第六話:エリシア
ティルグリム山脈。その西側にある、とある山の森に、それは倒れていた。
小さな白い竜。(まあ、人間と同じくらいの大きさはあるが)
「土、水、火、風!自然が我らの姿と魔力を隠蔽する!<マジック・ハイド!>」
俺は隠蔽呪文を発動し――。
『<ヘルフレア!>』
――ひっかかった!
竜炎が、全く関係ない方向へ飛ぶ。
たしかに、その方向に魔力は感知できるだろうが―。
やはり油断していたか。
先ほど俺は詠唱した。『水の白幕は、敵を欺き、惑わし、我を守る!』
それを聞いていればわかったハズなんだが。
今回はドラゴンからすると、俺の魔力なんて塵同然ということを利用した。
霧で感覚をかく乱しつつ、俺の魔力1割ほどを、俺と反対方向に逃がしてみた。
だって、塵の大きさなんて戦闘中に気にしないでしょ?
黒竜<グリディア>が飛び去ったのを確認して、俺は白ドラゴンに駆け寄る
「おいっ、大丈夫か!?」
返答がない、かなり危ない!
――死なせるもんか!
俺は手に魔力を集め、<治癒>もどきを発動する。
「癒しの魔力よ、この者を救いたまえ!<ヒール!>」
白ドラゴンの傷が治っていく。
――だが
(くそっ、傷が深すぎる!)
(これじゃあ、絶対間に合わない!)
――もう<グリディア>はいない。全力を出しても問題ない。
――山には危険な生物など山ほどいるぞ?
――ちゃんと姿も隠すように、さっきのハイドで指定したさ。
――助けて、逆に殺されるかもしれないぞ?
――別にいいさ!
――魔力、全開!
――この前は気づかなかったが、俺は銀の魔力を纏っていた。
『――傷つきし者を癒す聖なる力――』
『――汝、未だ輪廻転生の刻にあらず――』
『――汝、未だ冥府の門を叩く刻にあらず――』
『――蘇りて、その天寿を全うせよ――!』
『―――<リヴァイブ!>』
銀の閃光が閃き、白ドラゴンには傷ひとつなかった。
(――――ッ!?)
一瞬、クラッと来た。一気に魔力を放出したのが原因のようだ。
(でも、この前よりましだ)
まあ、体はダルく、戦える状態ではないが、しばらくすればマシになるハズ。
何はともあれ、これで白ドラゴンは助かるハズだ。
と、白ドラゴンが目をあけた。
『たすけてくれて、ありがとうございます。』
いきなり回復したのと、俺が魔力を放ってることから、
俺が回復魔術を使ったのが分かったのだろう。
「うん、どういたしまして。大丈夫?痛いところはない?」
とりあえず、ちゃんと治ってるか確認しないとな。
『はい、だいじょうぶです。』
白ドラゴンが答える。
「はぁ~、よかった」
俺も、命がけで特攻したかいがあった。
『どうして、たすけてくれたんですか?』
白いドラゴンに問いかけられる。
――いつか聞いたような言葉
――でも、違う
――何が?
――わからない。でも、
――俺の答えは、同じ。
「助けたかったから。」
白いドラゴンがこっちをみている。
擬音で表現すると、ポカーン・・・って感じだな。
まあ、こんなセリフを実際に聞くことなど皆無だろうからな。
「あ、そうだ。助けたかっただけだから、全然気にしなくてオッケーだよ?」
一応気にしないように言うが・・・
『・・・そんなことをいわれたら、よけいに気になります!』
むぅ、その通り。
なら――
「なら、名前を教えてほしいな。俺はアルネア、アルって呼んで」
『・・・なまえは、ないんです』
白いのは悲しそうに言った。
・・・なんか、複雑な事情を感じ取った。
「じゃあ、俺が名前をあげるよ」
『ほ、ほんとですか?』
声が女の子っぽいし・・・
「おう!君の名前は――エリシアだ!」
―――しばらくして
「炎よ!<ファイヤ!>」
俺は火をつける。
「よしっ焚き火オッケー!」
とりあえずご飯食べたいのだ。
「エリシアー、生肉と焼肉どっちがいい?」
ドラゴンって生肉なのかな?
『・・・やきにくがいいです。』
そんなことはなかった。意外。
「おっけー、んじゃ、適当に棒に刺して、焼くっと」
こんなこともあろうかと、肉とか持参してあった。
魔法あるから火も起こせるし、日帰りだしね。
――数分後
「よし、上手に焼けました!はい、エリシア」
俺は、肉つきの棒を手渡す。
「ありがとうございます」
エリシアが手で受け取る
俺は空腹なので、とりあえず食べる。うまい。
――ん、手で受け取った?
ちらっと右にいるはずのエリシアを見る
白い髪で、赤い目をした女の子がお肉を食べていた。
簡素な真っ白い服――ほぼ、ただの布のままだが、かたちは普通の服――を着ている。
「・・・えっと、エリシア?」
わけがわからないよ
「はい、なんですか?」
女の子がこっちを向いて答える。
――なんだと!?
「え~と、おいしい?」
よし、ごまかそう
「はい、おいしいです。ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げるエリシア。
「そっか、そっか、よかった~」
とりあえず、色々考えたが、人間に変身できるようだ。
転生者だからまだ耐性があるが、実際に見ると、ほんとにビックリである。
そうこうしているうちに、二人とも食べ終わった。
とりあえず、一つだけエリシアに聞かねばなるまい。
「エリシア、一つだけ聞かせて」
「はい、なんですか?」
エリシアが小首をかしげる。
「どうして<グリディア>に襲われてたの?」
エリシアは少し悩んだようだったが、教えてくれた。
「わたしは、竜族でも強大な力をもって生まれたらしく、
<グリディア>は、わたしが成長するまえに、亡き者にしようとしたみたいです。」
そう言って、恐る恐るこちらの反応をうかがうエリシア。
「そっか、グリディアひどいなぁ・・・エリシア、だいじょうぶなの?」
とりあえず、俺の中のグリディア株は未曾有の大暴落。
エリシアは上目遣いにこちらを見てくる。
「その、こわくないんですか?」
「え?なにが?」
なんのことだかさっぱり。
「わたしは、あのグリディアと同じくらい強くなるかもしれないんですよ?
今のうちになんとかしよう、とか思わないんですか?」
ふむ、それはたしかに。グリディアには到底勝てる気がしないな。
そっか、エリシアはそう思ってたのか・・・
「そうだね、じゃあ今のうちに――
エリシアと仲良くなっておこう!」
エリシアは呆然としている。そんなに変なこと言ったか?
意外と合理的だとおもうんだが?
「わ、わたしが仲のいい人も攻撃するかもしれないですよ?」
なんか自分を悪く言い出すエリシア。
俺は、とりあえず乗っかってあげることにする。
「む、なら自分の敵になるかもしれない命の恩人も始末したほうがいいんじゃない?」
「そ、そんなことできません!」
エリシアが慌てて言う。
「うん、なら何の問題もない。オールオッケー。」
よし、これにて万事解決。っと、まてよ?
「エリシア、このあたりにいると、危ないんじゃない?」
「そう、ですけど、でも・・・」
顔を俯けてしまう。やっぱりか。
グリディアに狙われる以上、ティルグリム山脈は危ない。
エリシアは魔力を大量に保有しているので、完全には隠しきれない。
まだ子どもみたいだしね?
今も、俺の感覚は十二貴族クラスの魔力を感知してる。
白い髪に、赤い目は目立つ。
行くあてもない。
「よし、エリシア。ウチにこない?」
「えっ!?」
俺の言葉に、エリシアは思わず顔を上げて驚いた。
こんな作品に6話も目を通してくださった方。ありがとうございます!