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銀雷の魔術師  作者: 天城 誠
第六章:放浪編Ⅱ 
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第二話:木の家




「――――大丈夫?」


 声を掛けられて目を開けると、緑の瞳が見えた。

 横になっている俺の顔を、緑の瞳が覗き込んでいるようだ。


 一瞬、また夢でも見てるのかと思った。周囲に目をやると、深い森と湖が見えた。

 俺は再び緑の瞳と目を合わせるが、不思議そうな顔をするだけで何も言ってくれそうにない。仕方が無いので自分から口を開いた。




「……ローラ?」

「うん」



 見間違いとか空似ではなく、ご本人のようだった。

 どことなくいつもと雰囲気が違う気もしたが。服が違うからだろうか? 深緑色のシャツとスカートで、制服とは大分感じが違う。



 えーと、俺は何をしていたんだっけ…?

 そこまで考えて先ほど聞こえた声を思い出し、俺は苦い顔をした。

 そうか、俺は湖に落ちて……。


 



「ローラが助けてくれたのか?」

「うん」



「…ありがとな」

「うん」




「…というかローラ、なんでこんなところに?」

「……それはこっちのセリフ。私の家はすぐ近くだから」



「すぐ……近く?」



 周辺にはまるきし森しかないのだが。

 意外とローラって田舎出身?



「……それより、ちょっと脚がしびれて後悔してきた」

「…うおっ!?」



 言われて気づいたが、ローラの膝枕で寝ていた。

 俺が慌てて立ち上がると、ローラも立ち上がった。



「えーと、ありがとう?」

「うん、どういたしまして」



 再び沈黙…。何を話したものだろうか…。

 悩んでいると、ローラが口を開いた。



「…もし忙しくなかったら、一緒に朝ごはんを食べない?」




 湖に落ちたから頭が冷えたのだろうか。

 多少落ち着いた気分になっていた俺は言われて物凄く空腹だということに気づいた。

 …あれ、いつから何も食べてないんだ?


 思わず思い出そうとし、更にお腹が減ったので考えるのを止めた。



「……えーと、ご一緒させてもらえると嬉しいです」


 思わず飛び出してきたので、食料を持っていなかった。



 どうするかまるで考えずに飛び出してきたが、一つだけ思いついたことがある。

 それを実行するには、体調を回復する必要が……食事が必要だった。





――――――――――――――――――――――――――――――




 十数分くらい歩いただろうか。前方にヘンなものが見えてきた。


 パッと見何も無いのだが、何も無いことが不自然な感じがするというか?


 魔力探知を併用して、よーく目を凝らすと、空間が歪んで見えた。




「……ローラ、何アレ?」

「隠蔽結界《祈杜》。古代魔法らしいから、細かいことは長老じゃないとわからないかも」



 ……古代魔法? 長老?


 色々呆然としつつ、気になったので術の構成を読み取れないか試してみたが、意味不明だった。古代の固有魔法か何かなのかもしれない。俺の固有魔法が完成したときに、フェミルのものも見せてもらったけど意味不明だったし。



「えーと、ローラ。あの中に入るのか?」

「そう」



「……どうやって?」

「開けてもらう。ちょっと待ってて」



 そう言うとローラは歪みの前まで行き、右手を歪みに押し当て何事か呟いた。

 その右手が金色に輝き、待つこと数秒。

 

 歪みが人一人通れるぶんくらいだけ開き、ローラが俺に向かって手招きした。

 小走りで向かい、先に潜ったローラに続いて入ると歪みは勝手に閉じた。

 



「……何コレ?」

「ツリーハウス…で通じる? 私の住んでる村<エリンディア>は、魔法樹を利用した家に住むことになってるの」



 ……凄いものを見てしまった。

 樹齢何年なのか見当もつかない大樹が無数に立ち並び、そのあちらこちらに丸太小屋っぽいものが建っている。いや、小屋というにはかなり立派だが。


 

 とりあえず、見上げるような樹のところどころに家や人が見えるのは想像以上にすごい光景だった。

 というか、みんな樹の幹とかをごく普通に歩行してるんだが。

 人がスイスイ垂直に歩いているのは、なかなかシュールというか「はぁ!?」って感じだ。俺はそもそも試したことない。



「ついてきて」



 そう言ってローラはどんどん奥に歩いていく。

 なんだか、周囲から好奇の視線を浴びている気がして、俺も観察し返してみると妙なことに気がついた。



(……みんなやたらと美形じゃね?)



 みんな髪とかキラキラしてる気がするし、背も高いし、スラっとしている。

 うん、イケメンと美女しかいねぇ。



 いや、ローラも綺麗…ってあれ? ローラもなんかいつもよりキラキラ度が高い気がするんだけど。いつもより服とか地味なのに。

 ペンライトが白熱電球になったくらい違う気がしてきた。



 気づいたらもう違和感全開だった。

 ローラが薄く光ってるような気がするんだけども。(ハゲ的な意味ではない)



 まじまじとローラの横顔を見ていると、更におかしなことに気づいた。

 ……耳が長い?


 そう、ローラの耳ってこんなに長かったっけ?

 ついでに、周囲の人もみんな耳が長い。



 ……美形で森に住んでて耳が長くて……。あれ?



 と、ローラが立ち止まって俺のほうを見て、じーっと見られていたことに気づいたのか、小首をかしげて言った。



「……どうしたの?」

「……エルフ?」


「うん」



 思わず聞いてみると、あっさり肯定なさった。

 むしろ「それがどうかしたのか」的な感じである。



「……全く気づかなかった」

「そうなの? 気づいてるかと思った」



「いや、気づく要素ないだろ!?」

「エリーもドラゴンなんでしょ?」



「……なんで分かるんだ?」

「魔力が人間じゃない。私もそう。でも、エリーはエルフじゃない。獣人でもない。

 妖精でもなさそうだし、魔人ならもっと禍々しい。だからドラゴン」




 俺としても「そういえば言ってなかったかも」くらいの重要度だが――――。


 ってあれ? リリーにエリシアがドラゴンだって言ったっけ?

 というか、フィリアとかにも普通に気づかれているのだろうか。




「というか、そんな簡単に分かるのか?」

「普通は見れば一瞬。でもアルはよく分からないけど…」



「え、俺って謎の生命体?」

「うん」



 冗談めかして言ったのだが、速攻で肯定されてしまった。

 転生者だからかなぁ…。



 若干落ち込んでいると、ローラが上を見上げながら口を開いた。



「それよりお腹がすいた。アルはのぼれる?」

「……飛んでもいい?」



「いいけど、飛行魔法なんて使う人いないから目立つ」

「なんで飛ばないんだ?」



「効率が悪いから。足に魔力を流すと樹に張り付く。あ、裸足のほうがいい」



 言われてローラの足を見ると綺麗……じゃなくて、裸足だった。

 俺も裸足になり、靴と靴下はポーチに入れる。



 恐る恐る魔力を流した右足を樹に近づけると、強力な磁石と鉄を近づけたように、思いっきり引っ張られた。



「―――――うおっ!?」

「ちょっと強い。それの75%くらいがちょうどいいかも」



 ……75%ってどれくらいだよ。とか思いつつも気持ち弱めにすると、いい感じに張り付いた。

 左足もくっつけると、どういう仕組みなのか分からないが地面からの重力を感じなくなり、普通に地面に立っている気分になってきた。幹もバカみたいに広いし。



「なるほど。確かに魔力消費が少ない……というか減ってないのか?」

「そう。あと、歩くときは交互に魔力を強くしないといけないから気をつけて」



 「もし落ちても飛べるなら問題ないと思うけど」と言いつつ、ローラはスイスイ歩き出し、俺も恐る恐る歩き出した。


 というか、体だけじゃなく服も――――ローラのスカートも地上からの重力の影響を受けてないようだ。ちょっと焦ったけど全く問題なかった。

 なんか結界っぽい力を感じるし、重力を結界でカットしてるのか?


 正直、かなり衝撃的な魔法だった。さすがエルフ。


 しばらく歩いて、ローラはある家の前で止まった。

 その家は樹の天辺に建っており、日当たり良好で庭付き。しかも大きい―――。



「って、ローラの家ってひょっとしてして凄い?」

「……少しだけ?」



 少し……かぁ? 

 けっこう気になったが、それより腹が減った…。

 俺の表情を読み取ったのか、ローラも頷いて家の扉に向かって歩き出した。



 色とりどりの花が咲き乱れる庭園を抜け、デカイ扉をローラがさらっと開けて入り、俺も続く。

 


「ただいま」

「お邪魔します」



 家の中はお屋敷っぽかった。大理石製かと思ったのだが、木材のようだった。

 白くて光沢があり、こんな樹が生えてたら綺麗か不気味かどっちかだな。



 と、奥の扉が開いてこれまたイケメンな青年が出てきた。

 ローラと同じような服を着て、銀髪緑目。

 かなりローラに似てる。兄だろうか。いや、まさか――――。


 青年は俺を見ると若干驚いたような表情になった後、にこやかに笑った。



「ローラが友人を連れてくるなんて珍しいね? 面白そうだし」

「お父さん、お腹すいた」



 ――やっぱりか!? この十代後半ですと言っても通じそうな青年が父親なのか!?

 少なくとも30はいっているハズだが。


 というか、ガン無視してお腹すいたって……さすがローラだな。


 とりあえず、挨拶は大事だと思うので俺は礼儀正しく一礼した。



「初めまして、アルネア・フォーラスブルグと申します」


 すると青年は優雅に俺の前まで歩いてきて軽く頷いた。



「うんうん、十二貴族とはますます面白いね。僕はディリス・フィリスタイン、<エリンディア>議会の議長をしている。よろしくね」



 手を差し出されたので軽く握手をすると、ディリス氏はさらに楽しそうな顔になった。

 ローラが白い目で見ているが気づかないのか無視している。



「うん、直接接触してもよくわからないなんて面白いね、君。

 100年生きててこんなに面白そうな――――」



 そりゃあ、転生者なんて滅多に見ないだろうとか思っていると、ローラが俺に手招きしてから歩き出した。俺もお腹すいたのでローラに続く。



 ディリス氏もにこやかに俺に続いてきた。



「いやはや、つれないねぇ…。ちょっと精密検査とかさせてくれないかい?」

「邪魔。<アブソリュート・ゼロ>」




 一瞬で振り返ったローラが金色に輝く手を振ると、金のレーザが放たれて魔力ごと凍らせそうな勢いでディリス氏に襲い掛かり、しかしディリス氏は大げさに嘆きながら軽く受け止めた。



「ああ、ローラも反抗期か…。寂しいねぇ」


「とりあえず大人しくしてて。<ニブルヘイト>」





 ディリス氏の足元に魔方陣が現れたと思った次の瞬間、ディリス氏はにこやかな表情のまま金の氷像になった。




 ……え、何コレ。死んだんじゃね?

 若干苦い表情になったローラが踵を返して再び歩き出したので慌ててあとに続きつつ、思わず気になって尋ねた。



「…ローラ、アレって大丈夫なのか?」

「……ダメ。たぶん持って5分」



 …どうやらディリス氏にはあまり効かないようだ。


 「魔力を3割は使ったのに」と不満そうなローラは、ある扉の前で立ち止まった。

 ローラがその扉を開けると、なんとも美味しそうな香りが俺たちを出迎えた。




 そして、テーブルに料理を並べているところだった数年後のローラみたいな女性が俺とローラを見てにこやかに微笑んだ。



「おかえり、ローラ。お客さんなんて珍しいわね、いらっしゃい」


「ただいま、お母さん。お腹すいた」

「えっと、お邪魔してます」



 ……やっぱりお母さんも若かった。

 ついでに、ディリス氏と違ってまともな人な気がした。





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