第十一話:後日談?
目を開けると、白い天井が見えた。
・・・体が動かない。
「・・・アル?」
エリシアの声が聞こえ。
天井の代わりにエリシアが見えた。
なんか上手く口が動かせないが、なんとか声を出す。
「・・・おはよう、エリシア」
途端に、エリシアの顔がくしゃりと歪み、
その目から涙が零れ落ちた。
「―――――アル!」
「―――――っぅ!?」
エリシアが俺に抱きつき、
柔らかい・・・だが、だが、・・・痛い!
声にならない激痛を味わいつつ、必死に声をふりしぼる。
「・・・死ぬ・・・痛い・・・」
「あっ!?・・・ごめんなさい・・・」
しょんぼりするエリシアを見てると、なんか悪いことをした気分になるんだが・・・
とりあえず、状況を確認せねば・・・
「エリシア、今日は何日だ?」
「・・・6月21日です」
え、大会が始まったのが6月12日、個人戦が3日間だっけ?
いや、よく覚えてないけど。
そして、休息3日。
チーム戦も3日間。
・・・ん?
「・・・3日ほど眠っていたと?」
「・・・はい」
なんてこった。
3日・・・3日かぁ・・・
「ごめんなさい・・・私のせいです・・・」
エリシアが顔を俯けてしまう。
いや、先にエリシアが俺をかばったんだが・・・
納得してくれないだろうなぁ・・・
仕方ない、右手は・・・少しは動くか。
俺は、気合で右手をエリシアの頭にのせ、撫でた。
「・・・アル?」
「俺は生きてるし、エリシアも生きてる。今はそれだけで十分だよ。
今度はうまくやるさ!」
「・・・はい!」
エリシアが笑顔になる。
いや、たぶん頭を撫でられて嬉しいだけだと思うが。
とりあえず、状況を説明しておこう。
残りの交流戦は中止だ。
史上2回目の中止だそうだ。
俺の体調は・・・微妙だ。
現在共和国の病院に入院中。
二重の精霊憑依に、致命傷を受けた状態からの無茶な戦闘。
エリシアの治癒も大変だったし。
しばらくは精霊憑依とかは禁止された。
まぁ、使おうと思っても使えないのだが。
<アウロラ>と<シルフィード>は完全に沈黙。
呼びかけても反応がなく、魔力を補充しても、やはり反応がない。
とりあえず、夏休みは軽くリハビリからかなぁ・・・
ほんとは今すぐリハビリしたいのだが、エリシアの不安そうな視線が痛い。
曰く、「お願いです、どうかしばらく大人しくしててください・・・」とのこと。
くっ、いつもは無理にでも起こされるのに。
この世界は、読書以外に室内ですることないんだぞ・・・?
が、涙目で懇願されて無視できるはずもなく。
仕方ないので、例の魔道書『伝説とされる魔法について』でも読んでおく。
そういや、ユニゾンってこれに載ってたんだっけ・・・?
みんな使ってる気もするが、まぁ、この本古そうだしな・・・
なんといっても古代語で書かれている。
尋常じゃなく汚い字という、天然の暗号でもある。
正直、これを読むのは気が滅入る。
そんなこんなで、4日ほどが経過し、
俺の病室にギニアスがやってきた。車椅子で。
「・・・本当にすまなかった」
「だからほんとに気にすんなって」
俺は気にしてないのだが、ギニアスは気にするようだ。
「・・・もし何か望みの品でもあれば手を尽くすんだが・・・」
無いんだろうなぁ・・・といった感じで苦悩するギニアス。
ふむ、あんまり気をつかわせるのもアレだし、なんか無かったかな・・・?
お、そうだ。
「あるある。ちょっと耳かして」
「・・・そんなことでいいのか?」
「俺にとっては最重要かもしれないんだよ」
「わかった。他にも何かあったら言ってくれ」
「んじゃ、気にするの禁止で」
「・・・ああ、ありがとう、アル」
ギニアスは、ほんの少し微笑み、去っていった。
で、病室には俺と、不思議そうなエリシアが残された。
「アル、なにを頼んだんです?」
「無論、秘密だ!」
「・・・むぅ~」
「あ、そういえば」
「・・・なんですか?」
「エリシアはミリアと知り合いだったのか?」
エリシアが微妙な顔になる。
なので俺は、一応付け足しとく。
「まぁ、聞かれたくないならいいんだが・・・」
「・・・ミリアは私の幼馴染です」
曰く、他愛ない口げんかをしつつも、なんだかんだ仲がよかったらしい。
ドラゴンの社会では力こそが正義であり、
力と掟が全て・・・というのが基本的なセオリーである。
まぁ、当然ながら家族は大事だったり色々あるらしいが。
とにもかくにも、力はとても重視される。
結婚相手とか、一緒にいるグループとか。
そして、現在最強のドラゴンは確実に<グリディア>であり、
そんなのに求婚される・・・いや、才能目当てだが。ついでに側室だが。
のは、ドラゴン的にはとても名誉なことだった。
エリシアに言わせると、古臭い考えだそうだが。
で、その古い考えを持ち、エリシアがいなかったら自分が側室になってただろう、
同世代の赤竜最強だったミリアは、求婚を受けるべきだと言った。
おそらく、エリシアの為を思って言った言葉だった。
しかし、エリシアはそれを撥ねつけ、両親を殺され、追放されたと。
「・・・ドラゴンとしてはミリアが絶対的に正しいんです」
「・・・なら、どうしてミリアは王国にいるんだろうな?」
「・・・あ」
エリシアは<グリディア>を断った。
今の話の通りなら、次の側室候補は間違いなくミリアだ。
<グリディア>が側室を取らなかったか、
ミリアより強い同世代が現れたか、
出奔したか、どれかだ。
話を聞く限り、容姿とか性格はどうでもいいみたいだし、
ミリアの才能もかなりのものらしいし。
(その割りに普通に倒してたエリシアって・・・)
まぁ、側室を取らないことはないだろう。
ミリアより強い同世代は、エリシアとしては無いと思うとのこと。
けっこう実力差は埋めがたいらしい。
要するに、思うところがあって出奔したと考えるのが妥当か。
まぁ、いくら考えても仕方ないか。
さて、目が覚めてから、皆がお見舞いに来てくれた。
リリーは唯一まともに作れるお菓子を持ってきてくれ、
ローラは魔道書をくれた。
フィリアは果物。
兄さんはダンベル。
これをもってきたせいで、兄さんはエリシアに絶対零度の視線を浴びせられた。
・・・そんなに心配しなくてもいいと思うんだが。
ギニアスは、例のものを。
学園長は参考書を下さった。
ケイネスは邪魔しにきたかと思ったが、巷で人気の野菜ジュースをくれた。
あとは、いつの間にか仲良くなった気がする、ジョンとエリスも来た。
手をつないで見せつけていきやがった。
まあ、ホットドック的なものをくれたから許してやろう。
肉を食べたかったんだが、エリシアに禁止されてたのだ。
で、肉が上手く消化できずに大変なことになった。
・・・察してくれ。
いや、でも美味かったから後悔はしていない。
ノエルは謎の薬草をくれた。
意外と効果があり、助かった。
まぁ、一週間でなんとか歩けるようになった。
(なんか驚異的な回復らしい。ほんとに人間か?とか言われた。失礼な。
まぁ、転生者の恩恵かもだが)
で、ちょうど一週間で皆学校に帰ることになってたので、ちょうどよかった。
まぁ、学校に戻っても授業とか無理だからどうしようかと思ったが、
「アルネア、お前は一足先に夏休みだ。家に帰ってろ」
学園長から有難いお言葉をいただき、帰宅することになった。
何をどうやったのか、エリシアもついてきた。
・・・俺が気にしないように気にしつつ、
常に看病するエリシアの体調の方が俺は心配なのだが。
誰かに代わってもらえよと思ったのだが、譲る気は無いらしい。
まぁ、リリーとは時々交代してたりしたが。
リリーに言わせると、
「お兄ちゃん、監視されてないと勝手にリハビリするのバレてるから」
とのこと。
・・・バレてないと思ったのに!?
なんでも、リリーとエリシアには、その程度ならお見通しらしい。
正直恐ろしい。
久々に家に帰った俺は、父さんと母さんに手荒く歓迎された。
さて、例の魔道書も読みつくしたので、やるべきことはたくさんある。
海にも行かないとだし、
<アウロラ>と<シルフィード>もなんとかしないとな。
・・・学園長から大量の課題が郵送されてくるなんて、この時は想像すらしていなかった。