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銀雷の魔術師  作者: 天城 誠
第五章:放浪編Ⅰ 
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第五話:泊まりといえば




(全ての部屋がめちゃくちゃ広いな…)


 俺は広過ぎる風呂を借りた後、割り当てられた広過ぎる寝室の広過ぎるベッドで仰向けに寝っころがりつつ、これからのことを考えることにしていた。



 フィリアの兄にかなり嫌われたが、そんなに会う機会もないだろうし、気にしなくて平気だろう。

 当初の目的どおり、召還獣探しの前に王国に行ってギニアスに例のものを貰う…まぁ、貰うってのとはちょっと違うが。


 とりあえず、問題が起きる前に城を出なくては。朝一番が望ましい。でも勝手にいなくなるわけにもいかないしなぁ…。


 

 そんなことを考えていると、扉がノックされた。


(…いやな予感しかしないのだが)


 こんなこともあろうかと気配は完璧に殺してある。寝たフリ安定だろ。




「アル、お邪魔します!」

(―――無視して入ってきやがった!?)


 寝たフリしているにもかかわらず、フィリアが部屋に入ってきた。

 気づかれてるのかいないのか、判断に迷うところだ。


 ちなみに、エリシアに寝たフリは通じないので要注意だ。あいつの場合は寝たフリをしていると布団に潜り込んできやがる。

 


「…アル? 寝ているのですか?」

(気づいてないみたいだな。ノックは返事があってから入れよ…)



 薄目をあけて様子を窺うと、寝巻き――ネグリジェを着て、その上にガウンを羽織ったフィリアがベッドの近くから俺の様子を窺っていた。


「…寝ていますよね?」

(何故確認をとる…? って、なっ!?)



 なんと、何を思ったかどっかの誰かみたいに布団に潜り込んできやがった。

 風呂あがりらしく、なにやらシャンプーの香りがしやがるし、精神衛生上よろしくないことこの上ない。


「…バ、バレてないですよね?」

「……いや、思いっきりバレてるが」


 仕方ないので寝たフリは諦めて声をかけると、フィリアは真っ赤になって慌てふためいた。


「――――きゃあ!? アル!?」

「驚きたいのはこっちなんだが…」



 エリシアといいフィリアといい、なんで布団に潜り込むかなぁ…。

 俺だって男なんだが。危機感なさすぎじゃね?



「そ、その…これは――――」

「とりあえず帰れ」


 相手が誰であろうと、俺の反応は変わらない。だって俺は――――。

 とか考えていると、フィリアが泣きそうな顔で目を潤ませていた。



「やっぱり私じゃダメなんですね…」

「――――って、フィリア!?」



「やっぱり、アルは私よりエリーの方が…」

「――――はぁ!?」



 なぜそうなるのやらさっぱり分からん。なんでここでエリシアが出てくるんだよ!?



「落ち着け、フィリア。エリシアだろうと誰だろうと俺が『帰れ』と言うことに変わりはないんだぞ?」


「で、でも。リリーがアルとエリーが一緒に寝てたって……」



 リリー!? 後で覚えてろよ…! 

 だが、今はフィリアをなんとかせねば。だがこの展開…ものすごく嫌な予感がするんだが。

 ともかく、俺は事実を伝える以外に選択肢はない。



「――それは、エリシアのやつが寝ぼけて潜り込んできただけだ!」

「……え、そうなんですか?」


「…もちろんだ」


 少なくとも、最初は寝ぼけて入ってきただけだった。

 あとは寒いから、怖がって、酔っ払って…etc。

 …不可抗力です。いや、何もしてないから問題ナイヨ。タブン。



 フィリアは一瞬逡巡したのち、なにやら決然とした表情になった。前にエリシアがこういう表情かおをしたときは殺されかけたっけなぁ…。嫌な予感しかしない。



「じゃあ、私も寝ぼけてます!」

「……起きてるだろうが」


「寝ぼけてるんです!」


 なんと、フィリアは俺に抱きついてきた。なんかやわらかいものが俺の腕に押し付けられる。



「……何のつもりだ、フィリア」

「私だってアルと寝たいです…。ダメ、ですか?」



 なんで俺ってこういうのを断れないんだろうか。優柔不断? 女に甘い?

 はぁ、憂鬱だ。


 俺は、不満なのを示すべく全力で溜息をついてから言った。

「…勝手にしろ」


 途端、フィリアは輝くような笑顔になった。


「はい、勝手にします!」


 で、更にピッタリ抱きついてきやがった。そこまで勝手にしやがるのか!?

 さすがにコレは色々マズイ。主に自制心だが。



「…フィリア、胸が当たるからもうちょい離れてくれ」


 どっかの誰かより胸が大きいから気になるんだよ。どっかの誰かも見た目より胸あるんだが、フィリアは見た目どおり胸がデカくて…。



「――――ダメです、私は寝ぼけていますから」



「…なぁフィリア、俺は男だぞ」


「だ、大丈夫です!」



 脅かしてやるつもりだったのだが、全く効果がなかった。…むしろ逆効果?

 もうやめだ。早く寝よう。そしてフィリアより早く起きて逃走しよう。

 なんだかんだで疲れていたので、すぐ眠りに――――。





「――――ふぅ~~」

「――――うおっぷ!?」


 俺の耳をなんとも形容しがたい感覚が襲った。飛び起きると、不満そうなフィリアの顔が目の前あった。不満なのは俺のほうだと思うんだが…。

 


「フィリア、なんで耳に息を吹きかけるんだよ…!?」

「先に寝るなんてひどいですよ!」



「フィリア、俺もう眠いんだよ……」

「ならもっと、その…お泊りらしいことをしてください…!」


「えー…」



 お泊りっぽいことねぇ…。なら、アレだろ。





「よし。フィリア、よく聞けよ…!」

「な、なんですか?」



「これは、俺が昔行った国の話なんだけどな…」




 昔々、あるところに少年が住んでいた。少年は学校に通いつつ、毎日人助けをして暮らしていたんだ。


 少年が人助けをするのには色々理由があったんだが、それは置いておく。

 その日は冬の寒い日で、日が落ちかけて大分暗くなっていた。少年はあと一度だけ人助けをしてから帰ることにしたんだ…。



 そして、神社の鳥居を見つけたんだ。俺は、「こんなところに神社なんかあったっけな?」と言いつつ、中に入ってみた。


 神社の中は木が生い茂って暗く、あまりよく見えなかったが、近くに祠っぽい物が見えた。

 俺は、せっかくだから行ってみることにした。


 

 しかし、祠に近づくにつれて、おかしなことに気づいた。

 祠には大量の御札が張ってあったのだ―――。




「―――――きゃぁぁぁぁ!?」

「……早くね? まだまだこれからなんだけど」



 フィリアは既に真っ青になって俺の腕に抱きついて震えている。

 …ひょっとして怪談ダメなのか? 意外だ。まだ一割も話してないのに。



「ど、どうして怪談なんですか!?」

「む、失礼な。怪談じゃなく体験談――――」



「――――アルはお化けだったんですか!?」

「…すまん、意味が分からないから落ち着け」



 結局、フィリアが落ち着くのに数分を要した。


「もう怪談はやめてください…」

「そう言われるとものすごくやりたいな…」


 もうちょっと怖がらせてみようかと思ったが、フィリアが本気で怒りそうだったのでやめた。



「一緒に寝るだけでいいですから怪談は止めてください…!」


 とのこと。今度からフィリアへの対応に困ったら怪談をつかおう。

 ようやく目を閉じることができた俺は、抱きついてくるフィリアの感覚を必死で無視し、なんとか眠ることができた。疲れててよかった…。





――――――――――――――――――――――――――――――――――




 時刻はその数時間前。

 フィリアの兄、フィリスは怒っていた。


「父上、どういうつもりなのですか!?」

「どういうつもりって言われてもなぁ…」


 父の書斎に苦情を言いにきたのだが、父の反応が芳しくなかったのだ。いや、その前から既に怒っていたが。



「なぜ、あの家の次男なのですか!?」


 疲れたような顔をしていた父だが、これを聞いた途端にすこし悲しそうな顔になり、しかし目は鋭く輝かせて、言った。



「あの家が十二家の中で最下位だったのは三代前の話だぞ、フィリス。アルベルクのヤツが立てた功績を考えれば、今は第四位くらいじゃないのか?」


「―――っ、父上はアルベルク殿を過大評価しすぎです! もっと他の者や伝統も重んじるべきです!」




「はぁ…。まだアレを根に持ってるのか?」

「…なんのことでしょうか?」




「まぁ、いいんだがな・・・。アルネア君は交流戦で個人・チーム戦で優勝してるぞ。どちらもお前にはできなかったことだ」


「…今年はヤツが卒業していなかったからではないですか?」




 忘れもしないヤツの圧倒的な力。フードの下で獰猛に輝く真紅の瞳。<光>魔法でも全く歯が立たず、王国の生徒が暴走したときも一瞬で気絶させるあの速さ。

 父も見ていたハズなのだが、父は楽しそうに笑った。




「やはり、お前に公務を押し付けて私が見に行ったのはマズかったな。アルネア君なら『羅刹鬼』とも、ある程度互角に戦えると思うよ」


「――――そんな馬鹿な!?」




 『羅刹鬼』とは、ヤツ―――共和国の歴史でも最強クラスではないかと言われる男、ゼクト・ヴェーマイスに付けられた仇名で、鬼のように強いからという、なんとも単純なネーミングだ。今は共和国の兵団に入っているらしいが、一年で既に中隊長クラスにまでなっているとか。




「まぁ、そんなわけだし。別にフィリアが好きならいいんじゃないかなー。と父さんは思ったわけだ」


「――――しかし…っ!」




「はぁ、まだ納得できないのか?」



 父が呆れたような顔になるが、妹の相手の話なのだ。やはり自分の目で何か証拠を見ないと納得などできない。何か――――。



「……なら父上、一つ試してみたいのですが」


「うわー、お前がそういう悪い顔をするときって大抵引かないからなぁ…」

「悪い顔とは何ですか…!?」




 




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