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銀雷の魔術師  作者: 天城 誠
第六章:放浪編Ⅱ 
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第一話:傷

すみません、昨日暴走したのは修正させていただきました。


 ……夢を見た。

 俺は、ベッドから体をおこし、カーテンを開いた。



 ティルグリムの山際が徐々に明るくなってきている。

 …朝5時前くらいだろうか?


 



 眠い目を擦った俺は、目の端に涙が溜まっていたのに気づいた。



(なんだよ俺、前世が懐かしくなったのか……?)



 ―――いや、違う。



 前世は多少懐かしいかもしれないが、死んだものはどうにもならないのだ。

 それくらい、俺にだって分かっている。



 そう、俺は前世の夢を見た。

 だが、それはどんな夢だっただろうか――――?




 一瞬、雪の降る公園に誰かが一人で佇む光景が浮かんだが、俺の頭が鋭い痛みを発した。



「――――――痛っ!」




 思わず声を出して右手で頭を押さえ、しばらくじっとしていると、頭の痛みはすぐに薄れていった。



 まるで、俺自身が思い出すことを拒否しているようだった。


 

 俺は少し考えてから、思い出したくない記憶より様子のおかしいエリシアの方を優先しよう、と自分に言い聞かせ、服を着替えた。




 ……ん、そういえば俺っていつの間に寝たんだっけ?


 そう、リリーが紅茶をくれて、それを飲んだら途端に眠く――――。







 俺はリリーの魔力を探知し、食事する部屋の扉を思い切り開けて入り、唖然とした感じの父さんと母さん、フィリアを無視し、無表情でご飯を食べるリリーを思い切り睨み付けた。




「リリー、紅茶に何か入れただろ!?」



 魔術で脚力を強化した俺は、紫電を散らしながら瞬時にリリーの背後に立った。

 リリーはナイフとフォークをそっと置くと、立ち上がって振り返り、悪びれない顔で俺の目を見返した。



「入れたけど、それがどうかしたの?」


「何で薬を盛るんだよ!」




「そんなの、あんなお兄ちゃんは見てられなかったからだよ!」


「……エリシアの様子がおかしかったのに、俺だけ寝てる方がいいってのか!?」




 怒りに任せて怒鳴りつけると、無意識に叩きつけられた魔力で数枚の皿が割れ、リリーの体が一瞬ビクッと震え、しかしリリーも毅然と俺を睨み返した。




「そうだよ! あんな状態で何かしたって上手くいきっこなかった!

あの時のお兄ちゃんは休まなきゃいけなかった! 

そんなにエリーが心配なら、今すぐ行ってあげればいいでしょ!?」



「勝手に俺の体調を決め付けるな!

 俺は、始める前から諦めるなんて絶対に嫌なんだよ!」




「おい、アル――――」


「―――うるさい、父さんは黙ってろよ!」



 エリシアが落ちたときに、その場にいなくて何もできなかった自分に対する怒りと、いて何もできなかったリリーと父さんに対する怒りがごちゃまぜになり、止めに入ろうとした父さんに、怒鳴り声と魔力を叩きつけていた。




 再び室内に魔力の突風が吹き荒れ、父さんは障壁を張って母さんを守った後、口を開こうとしたのだが―――――。




「……バカ」




 リリーが消え入りそうな呟き、俺が父さんを睨みつけていた目を逸らしてリリーを見ると、リリーは目いっぱいに涙を浮かべて叫んだ。




「――――お兄ちゃんのバカ!

 エリーだけ気にして、子どもがいるお母さんのことも考えないで暴れて…!

 私の気持ちだって…!」




 リリーの頬を涙が流れ落ち、しかしリリーはそれに構わず叫んだ。





「――――そんなにエリーが大事なら、どうして一緒にいてあげなかったの!?

 エリーはね、お兄ちゃんに嫌われたんじゃないかって落ち込んでたんだよ!?

 お兄ちゃんの中途半端な優しさは人を傷つけるんだよ!」






 部屋が静まり返り、しばらくリリーが鼻をすする音だけがやけに大きく聞こえた。



 ……俺は無意識に撒き散らしていた魔力を抑えて、俯いて涙を流すリリーに呟いた。


「……ごめん」




 俺は、そのまま更に重くなった気持ちを引きずって扉の前に行き、振り返って言った。


「ごめん、父さん、母さん、フィリア、リリー…。ちょっと頭冷やしてくるよ…」




「―――アル、あまり無茶するなよ」


 父さんが一言だけ言った。返事をする気になれなかった俺は、軽く頷いて部屋の外に出た。




 俺はそのまま部屋に戻り、剣を次々ベルトにつけた。

 そして、<天照>に手をかけて止まった。



 ……もう、俺にこれを持つ資格は……。



 しかし、置いていくなら今回の失敗と同じだ。

 迷った末に、もって行くことに決め、コートを羽織り、偽装魔法で紋章が見えないようにしてから窓から飛び降りた。




 詠唱せずに飛行魔法を発動し、飛び上がった俺は南を目指した。



 何も考えずにスピードを上げまくり、冷たい風が俺の体温をどんどん奪って―――。

 しかし、俺の考えは一向に纏まる気配がなかった。






 そもそも、俺はエリシアをどう思ってる…?

 

 


 ゴーレムに殺されかかった時、必死で助けた。


 交流戦で、エリシアとは戦いたくないと思った。


 一緒に寝たいと言われたとき、速攻で拒否した。

 結局断りきれなかったが、俺はどうしてダメだと言った?




 あの時の俺は、「そういうのはよくないから」などと理由をつけていた気がするが、今考えればあの時はもっと……絶対にダメだという気持ちがどこにあった気がする。



 そう、俺はエリシアの気持ちには気づいていたはずだ。

 それなのに、リリーに言われたようにエリシアとあまり一緒にいようとはしなかった。

 エリシアが好きじゃない? ならなんでエリシアが傷つくたびにムキになっている?




 ……俺はエリシアを好きになるのを避けていた?



 そもそも、俺が今朝見た前世の夢は誰が出てきた…?




『―――ごめんね……誠司』


「―――――――うぐっ!?」




 一瞬、白いベッドに横たわって俺を悲しげに見つめる赤い瞳が見え、俺の頭を激痛が襲った。




――――エリシア?




 俺は激痛で制御を失い、錐揉みしながら落下する。

 なんとか新たな飛行魔法を発動しようとする俺の脳裏に途切れ途切れで声が響く。




『―――――――1ヶ月』


『――――もういちど』


『―――――私を―――』


『――――ありがとう…』


『――――大好きです』





「――――――どうしてだよっ!」




 知らぬ間に叫んでいた俺は、そのまま気を失い、下にあった湖に落下した。






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