第四話:鏡水晶の剣
さて、俺は魔法による超高速移動で、首都ディグリスに戻ってきた。
もう夕方なのだが、相変わらず人がとても多い街だ。
大通りは人で溢れかえっていた。
こうやって上から見ると分かるが、なかなか面倒な作りの首都だ。
東西南北に一つずつ大きな門があり、城壁は高い。
内部はいくつかの区画に城壁で分けられており、
街の中心には巨大な城があり、そこに向かうにつれて城壁がどんどん高くなっていく。
そして、当然ながら城壁は魔法石で作られているらしく、相当に頑丈そうだ。
サーマルブラストでも弾かれるのかな?
気になったが、まさか試すわけにもいかない。
俺は、適当に人が少ない広場に着地した。
周囲の人が驚いたような目で見るが、
コートの下の俺の制服を見て、納得して去っていった。
魔法学校の生徒なら何をやらかしても不思議はない。
というのがこの世界のセオリーなのだ。
まぁ、それでも空から降りてくるのはレアなのか、じろじろ見られたが。
さて、確かここは商業区画だったか。
泊まってる宿屋がある高級宿泊区画まで3区画くらいかな?
俺は、のんびり歩いて帰ることにした。
そろそろご飯が食べたい。
魔法を使うと、なんかお腹がへるのだ。
さて、商業区画をもうすこしで抜けるというところで、
遭いたくないやつに遭った。(誤字ではなく故意だ)
溢れるイケメンオーラ!
キラリと輝く白い歯!
爽やかスマイル!
ただの街娘なら一瞬で熱を上げるだろう超イケメン。
ケイネス・グノーシアと、そのチームメイトだった(ノエルはいない)。
「君は・・・アルネア君だね。この前はすまなかった。暴走してしまったらしいな」
・・・いや、謝られると恨みにくいから困るんだが。
「まぁ、いいさ。気にしてないよ」
俺がそう言うと、ケイネスは輝くイケメンスマイルで笑った。
周りの一部の女子が歓声を上げてる。
まぁ、確かにイケメンだし、一部除いて立派なやつなのは噂で知っている。
「そうか!すまないな。やはり恋の戦いは正々堂々としなくてはな」
・・・今謝った暴走って憑依暴走だけかよ!?
「そういうのは本人の意思が一番大事なんじゃないのか?」
俺は、前世の基本で言ってみた。
この世界的には、国家戦力増強のため、強い者同士の結婚が基本だ。
今の俺の意見はかなり邪道であり、取り巻きは変なものでも見る眼で見てきたが、
ケイネスは楽しそうに笑った。
「なるほど、確かにその考えはいいかもしれないな」
「そうだろ?だから――――」
「が、すまないがそれだと勝ち目がないので、その申し出は受けられないな」
「勝ち目ないって・・・無理やりだと自分で認めてるようなもんだぞ?」
「そうだな。だがもしかすると強い男が好きかもしれないぞ?君も強いしな」
む、その考えはなかったかもしれん。
実際どうなんだ?
エリシアは俺より強いヤツがいたらそっちを好きになるのだろうか?
・・・なる・・・だろうか?
「まぁ、もう一度戦うのを楽しみにしているぞ。次は勝つ」
考え込んだ俺を置いて、ケイネスは爽やかに去っていった。
俺は、ぼんやり空を見上げた。
あれ?俺ってなんでケイネスを阻止しようとしてるんだっけか・・・?
ケイネスは強いし、議長の息子だし、金持ちだし、イケメンだし、
本当にエリシアのことが好きみたいなのに。
・・・・どうして、俺は――――
こんなに嫌な気分になってるんだろうか?
俺は、立ち尽くしたままだと邪魔だということに気づき、移動することにした。
適当に路地に入り、適当に超高速早歩きで歩き回った。
・・・一体、どのくらい歩いただろうか?
「・・・迷った!」
俺は、迷子になっていた。
なんか知らんが、回りに猫一匹、ゴキ一匹もいない。
しかも、魔力の流れがおかしい。
「<ウィング!>」
俺は、空から一気に脱出しようと――――
・・・
魔法が発動しなかった。
「・・・嘘だろ?」
――――――キィィィィン
さらに妙な耳鳴りがする。
背筋が寒くなり、ゾクっとなった。
「・・・シルフ!」
『はい、お久しぶりですね♪』
なんか、この無駄に陽気な声で落ち着く気がしてきた。
「シルフ、何故か<ウィング>が使えないんだが」
『これは結界の中ですね。風がないので、風魔法は発動できません』
「・・・脱出できないか?」
『この結界は相当に強力です。恐らく、適当に歩いて回ればそのうち脱出できるはずですが・・・』
「何か問題が?」
『時間経過が不明です。もしかすると既に相当な時間が経過している可能性があります』
なんて厄介な!?嘘だろ・・・
大会に間に合わないとどうなるんだ?
確か人数が少なくても問題はなかったはずだが、苦戦は免れない。
「ぶち破れるか?」
『・・・これは!?』
「どうした?」
『おそらくコレは<迷宮>です。私たちは試されています』
「はぁ!?共和国の首都の裏路地だぞ!?」
『そうですね。おそらく一定以上の力の人間が一定の路地を通ると、
結界のなかに入る仕組みだったのではないでしょうか』
なんて面倒な結界を・・・
「シルフ、対話はできないのか?」
『やってみますが・・・』
とりあえず、その間に俺は何か打開策を探す。
・・・
・・・
よし、力ずくでいこう!
「シルフ、面倒だからぶち破ろう」
『はい、了解です♪』
俺は、魔力を解放し、一気に練り上げる。
とにかく、何も考えずにコイツをぶち破る!
『銀の雷弾は破壊をもたらす!殲滅せよ!<プラズマ・ターミネーション!>』
俺の手から、上に銀の砲弾が放たれ、
見えない壁に当たって、炸裂し、四方八方に銀雷を撒き散らした。
――――――バギャァァァァン!
――――パキィィン
ガラスが割れるような音が響き、
一気に周囲の魔力の違和感がなくなった。
「<ウィング!>」
俺は一気に上空へ上がった。
・・・深夜か?
街はほとんど真っ暗だった。
まぁ、外に出られたようだ。
『それではご主人様、またね~♪』
・・・シルフはまたよく分からないテンションだった。
「ああ、ありがとな」
とにもかくにも、
こんな夜中に空から宿屋に戻る・・・のは怪しいので、
歩いて帰った。
宿屋の扉を開けて、入るといきなり飛びつかれた。
「――――ぐはっ!?」
「――――アル!二日間もどこに行ってたんです!?」
・・・どうやら、俺は一日半くらい結界の中にいたらしい。
エリシアさんがお怒りです。
いや、抱きつかれてるから顔は見えないけど。
「悪い悪い、でも別に何も――――」
俺は、まさか一日半も迷子でしたなんてどうなんだと思い、適当に誤魔化そうと思った。
が、誤魔化そうとしたことだけ伝わった。
「・・・どこにいってんですか?」
エリシアが俺の目を睨みつけてきた。
怖い。無表情で目が怖い。
「いや、ちょっとほっつき歩いてた」
「・・・くさいです」
「へ?」
「私はこんなに心配してたのに・・・アルは人に言えなくて、
汗臭くなって、朝になっても帰れない場所に行ってたんですか・・・?」
・・・む?
確かに迷子になったなんて恥ずかしくて言えないし、
歩き回ったから汗臭いし、
朝になっても帰れなかったが・・・
え、なにこの不吉な感じ。
俺の沈黙を肯定と受け取り、エリシアはそっと俺から離れた。
「・・・エリシア?」
「ごめんなさい、一人にしてください・・・」
エリシアは、そのまま振り返らずにふらふらと去っていった。
・・・なんか、涙声だった気がするんだが。
エリシアが泣くのを見たのは、この前の試合が初めてだった。
よって、ただ事ではない。
・・・追いかけるか、言われたとおり一人にすべきか。
というか、人に言えなくて、汗臭くなって、朝帰り・・・
・・・朝帰り!?
え、そういうこと!?
とんでもない誤解に気づき、
エリシアの部屋に急行したが、鍵がかかっていた。
「エリシアー!」
「・・・なんですか?」
「実は俺、迷子になってたんだ!」
「・・・え?」
「いや、結界に入っちゃって、出られなかったんだ!」
「・・・ならどうしてすぐにそう言ってくれなかったんです?」
ごもっともです。
「いや、迷子って恥ずかしいだろ?」
エリシアが鍵をあけ、俺はエリシアの部屋に入った。
エリシアは真っ赤になった目を誤魔化すためか、白髪赤眼だった。
「けふん、どうして結界なんかに入ったんです?」
「いや、ちょっとスリリングな冒険をだな?」
「・・・どうして一人で行くんですか?」
「いや、エリシアにコートのお返しを作ろうかと」
途端に、エリシアの顔が赤くなった。
誤魔化そうとしてるが明らかに嬉しそうだ。
ふぅ、助かった。
「んじゃ、大したことないけど、はいコレ」
日本人の性で、つまらないものですアピールをしつつ白い刀を渡した。
エリシアは差し出されたので、反射的に受け取り――――
―――――リィィィン
「――――んな!?」
「――――えっ!?」
エリシアの手と、俺の腰の<天照>が白銀に輝いた。
エリシアは驚いて硬直している。
俺は、<天照>を抜くと、半透明だった刀身が透明になっていた。
さらに、魔力を流すと刀身が銀に煌き、どこかで見たような幾何学模様に覆われた。
エリシアも震える手で剣を抜き、俺のものと寸分違わぬ透明な刀身が現れた。
が、魔力を流すと、意味不明なルーン文字(仮)が現れた。
あと、銘が変わって、<月詠>になっていた。
「・・・アル、これってもしかして・・・?」
「ルーンクリスタルだってさ」
あっさり答える俺に、エリシアはパニックになっていた。
「ど、どこで手に入れたんです!?」
「ディグリスってドラゴンにもらった」
「ディグリスさん!?アル、どこまで行ったんです!?」
「え、ティルグリムだけど?」
「・・・ごめんんさい、確かに人に言えなくて(あまりに馬鹿馬鹿しくて)
汗臭くなって、朝までに帰れないですね・・・ドラゴンの住処に一人で入るなんて・・・」
「ああ、そうだろう?(ほんとは違うところで帰れなくなったんだがな)」
何故か真っ赤な顔でパニックになってるエリシアを、
俺は不思議そうに眺めつつ、あることを思い出した。
「あ、ディグリスさんから伝言。幸せになってくれって」
「むぐっ!?けほっ、けほっ」
・・・舌をかんだようだ。
「・・・大丈夫か?」
「ディグリスさん・・・確信犯です・・・」
「・・・なにが?」
「・・・ルーンクリスタルは、皇族の竜がプロポーズに使うんです・・・」
「・・・はい?」
要するに、ルーンクリスタルを贈るのはプロポーズであり、
それを受け取るということは、婚約を了承したことになると。
つまり、婚約指輪を受け取った感じ。
は、謀ったな、ディグリス!