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銀雷の魔術師  作者: 天城 誠
第五章:放浪編Ⅰ 
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第七話:何処に




 さて、俺は魔獣の森を空からサックリ越え、ディオティス山脈に到着していた。この山脈はティリグリムと並ぶ大山脈だ。で、一番高いのが目的地のディオティス山と。


 

 さすがに魔力残量がヤバかったので、歩いて登ることにした。

 魔獣の森と隣接しているだけあって、けっこう魔獣とのエンカウント率は高かったが、それほど問題になるような魔獣は出てこなかった。


 怪音波で攻撃してくる<ハウリング・バード>の群れを<サンダーボルト>で焼き鳥にしたりしたくらいか。

ディオティスはティルグリムより岩が多く、木が少ない。だからか、ティルグリムよりは危険な魔獣は少ないようだ。まぁ、危険なヤツはとことん危険みたいだが。



 ドラゴン(もどき)の居場所についてはノーヒントだったので、夕方まで探し回ったのに見つけられなかった。結局、俺は適当な洞穴に防御結界を張って寝た。





 翌日、干し肉と干しリンゴの簡単な朝食を済ませた俺は、山登りを再開した。転生して以降は訓練を怠っていないので、山登りくらいなら普通にいける。

 マナ・魔力を節約しなければいけないのは面倒だが、それくらいならなんとかなる。


 大体ボスってのは高いところとか奥地とかにいると相場が決まってるし、多分頂上か谷底にでもいるのだろう。


 


 そんなこんなで、7合目くらいまで登ったころだろうか(面倒なので魔力で少し脚を強化したが)。広場のように少し開けた場所に出たのだが――――。


「……なんだこりゃ」


 何か強烈な熱線でも浴びせられたかのように不自然に融解した岩石。かなり鋭利なもので切り裂かれたかのような地面の巨大な傷。

 正直、兄さんの本気の火炎でもこうはならないだろっていう岩の溶けっぷりにちょっと驚いた。エリシアでも無理かもしれん。


 ひとまず情報を集めるべく、しばらく広場を探し回ると、折れた剣が何本か落ちていた。

 折れてなお剣に残留する魔力とその質から、けっこうな業物だと知れる。

 ワイバーンの討伐に失敗したというギルドの人間のものだろうか。何本も落ちていることから、けっこうな人数がいたのだと思うのだが。



 フェミルの言っていたワイバーンの特異体は俺の想像より大分強いかもしれん。縄張りの関係もあるし、ドラゴン(もどき)と戦うときに同時に相手をするようなことはないと思うが。


 



 そのとき、俺の背筋に悪寒が走った。


 咄嗟に全力で跳躍し、魔力装甲シールドを展開。その直後、真紅の閃光が炸裂した。






 突如飛来した熱線によって広場の中央、俺のいた場所には巨大なクレーターができていた。

 衝撃で吹き飛ばされた俺は、なんとか大したダメージは受けなかったが、大分違う衝撃に打ちのめされていた。



「―――――――デカッ!?」


 そう、デカイのだ。強襲してきたワイバーン特異体は、<シリウス>の5倍くらい…ダンプカー5台分くらい? の大きさがあった。<グリディア>の方が大きかった気もするが、同レベルだ。



 それに、強襲されたのはともかく、直前まで気づかなかったのはかなり嫌な感じだ。それに、前にギルドの人間が此処で襲撃されたなら警戒して然るべきだった。



 そしてそのとき、俺の頭に声が響いた。


『――――愚かな人間め、性懲りもなく我が領域を侵しにきたか!』


 うわぁ、ほんとにしゃべったよ。基本的にワイバーンというのは喋れないもので(もちろん魔声のことだが)、喋るのはドラゴンに分類されることが多い。

 まぁでも、話が通じるのであればなんとかなるかもしれないけどな。

 俺は対話による平和を実現すべく口を開いた。




「すみません、ちょっと領域がどこからどこまでなのか分からなくって。ちょっと薬の材料を探しているのですが、通行だけでもさせてもらえないですか?」



 そう言うと、さも意外そうな声が返ってきた。


『ほう、薬の材料とは何を探しているのだ?』


 

 あれ、なにこれ。普通に話が通じそうだぞ。


「えーと、<ディザスト・リザード>の肝なんですけど、分かりますか?」

『無論だ、確かにあれは良い物だ。私もよく世話になる』



「それじゃあ、通行だけでも――――」

『―――残念だが、あれは私も使うのだから渡すわけにはいかんな。どうしても通るのであれば、それに見合う対価か、戦うより他にないな』



「……何か、対価の候補でも無いのですか?」

『ふむ、あれ以上の薬もしくは、我が領域に侵入して逃げ帰った者の首だな』



 …無理だな。皇家秘伝の薬より上の薬などそうそうないだろう。首は論外だし。



「それでは、貴方の領域の外に<ディザスト・リザード>はいないのですか?」

『ほほぅ、良いところに気づいたな。だが教える義理は無いな』



 む、なんてケチなんだ。それなら―――。



「では、貴方の領域の範囲を教えてください」

『この山の山頂付近だ。結界を張っているからすぐに分かる』



「…じゃあここは?」

『外だな』



「―――――じゃあ、特に理由もなく俺を襲ってるじゃねぇか!?」

『む、言われてみれば確かに。スマンな』



「スマンな。じゃねぇ! 横暴だ! お詫びに場所教えろ!」

『ハッハッハ、無傷なのだからよいではないか』



「あんた、立場逆だったら笑って許せるのか?」

『…無理だな』



「だろ? というわけで情報プリーズ」

『むぅ…仕方が無い』


 そう言うと、ワイバーンは首を隣の山に向けた。


『あの山に、人間のいう<ディザスト・リザード>が数頭住んでいるはずだ。しかし――――』

「…しかし?」



『…魔物の巣窟になっている、とだけ言っておくか。気をつけることだ』


 そう言うと、ワイバーンは頂上の方へ飛び去っていった。

 俺は、見えなくなるのを確認してからホッと息をついた。




「……あぶね」


 正直、まるで勝てる気がしなかった。ゲームで絶対勝てない敵に出会った気分だ。意外と話が通じるヤツで助かった。にしても、意外とあっさりしてたな。

 きっと、アイツは人生(人じゃないが)に余裕があるんだな。羨ましい。


 やっぱり、精霊なし(なおかつ一人)で戦えるのはAAランクくらいが限界だな。マナが持たない。弾幕張られたら魔力量の差で嬲り殺されるのがオチだ。接近して一撃必殺の攻撃でも叩き込めれば話は別だが、そんな特攻はしたくない。



 まぁ、なにはともあれ、隣の山にお邪魔しますか。俺は、なるべく早く此処から離れるべく、飛行魔法を発動した。




―――――――――――――――――――――――――――――――




 そのころ、またしてもエリシアは悩んでいた。

 アルの周囲に異常な魔力を感知したので、思わず家を飛び出したのだが、反応が消えたのだ。

 別にストーカーの魔法とかあるわけじゃなく、アルのコートに組んである魔方陣の効果で、コートが破損するか、Sランク以上の魔力を感知するとなんとなく分かるだけだ。



 つまり、Sランク以上の何かと出会い、しかし戦わなかったか逃げ切ったかのどちらかだ。あんな一瞬の反応で追いかけるのはちょっと気が引ける。アルなら絶対無事のハズだし。コートも破損してないみたいだし。



 アルの魔力はなんとなく西のほう…魔獣の森の先だろうか?

 アルなら絶対平気と分かっていても、やっぱり不安なものは不安だ。

 というか、もう3日も会ってないのでかなり寂しい。連絡をとる方法があればいいのに。いや、あることはあるけど、あれはアルの魔力を大幅に消費するし…。



 そんなことを考えながら、展開した翼を軽く羽ばたかせてホバリングしていたのだが、見知った魔力を感知した。


 若干顔がほころぶのを感じつつ、私は地上に向かって降りていった。

 その人は、馬を魔法で補助しつつ、けっこうな速度で皇都方面から屋敷の方に向かっていた。こちらに気づくと、笑顔で手を振ってくる。私も笑顔で手を振り返した。



 その人―――リリーは馬を止めると颯爽と飛び降りてこちらに近づいてくる。こういうところ(無駄にカッコよく馬を飛び降りる)はリックお兄さんやアルとそっくりだと思う。



「ただいま、エリー。どうかしたの?」

「えっと、特に用はないんですけど…お散歩です?」


 思い切り嘘だが、『アルが危なそうだったから家を飛び出したけどもう大丈夫そうだから行く必要がなくなって、することがなくなったので悩んでいた』なんて、色々恥ずかしい。




 そう言うと、リリーはお母さんソックリの悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「えー、お兄ちゃんに会いたくて飛び出してきちゃったとかじゃないの?」

「ち、ちがいます!」


 …あながち間違ってもないので、若干動揺してしまった。それを見てリリーがニヤニヤしだす。これはお父さんソックリかもしれない。



「いいのいいの、分かってるから。いっそ告白しちゃえばいいのに~」

「うぅ~~…。そんなの無理です…」



「え~…。お兄ちゃんなら、もしもOKしてくれなくても気にしないんじゃない?」


 「良くも悪くも鈍いからなぁ~」と呟きつつ、リリーは言った。確かに失敗しても気まずくなったりしなそうな気もしないでもないけど、告白して失敗したら耐えられる気がしない。アルもそれは分かってる気がするし、気を使って付き合ってもらったりしたら申し訳ない。

 だから、私は話を逸らすことにした。


「…リリーはどうなんです?」

「……どうって?」



「リリーもアルが好きなんじゃないんです?」

「―――えぇっ!? ないないない。お兄ちゃんが好きなんてそんな…。いや、嫌いじゃないけど恋愛対象じゃないというか!?」



 …なるほど、リリーがいつも楽しそうにからかってくる理由が少しわかったかもしれない。他人事だと慌てふためくのを見るのが楽しいかも。


 私が楽しそうなのに気づいたのか、リリーが恨めしそうな目で見てきた。


「…むぅ~~~! エリーには言われたくなかった…」

「そうですね。私『も』アルが大好きです」



「―――み、認めた!? 今まで一度も認めたこと無かったのに!? というか、『も』って何!? 私は違うもん!」

「ううん、フィリアさんのことです。…やっぱりリリーもアルが好きなんです?」



「―――は、嵌められた!?」

「やっぱりアルが好きなんですね」



「うぐぅ~…」


 年頃の女の子にあるまじき唸り声を出しつつ、リリーが珍しく真っ赤になる。


「大丈夫です、誰にも言いませんから」

「…エリーの方が人に言えないことは多いと思うけど?」



 私は、思わず立ち止まってしまった。なんだろう、心当たりが案外とてもたくさんある気がする…。若干冷や汗を流しつつ、私は話を変えようと――――。



「リ、リリー。そろそろ家に――――」

「こないだ、お兄ちゃんの枕を抱きしめてたよね?」




「ち、違いますっ! あれは洗濯したほうがいいか確かめてたんです!」



 真っ赤になって否定する私に、まだまだ反撃はこれからとばかりに、リリーが口を開く。



「うんうん、どうやって洗濯したほうがいいか確かめてたの?」

「―――ふぇっ!? そ、それは……」



「なんだか、私にはエリーが枕に顔をうずめてるように見えたなぁ~」

「あぅ~~……」



 そこまで見られていては最早何の言い訳もできない。洗濯したほうがいいか確かめようとしたのは事実なのだが、当然、枕が臭うかどうかが判断基準なわけで。

 ちょっと嗅いでみたら別に臭くなくて、アルとシャンプーの匂いが…。なんだか幸せな気分になって、そのまましばらく枕を抱きしめて顔をうずめてしまっていたのだ。




「リリー…。アルには内緒にしてください…」

「うわぁ!? 言わない言わない! 言うわけないから泣かないでよ!?」







…おかしいな? こんな作品でしたっけ…。

戦闘がなかなか入らないで、アルのモテっぷり(?)が酷いような。

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