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銀雷の魔術師  作者: 天城 誠
外伝:薬草採取編
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第一話:出発



 さて、14歳の夏休みだ。フォーラスブルグ家の朝食の席で俺は口を開いた。

「あ、俺これからちょっと色々ぶらついてくる」

 一斉に俺に父さん、母さん、兄さん、エリシア、リリーの視線が集中する。まず、父さんが口を開いた。


「ん、どれくらいだ?」

「え~、一週間かなぁ?」

「そうか。アルなら平気だと思うが、怪我や風邪には気をつけろよ?」


 あっさりすぎじゃね? って感じだが、父さんはこんなもんだ。それに、かれこれ10歳の夏休みから毎年なので、今年で5回目だ。


「・・・アル、また行っちゃうんです?」

 エリシアが上目遣いで見つめてくる。たぶん無自覚なんだろうが、これ破壊力やばいぞ? 戦術兵器だな。



「はぁ、お兄ちゃんも暇だよね・・・」

 リリーが溜息をつきつつ、何故か俺を責めるような目で見てる気がするが、気のせいだろう。


「ああ、暇さっ! だって読書か修行以外にすることないだろう?」

 俺は食べ物を口に入れつつ話す。いや、まぁちょっとくらいいいだろ? と、母さんが嘆かわしそうに口を開いた。


「アルも女の子とデートでもしてくればいいのに・・・」


「――――ごふっ!?」

「――――んむっ!?」

「――――むぐっ!?」

 俺とエリシアとリリーが一斉にパンを気管に詰まらせた。よかった、スープじゃなくて。


「ごほっ、ごほっ、母さん・・・俺は彼女とかいないんだけど?」

 なんとか声に出した。いきなり言うからなんかビックリしたじゃないか・・・てか、何故エリシアとリリーまで驚いてるんだよ。

 しかし母さんは容赦なく? 再び口を開いた。

「いい、アル。今のうちから女の子とデートをしておかないと、好きな子ができたら大変よ? それにデートしてたら好きになるかもしれないわよ?」

 

「お母さん、お兄ちゃんみたいな激鈍お兄ちゃんにデートは難易度が高すぎると思うよ?」

 リリーがなんとも言いがたい目で俺を見ていた。単純に見下されてる感じのセリフだが、なんか他意を感じた。目を見つめると逸らされた。



「・・・」

 エリシアは無言で黙々と食べている。俯いて表情は見えない。


 と、ずっと黙って食べてた兄さんが口を開いた。

「それじゃ、アル。エリシアと一緒に遊びにでも行ってきたらどうだ?」


「――――んむっ!?」

 再びエリシアが気管に詰まらせた。無言で悶えてるので、背中をさすってやる。

「大丈夫か~? 兄さんが変なこと言うから・・・」


「そうか? いい案だと思ったんだが・・・悪い、エリシア」

 兄さんがすまなさそうに言い、エリシアが顔を上げ、言った。

「いえ・・・アル、一緒にどこかに遊びにいきませんか・・・?」





―――――――――――――――――――――――――――――――――




 さて、問題だ。女の子と遊びにいく場合、どこに行くのがいいだろうか?

 時期は夏休み。しかも二人っきりで。二人で相談したのだが・・・

「エリシアの行きたいところで」

「アルの行きたいところでいいです」


 ってなった。よし、なにも決まってないな。二人きりで海とか行ってもなぁ・・・

 リリーは、「私はお兄ちゃんと違って空気が読めるからいかない」とのこと。なんだよ、まるで俺が空気読めないみたいじゃないか。



 まぁ、相手がエリシアだし、特に気を使う必要もなかろう。


「よし、散歩にでも行くか!」




――――――――――――――――――――――――――――――――――




 さて、散歩である。俺もエリシアも飛行魔法が使える上、魔力量が一般人の比ではない。よって、空の散歩も可能である。でもまぁ、空の散歩って代わり映えしないよな、意外と。


 そんなわけで、俺はエリシアと、家から南西にある村に向かって歩いていた。あそこに行って買い物でもすればいいかな~というわけだ。




 念のため、普段着の上に革鎧を着て、その上黒いコートを羽織って重装備。

 武器も<アウロラ>と<アリアティル>をもっているので、事実上のフル装備である。デートにフル装備・・・エリシアにも武器とか持ってくるように言っといた。ちょっと驚いてたみたいだが、「さすがアルです・・・」とのこと。なんかほめられてる気がしないのだが・・・




 まぁ、今は獣道を絶賛ウォーキング中である。俺がちょくちょく止まって草を摘んでいくが。

 


 エリシアが不思議そうな顔で尋ねてきた。

「アル、その草はどうするんです?」

「これか?ちょっとトレードかなぁ・・・」

「・・・?」


エリシアはまだ不思議そうだが、説明しちゃうとワクワク感が足りないよなぁ・・・

「ま、そのうちわかるさ」



 と、村の門が見えてきた。高さ2.5メートルほどの木製。門にはアゼホ村と書かれている。アゼホ村は、人口およそ700人の村だ。周辺の村でも最大規模であり、町と言っても通じそうな気がする。4年前に初めて訪れて以来、毎回訪れている。

 特徴として、魔物対策で周囲を柵で囲ってあること。あと、凄腕の薬草術師がいることだ。



 俺は、後ろのエリシアに振り返りつつ、言った。

「エリシア、髪と瞳の色を変えてから入るぞ~」

「はい。目立たないようにするんです?」

「そうそう」


 俺は、髪と瞳を黒に見えるようにし、エリシアも同じく黒髪黒目。

「なんか新鮮だな・・・」

 黒髪黒目のエリシアもなんか可愛い。

 

 エリシアは、くるっと一回転し、聞いてきた。

「似合ってますか?」

「ああ、可愛いよ」

 たちまちエリシアの頬が朱色に染まる。すごく嬉しそうだ。うーん、俺なんかに褒められて嬉しいのか? いつも鈍いだなんだと散々な気がするのだが。





 とりあえず、俺たちは村の中に入った。村には2本の大きな道が十字に通っており、それに沿って様々な店が並んでいる。やはり、村とは思えない活気だ。

 俺とエリシアが入った入り口は狩人や木こりなどが使う道で獣道だが、この村には街道が通っているのだ。


 そして、野菜や肉、毛皮や家具などの店はもちろん、各種武器やアクセサリー、魔術用品などの店まである。



「エリシア、何か気になる店はあるか?」

「全部気になります・・・!」

 なんか、エリシアの目がキラキラしてる気がする。まぁ、いつも買い物とかできないからな・・・。エリシアとリリーは、父さんが無茶苦茶心配するので、外出できないわけではないが、つい遠慮してしまうのである。



 

 まぁ、エリシアもリリーも装飾品にそこまで興味はないみたいだが、女の子だし、多少はあるだろう(多分)。




 エリシアはアクセサリーの店だけでなく、肉や野菜の店でも目をキラキラさせていた。いや、別にいいんだが、年頃の女の子としてそれはどうなんだ?

 ただ、武器の店には興味を示さなかった。意外である。それを聞いてみると、エリシアは頬をふくらませつつ言った。



「私だって女の子です。それに・・・デートで武器はないんじゃないです?」 

「肉と野菜はいいのか?」

「・・・アルにご飯を作ってあげようかと思ったんです」

「よし、楽しみに待ってる」

「食欲と睡眠欲はすごいです・・・」



 エリシアは微妙な表情を装いつつ、しかし嬉しそうだ。

 エリシアの作るご飯は美味い。さすがに<焔>使いだけあって火加減完璧だし、量とか味付けも文句のつけようがない。



「いや、エリシアの作った料理は絶品なんだ。一度食べたらこれが通常の反応だ!」

「じゃあ、今日はアルの好きなものを作ります。何がいいです?」

「よっしゃ! んじゃ、えーと・・・カレーライス?」

「またです!? というか、確か王国の料理ですよね? どこで知ったんです?」

「あ~・・・本だな」


 とまあ、到底デートじゃない何かの会話をしつつ、肉以外の食材を購入。俺のデカイ鞄に詰めておく。




 肝心のアクセサリーとかはまだ見つかってないが、一旦お昼にする。エリシアに作ってもらうのは晩御飯であり、適当に店に入った。

 なんか和風の店で、俺とエリシアは蕎麦を食べた。




 さて、ご飯を食べ終わり、俺とエリシアは村に入ったときの入り口付近に戻ってきた。


「アル、どこに行くんです?」

「ちょいとトレードに」


 そう言って路地に入り、ある一般的な木造家屋の前で立ち止まった。唯一特徴があるとすれば、看板がかかっていて、『フェミル薬術店』と書かれているところか。


 俺は、てきとーにノックし、ずかずか入る。店となっているが、中は普通に和風の家である。靴を適当に脱ぎ捨てる。



「アル!? 勝手に入っていいんです?」

 そういいつつ、エリシアも靴をキレイに脱いでついてくる。驚いてるだけで非難する気はないらしい。


「いいのいいの。フミ婆、いるんだろー。邪魔するよ~」

俺は横開きの戸・・・名前なんだけ? 襖? を開けて勝手に部屋に入った。


 その畳の部屋には、座布団に座った見た目十台前半の狐の耳と尻尾の少女がいた。なんか薬草をゴリゴリするヤツでゴリゴリしていた。


「そのフミ婆というのは止めてもらえんのか?」

「えー、85歳だろ?」

「84歳じゃ・・・女性の年を多く数えるとはいい度胸だの。毒でも食うか・・・?」


 そう、このフミ婆・・・狐獣人の凄腕薬術師フェミルは、見た目とは裏腹にお婆さんである。まぁ、あくまで84年生きてるだけで、狐的にはまだ子どもで人間換算で約12歳らしい。見た目も12歳である。

 

 ちなみに、薬術師とは、治癒術と薬草術の複合により、より効率よく治療するジョブである。フミ婆は皇国でも同業者にはかなり名の知られた凄腕なのだ。



 エリシアは、さすがにドラゴンだけあって驚かないのか、普通に挨拶した。

「初めまして、エリシアです」

「む、お主の彼女か何かか? こんな薬草まみれの場所につれて来るとは、センスが最悪じゃな」



「・・・彼女じゃないけどな。フミ婆、薬草と情報のトレードよろしく」


 俺は否定したが、フミ婆は顔が赤くなったエリシアを見て意味深に笑い、言った。


「ほほぅ、そうかそうか。茶でもいれるから適当に菓子でも探しておけ」



「・・・エリシア、菓子探索ミッションだ。難易度は星三つ」

「三つです!? どうしてです?」


「まぁ・・・オープン・ザ・ドアー!」


 俺は襖を開け、隣でエリシアが絶句する。

 

 隣の部屋は薬草が床に散乱し、天井から吊るされ、色々な箱やら袋やらも散乱し、それにも薬草やら何やらが適当に突っ込んであるのである。

 ちょっと間違えると、凶悪トラップ・薬草雪崩が発動し、そのあまりの量と臭いにより、精神力を大幅に削られることになる。




 薬草に埋もれ、薬草に溺れ、薬草雪崩に巻き込まれ、薬草を掻き分け、薬草を蹴散らし、なんとか食べられそうな煎餅を発見した。


 ちなみに、エリシアはどこからか羊羹を発掘してきた。しかも美味しそうなヤツ。







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