第六話:Wons
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何かひんやりしたものが額にあたって気持ちいい。
ぼんやりとした思考のまま目を開けると、見慣れない天井があった。
「お、やっと起きたか?」
「……せいじ?」
体が重かったが、起き上がろうとすると誠司に止められた。
「大人しくしとけ。熱が39度もあるぞ」
「そんなにです……?」
「ああ、そんなにだ。とりあえず何か飲んどけ。スポーツドリンクと紅茶と緑茶ならどれがいい?」
「……今はいらないです」
あんまり飲みたい気分じゃなかった。
でも、誠司にものすごい顔で睨まれた。
「ふざけんな、強制的に飲ませるぞ」
「…のど、渇いてないです」
「ダメだ。どんだけ汗かいたと思ってるんだ」
「……そんなにびっしょりしてないです」
「当たり前だ。さっき拭いたばっかだからな」
「…………えっ?」
聞き間違いだろうか。いや、きっと理香か誠司のお母さんが――――。
「…で、飲むのと飲まされるのどっちがいいんだ?」
誠司の目が絶対零度の光を放っていた。「嫌だと言おうものなら強制的に流し込む」と目が語っていた。何故か、ものすごく怒っている。
「の、のみます……」
「分かればよろしい。んじゃ、聞き分けが悪かったからスポーツドリンクな」
どうやってもそうなる予定だったのか、既にスポーツドリンクは用意されていた。
誠司に手伝ってもらってどうにか飲み終わると、強制的に横にさせられた。
特にすることもないので、しばらくぼんやりと天井を見ていた。
どうやらここは誠司の部屋のようだ。
ふと気になってベッドの横で座布団に座っている誠司を見ると、私を心配そうな目で見ていた。私が見た途端に無表情になったけど。
私、何か誠司を怒らせるようなことでもしただろうか?
風邪に浮かされていた私は、いつもなら聞けなかっただろうことを聞いていた。
「……誠司、私、何か怒らせるようなことをしましたか……?」
すると誠司は不機嫌そうな顔になった。
「ああ、すごくな」
それを聞くと、何故だか居た堪れない気持ちになって、目頭が熱くなって、そのまま泣き出してしまった。
「―――――えぐっ、ぐすっ……」
「――――お、おい!?」
「…ごめんなさい、やっぱり…めいわくでしたよね。もう、わたし、かえりますから……だから―――」
この時、私は何を言おうとしたのだろう? いずれにせよ、誠司が悲しそうな顔で私の頭をそっと撫でて、私が続きを言う機会は失われた。
「……バカ、風邪ひいたのに無理するから怒ってるんだよ。心配したんだぞ」
「……せい…じ?」
「なんで疑問系なんだよ。俺だって心配くらいする――――」
「―――――えぐっ、ぐすっ……」
「―――――お、おいっ!? 何で泣くんだよ!?」
「……ぐすっ、その…。うれしい、んです」
「―――――……ほんとか?」
「……はい」
熱くなった頭に、誠司の手が冷たく感じられて、心地よかった。
嫌われたかと思うと哀しくて、そうじゃないと分かると嬉しくて…。
一人ぼっちだった私に手を差し伸べてくれたから…?
私の外見を気にせずに接してくれるから…?
それとも、衝撃的な出会いだったから一目惚れしてしまったのだろうか…?
熱に浮かされた頭でそれだけ考えると、口が勝手に動いていた。
「……せいじ、ありがとうございます」
「…なんだよ、急に」
「たすけてくれて、ありがとうございます」
「……ああ」
「……せいじ?」
「何だ?」
「わたし、あなたのことが――――――――」
―――――嫌だ…。
―――――違う…。
―――――私は、こんなの知らない…!
―――――――――――――――――――――――――――――――
「―――――――――いやっ……!」
叫んで飛び起きると、自分の部屋だった。
自分が自分であることを確かめたくて、掌に小さな魔法の灯を出した。
そう、私は私なんだ…。私はユキじゃない…!
自分に言い聞かせるように思い。しかしその時、私の中でもう一人の私が囁いた気がした。
―――――誠司との思い出も、気持ちも、まだ残ってるのに?
違う…! 私は…私はアルが――――!
―――――そう、私は誠司にそっくりなアルが大好きだから。
やだっ…! そうじゃない! 違う……。
――――――違うの? どこが? 髪を黒くしたアルは誠司にそっくりだった。
いやだ……。誠司なんて知らない…! 私はアルが……!
―――――ほんとにそう思ってる?
「いやだ……もう、やめて……」
前世で好きだった人に似てるなんて理由で、アルを好きになったなんて思いたくなかった。
急に前世の記憶が蘇って、最初は戸惑っただけだった。
前世がどうだとしても、今の私には関係ないと思った。
でも、アルを見た途端、誠司だと思ってしまった。
アルと誠司がごちゃごちゃになって、耐えられなくて、アルが頭を撫でてくれようとしたときに、誠司に頭を撫でてもらえるのが嬉しいと思う私がいた。
私は、ユキなの…? エリシアなの…?