に叫んだ。
「総員撤退! ヤツが出たぞ! 王宮に大至急知らせろ!」
全員ロクに荷物も持たずに走り出し、ただ事ではないと悟った俺もガントさんと並んで走りつつ聞いた。
「ガントさん、何が出たんですか!?」
「<キメラワーム>に違いねぇ! ここにはいねぇかと思ってたんだが…!」
「――――げぇっ!?」
俺は思わず変な声を出してしまったが、それも当然。
<キメラワーム>は前にも言ったが小さくとも100mある巨大生物で、Sランク魔獣だ。しかもSランク魔獣のなかでもかなり強い部類だとされている。
必死に全員で走り、グループの半分ほどがドームから出たとき、遂にヤツは現れた。
地面を突き破って無数の嫌なピンク色の触手が生えてきたのだ。それぞれがどれくらいの長さなのか見当もつかないそれらは、自由自在に動いて獲物を絡めとろうとする。
しかも最悪なことに触手は皮膚にはりつく粘液を出すので、かすっただけで離れられなくなるらしい。
そして極め付けに、ドームの中心のあたりに本体の一部と思しき巨大な口のようなものが現れた。同じく嫌なピンク色。
無数の小さな歯(いや、十分大きいが)が粘液でギラギラと輝き、不気味なことこの上ない。
さすがの鉱夫たちも動揺してしまい、十数人が触手に絡めとられて口の方に運ばれていく。
「い、いやだ! 死にたくない――――!」
「うおおぉ―――っ!? 離せ、畜生!」
「なんで離れねぇんだよ!?」
「――――くそっ!」
俺はもう少しでドームから抜けられたのだが、踵を返して本体に向かって駆け出した。
「――――待て、坊主!」
ガントさんが止めようとするが、俺は<天照>と<アウロラ>を引き抜きつつ叫び返す。
「此処を出ても危険です! ガントさんは向こうを頼みます!」
「――――くそっ、死んだら承知しねぇぞ、坊主!」
「――――了解!」
俺は鉱夫が捕まっている触手ではなく本体に狙いをつけ、<天照>と<アウロラ>に魔力を流す。
「四源の力よ、銀の流星となれ! <サーマルブラスト>!」
銀光と爆音を響かせながら<天照>と<アウロラ>が俺の手から射出され、空中に銀の軌跡を残しつつ<キメラワーム>の口をぶち抜いた――――!
が、しかし。巨大な<キメラワーム>にはあまり効果がないようで、怒って俺に大量の触手を向かわせてきた。せめてもの幸いは、俺に気が向いたことで鉱夫たちが口に運ばれるのが一時停止したことか。
俺は周囲に散乱した色とりどりの鉱石と、ワームの全ての触手についた目を見やり、そしてなんとか起死回生できるかもしれない一手を思いついた。
「<ウイング>!」
しかし触手に捕まっては話にならない。俺はドームの天井すれすれに舞い上がり、叫んでから魔法を発動した。
「閃光いきます! <サンダー・ライトニング>!」
「グギョォォォォ―――――ッ!?」
かなり不気味な鳴き声をだしつつ<キメラワーム>が悶えだし、触手の動きがかなり収まった。
よし、いけるか―――!?
「<マグネティション>!」
俺は両手を広げて回転しつつ強力な磁力を撒き散らし、鉱夫たちが放り出して逃げた大量の鉱石が次々を俺の周囲に集まっていく。
もし未練たらしく鉱石を持って逃げようとしてたら色々と困ったことになってたな、と思いつつ俺は魔力を全開にした。
「四源の力よ、銀の流星となれ! <マニュートネス・サーマルブラスト>!」
俺の周囲に集まった無数の鉱石が、鉱夫がいないドームの床ほぼ全てに放たれ、炸裂した。
―――――ドガァァァァン!
無数の触手が千切れ飛び、解放された鉱夫たちが死に物狂いで出口に走る。
だが、なんと徐々に床がひび割れだし、下から不気味なピンク色が覗いていた―――!
(下にまだいる――――!?)
ドームの中心にいた口っぽいものにけっこうダメージを与えたと思うのだが、なんと徐々に再生しているのが見えて、俺は倒すのは諦めたほうがいいと思った。
俺は逃げる鉱夫たちを追う触手を次々と切り払いつつ、徐々に後退する。
足元が不安定なので、飛行魔法は継続していたが。
そして最後の一人がドームから出て、俺も脱出しようとした瞬間、地面のひび割れから噴出していたありえない濃度の魔力に当たってしまい、俺は突風に煽られた凧のように制御を失ってしまった。
「―――――しまった!?」
錐揉みして地面のヒビの一つに向かって落下する俺の先には、不気味な粘液で輝く<キメラワーム>の一部。あれに直接触れれば逃げられなくなってしまう可能性が高い。
俺は、<シルフィード>と<アイテール>を引き抜いて剣に魔力を込め、一か八か<シルフィード>を電磁砲の原理で加速して、<キメラワーム>に突っ込んでいった。