第九話:逆鱗
確かに直撃だったはずだ。
しかし、まるでミリアの魔力に反応するかのように、
俺のコートに例の幾何学文様が現れ、
ほぼ完璧に焔の弾丸をふせいだ。
ミリアは、驚愕しつつ、言い放った。
「――――月竜紋章!あんた、一体何者なの!?」
「<極夜!>」
「月をも食らう焔よ!<イクリプス!>」
俺とエリシアは、なんとなく関わらない方がいいと直感。
無視してギニアスを袋叩きにする。
ギニアスは二刀で必死に防ぐが、<イクリプス>に弾き飛ばされた。
さらに追撃をかけようと――――
「あ、あたしの話を聞けぇぇぇ!紅蓮の激憤!<ヴェルカニア!>」
ミリアの手から、無数の焔弾が放たれ、俺とエリシアに迫る。
正直、洒落にならない魔力量だ。
俺は、全力で防ごうと―――――
「アル、お邪魔します」
エリシアが俺のコートに潜り込んできた。
「――――ちょっ、おい!?」
―――――ドゴォォォォォン!
「やったか!?」
ミリアが直撃するのを見て思わず声を上げるが、
爆炎の中から無傷のコートと共に、俺とエリシアがギニアスに突撃する。
「そ、そんな!?ってあたしを無視するなーーー!」
そんなこと言われても、リーダーのギニアスを倒せば勝ちだし?
というか、よくわからんがこの幾何学模様が出てるときは凄まじい防御力だ。
が、今の隙にギニアスは体勢を立て直した。
・・・腹に<アルザス>が刺さったままだが。
悪いが、勝負とは非情なのだ。
俺は、右手で<天照>を引き抜いた。
と、同時に、<天照>と<月詠>が共鳴するかのように、白銀に煌いた。
<天照>に幾何学・・・月竜紋章が現れ、
<月詠>にルーン文字(仮)が現れる。
「「<白夜月雷!>」」
俺とエリシアは、同時に両腕を引き絞り、放つ。
ギニアスは必死に後ろに跳んでかわし、剣は避けたが、
剣の先から追撃の雷撃が放たれる。
<白夜月雷>は、避けられると雷撃で追撃する。
しかも、雷撃は<サンダーボルト>と同程度の威力があるのだ。
「――――――ガハッ」
なんとか<アレボス>と魔力装甲で致命傷は免れたギニアスだが、
<アルザス>が突き刺さっているせいで、上手く魔力装甲が発動しない。
大きく吹っ飛び、倒れるが、しかし、剣を杖代わりに起き上がる。
「大瀑布よ、我が仲間を守れ!<カタラクト!>」
それを見ていられなかったのか、シェリアが滝を出現させ、
俺とエリシアを阻む。
が、その余所見の代償は大きい。
「光となりて天翔ける星よ!此処に!<シューティングスター!>」
その隙を見逃さなかったフィリアの手から
まさしく閃光の如き速さで、直径1メートルほどの光の弾丸が放たれ、
シェリアを直撃し、シェリアは大きく弾き飛ばされ、倒れた。
「くっ、シェリア!」
ギニアスが悲痛な声をあげ、なんか申し訳ない気分になるが、
勝負だし、術者の気絶で滝が消えたため、
ギニアスに畳み掛けようと―――――
したが、ミリアが割り込んできた。
「―――その紋章、その魔力、髪と目の色を変えてるみたいだけど、
あたしの目は誤魔化せないわよ・・・!エルシフィア!」
普通に今まで気づいてなかっただろと思いつつ、
俺は、エリシアと目を合わせ・・・・
「「<白夜月雷!>」」
容赦なく攻撃をミリアに叩き込む。
ちなみに、避けると雷撃がギニアスを直撃する。
ミリアは魔力装甲を強化しつつ、後方にとび、
雷撃を剣で受けるが、後ろに弾かれる。
「な、なにすんのよ!そんなことしたって効かないんだからね!」
「いや、戦闘中っておしゃべりの時間じゃないぞ?あとにしてくれ」
俺は冷たく言い放ちつつ、<天照>で切りつけ、
エリシアも同時に<月詠>で切りつけた。
ミリアは剣で受けるが、なんと、剣がバターのように三等分された。
・・・魔法剣みたいだったんだが。
が、ミリアは人間には不可能な反応で再び後方に跳び、剣を避けた。
しかし、ギニアスのすぐ近くまで移動してしまったので、もう避けられない。
それに、剣は柄しか残っていない。
しかし、ミリアは不敵に笑った。
「6歳で追放されたあんたと、今のあたしの力の違いを見せてあげるわ!」
その瞳が紅に輝き、髪が紅蓮の煌きを放つ。
魔力が爆発的増加し、凄まじい魔力に空気すら灼熱する。
「もうあのころの私とは違う!あんたなんかとっくの昔に越えてやった!
それに、最強の黒竜を蹴ってそんな人間といるなんて、『月姫』様も堕ちたわね!」
俺は、なんとなくエリシアが馬鹿にされてる気がしたので、
キレてやろうかと思った。が、タイミングを逃した。
「・・・そんな人間?いつから貴方は他人の価値を見極められるほどに偉くなったのです?」
静かに、だが凄まじい濃度の魔力が溢れる。
エリシアの逆鱗に触れた。
ちなみに、今謝れば笑って許してくれる。いつもなら。
が、ミリアは気づかないのか負けず嫌いなのか、言い返した。
「ふん!大抵の人間なんてクズよ!どうせあんたもその男に誑かされたんでしょ!
まさか、体で誑し込まれたの?情けないにもほどが―――――」
『黙りなさい。この人は、あなたや、あの黒いのとは比較にならないほど立派です。』
エリシアの髪が白く輝き、その瞳が真紅に煌く。
<天照>の月竜紋章が同じように赤く煌いた。
完全にエリシアがキレた。
表面上は静かだが、どうやらエリシアに対応してるらしい<天照>の輝きが証明している。
なんか、今なら精霊剣でも破壊しそうなんだが。この剣。
ミリアも若干ビビっている。
が、後には引けないのか、魔力を放出し、魔力剣を形作り、
さらに魔力を開放し、対抗する。
『万物の生命の根源たるマナよ、その力を解放せよ!<リーン・フォースメント!>』
途端に、ミリアのマナが爆発的に増加し、エリシアを上回る。
手にした魔力剣の刃が洒落にならない輝きを放つ。
「ふん、どうよ!あんたは秘術を知らない。あたしには勝てないわ!」
力が上回ったことで余裕をとりもどし、
エリシアを不敵に睨みつけるが、エリシアは全く動じない。
顔は穏やかに俺の方を見つつ、言った。
「アル、私がアレをなんとかします。アルはギニアスをお願いします」
「あー、大丈夫か?」
「・・・その、ちょっと制御できなそうなので、あんまり見ないでほしいです・・・」
「・・・了解。ほどほどにな」
俺の心象が一番心配らしい。
・・・ドラゴン同士の戦闘ならそんな余裕はないと思うんだが。
なんとなく話の流れ的にミリアも昔の知り合いみたいだし、ドラゴンだろう。
明言はされてないけど。
と、これまでの隙にギニアスは腹に刺さった剣を抜いて、治療していた。
・・・むぅ、失敗した。
俺とギニアスの目が合い、再び剣を交えようと―――――
―――――――ドギャァァァァァァン!
エリシアとミリアが激突し、衝撃波で地面がひび割れた。
俺とギニアスは慌てて退避。
正直、戦いどころじゃない。
―――――――――――――――――――――――――――――――
私はミリアと剣を合わせた。
この<月詠>と剣を合わせられるなんて、たいした魔力剣だ。
ちなみに、魔力100%素材の剣を魔力剣という。
威力も耐久も100%魔力依存。
基本、魔法剣のほうが強いし、楽だが、魔法剣が耐えられない魔力ならば、
魔力剣のほうが強い。それに、武器が破壊されたときは重宝する。
<エルディル>も押されぎみだ。
でも、こんな魔力剣と激突しても折れないなんて、この剣も相当な品だと思う。
魔力量、マナ量、共にミリアに負けているけど、
<月詠>の威力はミリアにも衝撃的だったようだ。
必死に魔力を込めているようだが、どんどん<月詠>の刃がめり込んでいく。
というか、<月詠>に魔力を奪われてるようにも見える。
ミリアも気づいたのか、慌てて後ろに跳ぶ。
が、逃がしはしない。
私は、シルフの指輪で翼を生み出し、突進する。
ミリアの顔が驚愕にゆがみ、叫ぶ。
『<ヴェルカニア!>』
巨大な焔の弾丸が現れ、私を襲う。
しかし、私は慌てずに<月詠>と<エルディル>を引き絞った。
『<白夜!>』
二刀と私の腕が白い雷と化し、
焔を貫き、更に、ミリアに突き刺さる。
無理に突き破ったせいで、私の腕が焼け焦げるが、無視する。
そして、この程度ではドラゴンは倒せない。
私は、ミリアの鳩尾を全力で蹴飛ばした。
「――――――ぅっ!?」
ミリアが数十メートルも吹き飛び、地面を転がり、力尽きた。
しかしこれが、とんでもないものを呼び起こしてしまった。
「<精霊憑依――!>」
『ギニアス、我は貴様にはまだ早いと言ったはずだが?』
ギニアスの叫びと、
エレボスの呆れたような声が響き、
ギニアスの魔力が爆発的に増加し、しかし、制御できずに暴走した。
『―――――ウオォォォォォォォッ!』
ギニアスの魔力がミリア以上に膨れ上がり、
私は戦慄した。
ケイネスの比ではない。
その魔力は天をも覆わんばかりに広がり、
空が暗雲に包まれ、太陽が隠れた。
次回、『黒き狂戦士』




