第八話:黒銀の決勝戦
さて、俺たちは兄さんにもなんだかんだで勝ち、
(完全に仲間のおかげだが)
その夜、晩飯を食べた俺は、部屋でくつろいでいた。
具体的には、ベッドに横になって魔道書を読んでいた。
―――コンコン
「はいよ~?」
「おじゃまします」
エリシアがやってきた。
「エリシア、何か用か?」
「アルに会いたかったです」
エリシアはそう言って、ニッコリ笑い、
ごく自然に俺の横に座った。
「そっか。俺も会いたかったぞ~」
俺は内心の動揺を押し殺し、サラっと返した。
・・・いや、なんか負けたみたいで悔しいから。
「むぅ~・・・」
エリシアは頬を若干膨らませつつ拗ねる。
・・・エリシアがやると可愛いな。
なんとなく、エリシアの頭を撫でる。
「・・・はふ」
エリシアの顔が赤くなり、若干幸せそうに頬が緩む。
・・・はっ!?
このままだと思考が変な方向に行ってしまう!
俺は、起き上がり、脇に置いておいた<天照>を掴んだ。
エリシアは不満そうだったが、それを見て真剣な表情になる。
よし、計算通り。
「エリシア、明日は温存はなしでいこう」
というか、いままでは若干反則かな~と思って遠慮していたのだが、
ギニアスのチームはエルフいるし、<闇>が強いしなので、遠慮しなくていいだろう。
「わかりました。それでアル、精霊憑依をつかってましたけど、平気です?」
エリシアが若干心配そうに俺を見る。
なるほど、心配してきてくれたのか。
「ああ、心配してくれてありがとな。全然平気だぞ!」
俺はそう言うが、エリシアはまだ心配そうだった。
「・・・ほんとうですか?」
「おう!」
エリシアは、俺の脇腹に軽く触った。
「――――――いたたたっ!?」
俺の体に激痛が走り、思わず声が出る。
・・・実はちょっと痛めてたのだ。
エリシアにやられたわけではない。
精霊憑依によるダメージは、マナへのダメージとかで、
通常の治癒術はほぼ効果がないのだ。
「・・・お見通しです」
エリシアが拗ねてしまった。
「・・・感服いたしました」
とりあえず、謝って?おく。
「治療しますから、お風呂に入ってきてください」
「・・・風呂入ったら痛いんじゃないか?」
「お風呂に入らないんです・・・?」
「いや、先に治してくれないの?」
そう言うと、何故かエリシアは困った顔になった。
そういや、前は魔力の流れ云々で気絶させられたから、
どうやって治療するのか知らないな。
「なあ、治療ってどうやるんだ?」
特に何も考えずに聞いてみたが、エリシアが硬直した。
・・・なにゆえ?
「・・・秘術です」
エリシアは何故か苦し紛れっぽく言った。
あ~、見られちゃいけない掟でもあるんだな、きっと。
それじゃあ無理に聞いたら可哀想だな。
せっかく治療してくれるのに。
「そっか。じゃあ風呂いってくる~」
若干ホッとした顔のエリシアを残して風呂に入った。
鈍痛だった・・・!
で、魔法で気絶させられ、起きたらすっかり損傷が治っていた。
秘術恐るべし。
で、またしてもエリシアが抱き枕。
・・・何度目だ?
俺としてもこの生殺し?はつらいものがあるんだが。
いいのか?いっちゃっていいのか?
俺は、エリシアに手を伸ばし――――
ほっぺを引っ張った。
「・・・んみゅぅ~」
エリシアが謎の声を出した。
・・・いいんだ、これで・・・
俺は紳士なんだよ・・・
というか、それならちゃんと手順を――――
・・・はっ!?
待て、俺はなにを考えた?
まぁいい。
・・・そういえば、エリシアと付き合ったらどんな感じだろ?
・・・
いや、今と何も変わらない気がしてきた。
まぁ、どうすべきかは、そのうち答えも出るだろう。
「・・・・・・アル?」
エリシアがぼんやり目を開けた。
「おはよう」
「おはようございます・・・」
俺は、身支度を整えるべく立ち上がった。
すると、エリシアが真剣な目で見つめてきた。
「アル、今日はケガしないでくださいね?」
「エリシアこそな」
制服の上に黒いコート。
<アウロラ>、<天照>、<シルフィード>、<アイテール>、<アルザス>。
・・・多過ぎじゃね?
とりあえず<アルザス>は速攻ぶん投げよう。
鉄製だから重いし。
<シルフィード>も重いが、こっちは精霊剣だし。
あとは適当に準備し、ちょっと鞘に小細工し、
俺とエリシアは、ローラとフィリアと合流し、
会場である東門の外へ向かった。
そして、試合開始直前になった。
最後の打ち合わせだ。
「よし、俺がギニアス。エリシアはあの赤毛の女の子・・・ミリアだっけ?で、
ローラがノエル、フィリアがあのシェリアって子をマークで」
まぁ、ギニアスはあまり小細工しなさそうなので、
おそらく全員一対一の真っ向勝負になるだろう。
誰か一人やられたら袋叩きになるが。
「了解です」
「・・・うん」
「わかりました」
みんな若干緊張してる。
まぁ、当然か。
・・・今回は確実にこちらからも脱落者が出るだろう。
余所見をするわけにはいかない。集中しよう。
そして、遂に時間である。
「それでは、これより三国交流戦・チーム戦決勝を行う!両チーム構え!」
俺は、右手に<アルザス>、左手に<アウロラ>を持った。
エリシアは<月詠>を右、<エルディル>を左の二刀スタイルだ。
・・・できるのか?二刀流。
ローラは<アストライオス>を抜かずに柄に手をかけ、
フィリアは<シリウス>を抜いた。
「試合、開始!」
審判の声が響くと同時に、一斉に駆け出し、一斉に魔力が練られる。
「<三日月!>」
「<レイ!>」
まずギニアスの剣から黒い斬撃が放たれるが、
フィリアの手から放たれた光線と激突すると、凄まじい爆発をおこし、消滅した。
(――――属性が反発してるからか?)
「溶岩の激流!<ブレイズ・カノン!>」
「氷結せよ。<ブリザード>」
赤毛・・・ミリアから溶岩ビームが放たれるが、
ローラが一瞬で冷凍する。
「始祖の焔よ、顕現せよ!<プロメテウス!>」
「流れる大瀑布の力を!<カタラクト!>」
エリシアの焔弾を、シェリアの出した滝が鎮火する。
「殲滅せよ、銀の雷!<サンダー・ターミネーション!>」
「碧き斬撃よ渦巻け!<メイルシュトローム!>」
俺はギニアスたちの上空に雷弾を放ち、炸裂させる。
無数の銀雷がギニアスたちを襲う。
が、代わりにこちらには例の碧い斬撃が来た。
俺は、<アウロラ>で弾き、そのまま突っ込む。
ほかのみんなもそれぞれの相手に相対するのを横目で確認しつつ、
俺はギニアスに向けて剣を振り上げた。
「悪いが、速攻で決めさせてもらうぞ、ギニアス!」
「それはこっちのセリフだよ!」
ギニアスも<アレボス>を構えつつ、突っ込んでくる。
―――魔力、全開!
「<白夜!>」
「<黒鷹!>」
―――――ガキィィィン!
凄まじい勢いで互いの二刀が放たれ、
鍔迫り合いに――――
「<サーマルブラスト!>」
俺は、速攻で蹴りをつけるべく、猛攻を開始する。
「―――――んな!?」
至近距離で<アルザス>がプラズマ加速され、
爆音と共に、魔力装甲をぶち抜き、ギニアスの腹に突き刺さる。
――――まだだ!
「<サーマルブラスト!>」
俺の腰の、角度を調整しておいた鞘が火を噴き、
<アイテール>と<シルフィード>が超高速で射出される。
「――――――ガッ!?」
二本の剣の柄が、凄まじい勢いでギニアスの腹に突き刺さる。
刃ではないが、速度が速度だけに、洒落にならない衝撃だ。
ギニアスの顔が苦悶に歪み、吹き飛ばされる。
ギニアスが魔力を集めようとするが、遅い!
俺は、そのまま一気に決めようと――――
「<疾風迅雷!>」
「――――ギニアスっ!」
俺の前に、赤毛の女の子・・・ミリアが割り込み、
俺の剣を受け止めた。
――――受け止められた!?
並の力じゃない!
この少女、何者―――――
――――ドガァァァン!
突如飛来したエリシアにミリアが吹き飛ばされる。
おそらく、エリシアもミリアの人間とは思えないパワーを見ていたのだろう。
不意打ちにも関わらず、まったくの手加減なし。
ミリアはとんでもない勢いで真横にぶっとんだ。
・・・人間なら致命傷だな。
が、すぐにミリアは起き上がった。
ゾンビ?
「ミリアっ!」
俺は、ギニアスが余所見してる隙に容赦なく攻撃。
<アウロラ>で切り掛かる。
が、ギニアスはなんとか受け止める。
「<サンダーボルト!>」
エリシアがギニアスに追撃をかけ、ギニアスが吹っ飛ぶ。
「それ以上はやらせないっ!」
ミリアが咆哮し、爆発的に魔力が上がる。
『<イフリート・ブレス!>』
とんでもない大きさの焔の弾丸が、ギニアスに追撃しようとしていた俺に放たれる。
「――――アル!?」
エリシアが術を放とうとするが、術とエリシアのちょうど中間に俺がいた。
『<プラズマ・ブラスター!>』
俺は手からプラズマレーザーを放つが、防ぎきれなかった。
―――――ドガァァァァァン!
確かに直撃だったはずだ。
しかし、まるでミリアの魔力に反応するかのように、
俺のコートに例の幾何学文様が現れ、
ほぼ完璧に焔の弾丸をふせいだ。
ミリアは、驚愕しつつ、言い放った。
「――――月竜紋章!あんた、一体何者なの!?」