第五話:黒と白
グレーフェンリル襲撃から約1年2ヶ月。四の月1日目。
――朝だ。
――戦いだ。
――毎日、朝は戦いである。
「おにいちゃんっ、おきてっ!」
リリーが俺・・・の入った布団をゆする。
「だが断る!あと10分!」
もちろん、俺は拒否。
「きのうおきなかったでしょ!」
その通りだな。今日もおきないぜ?リリー。
俺は例の凶悪魔法を発動。
「いたずら好きの風の妖精!<シルフ・トリック!>」
毎朝使ってたので、詠唱が短くなった。
「水よ、わたしをまもりたまえっ!<ウォーター・ベール!>」
リリーも対抗術を母さんに教わった。
「水よ、おにいちゃんに、さわやかなおめざめを!<フレッシュ・ウォーター!>」
「炎よ、我が安眠のために水を蒸発させよ!<アイム・スリーピー&ファイヤ!>」
イメージが大事なので術名はなんでもいい。
命がかかった戦闘は別だが。
最近はお互いに必殺技であるところの魔法が効かない。
ならどうなるか。
「うおおおおっ!<布団ディフェンス!>」
俺は、毎度おなじみの布団ディフェンスを発動!
「えいっ!<おふとんがえしっ!>」
リリーも新技を使う!
――おふとんがえし――
非力なリリーがアルの布団ディフェンスを破るために編み出した新技。
ひっくり返すことで、布団ディフェンスを無効化する――!
俺の体が少し持ち上がる――!
「――くぅっ!」
俺は必死に耐える。
「――えいっ~!」
リリーも必死だ。
力だけじゃ技には勝てない。
なら、もっと力を――!
魔力を流す――両腕、両足、腹筋!
――毎朝の魔法を取り入れた格闘戦。
ある時俺は気づいた。魔力を流すことで、パワーを上げられる――!
フェンリルの魔力装甲も若干参考にしている。
シーツにしがみつく!
「うおおおおぉぉぉ――ッ、全力、全開!」
「わたしだって――ッ!」
――リリーの腕に魔力が流れる――!
「えいやっ!」
リリーが思いっきり力と魔力を込め――。
「なんだと!?」
――俺は・・・宙を舞っていた。シーツもろとも。
慌てず、空中で姿勢制御。もう慣れた。
「むぅ、今日も負けたか・・・」
――5分以内に起きるかが勝敗のラインである。
「わーいー!かったー!これで、45しょう369はいだけど5れんしょう!」
最初に俺が魔力強化を使い出したのだが・・・
リリーも魔力をなんとなく察知できるらしく、マネされてしまった。
で、体は強化できても、ベッドやシーツや布団は強化できないため、
最近負けが増えて・・・ん?なんでベッドやシーツや布団は強化できないんだ?
できそうだな。
というか、この身体強化も詠唱したらもっと調整できるかも・・・
「おにーちゃん、あさごはんー!」
リリーが俺の腕を引っ張る。
とりあえずご飯か。
さて、この一年2ヶ月で変わったのは三つ。まず、身体強化。
もうひとつは、<治癒>もどき。こっちはリリーの術をパクった。
でも、流石に特殊属性だけあって、かなり難しい。
俺のは大量の魔力で無理やり治す感じである。
――さて、突然だが、ティルグリム山脈に来た。
一人で来た。何故なら、ついに完成したから。三つ目はソレ。それと、なんか来たほうがいい気がしたから。
「我に風の翼を!風を操り、風を切り裂き、風に乗る!
天翔る翼をこの背に!<ウィング!>」
俺はついに完成した飛行魔術を使う。
万全を期すために長めの詠唱。短い詠唱も創ってある。
なにかあったら飛んで逃げられるので、ティルグリム山脈を探索する。
あと魔力感知も得意だから。大丈夫だ、問題ない。
「空が飛べる・・・もうなにも怖くない!」
がんばって練習したかいはあった。
時速百キロ(俺主観)で山脈の空を翔ること30分。
山の高さに感心しつつ、魔力で心肺を強化しつつ進む。空気が薄い。
山脈の下のほうは森で覆われており、かなり深い。
上のほうは高山植物があるね。
そのとき、常に鍛えるようにしてきた自慢の?魔力探知に何か引っかかった。
(これは、魔力を隠してない!戦ってるのか!?)
現場に急行すると、白い小さなドラゴンが、デカイ黒ドラゴンに襲われていた。
俺は、その上空20mほどのところにいる。
一応、魔力は全力で隠蔽している。
――黒いドラゴンの魔力は、尋常ではなかった。フェンリルの5、いや、10倍はある。
――白いドラゴンは子どものようで、全身ボロボロだった。
どちらも飛んでいるが、黒のほうが速い!黒ドラゴンが爪を振るう。
(なんでドラゴンがドラゴンを襲う!?)
白いドラゴンが黒ドラの爪を避けきれず翼の端を割かれ、落下する――
(わけがわからないけど・・・)
(黙って見てるのは、性に合わないんだよなぁ・・・)
俺は、手に魔力を集め――
「――乱れ飛ぶ雷の矢!<ガトリング・サンダーアロー!>」
――バチバチ
――ドガガガガガガ!
――黒ドラゴンの脳天に15の雷が直撃する!
『――ハハハハ!私に挑むとはどのような者かと思ったが、とんだ羽虫だな!』
黒ドラゴンがこちらを睥睨する。
――効いてない!それに、やっぱりしゃべるのか!
「おい、そこのお前!なんでその白いのを追い掛け回してるんだ!?」
とりあえず、一応情報を集めよう。
黒ドラゴンがニヤリと笑った―――気がした。
『――ハハハ!貴様、私を知らんのか。愚かな奴め!まさか先ほどの魔術も挨拶ではなく攻撃だったのか?』
『我が名は<グリディア>、貴様も跡形もなく葬ってやろう!』
<グリディア>、ラーベルグ防衛戦の黒竜。
10の精霊剣ですら、傷すらつけられなかったという、伝説の竜。
いままでは本気ではなかったらしい、俺を絶望させるために、その魔力を解放する。
俺は、歴然とした力の差を感じた。
(――勝てない。フェンリルの100倍はあるんじゃないか?)
俺は、全力を開放すると、気絶する危険がある。
アイツのほうが、俺より速く飛べるだろう。
――でも、見捨てる気はない。
だって、以前には無かった力を手に入れてしまったのだから。
(――魔法はイメージで無限に変化する。勝率は0ではない!)
(だって、助ければ俺の勝ちなんだから―――)
――魔力を集める。
――グリディアも魔力を集める。
――最上位火属性、範囲極大、威力は、<サンダーボルト(通常)>二十発以上と推定。
(――さっそく後悔したくなったな!)
――先手を打たなければ死ぬ!
俺は、飛行魔術を維持しつつ、新たな魔法を使う!
「吹けよ神風!我を運べ!<ソニック・ウィンド>」
俺はヤツにダメージを与えられない。
俺もヤツもそれは解ってる。
――故に、ヤツは油断し隙がある!
<ウィング>と<ソニック・ウインド>の重ねがけ――
俺はヤツの顔に向けて急降下!
ヤツは俺が血迷ったと思い、笑う。
『我が竜炎は愚かな羽虫を焼き殺し、塵すら残さぬ無慈悲の炎――』
俺は、ヤツの詠唱開始を確認し、一気に加速!
『悔やめ、我に挑みし愚行を――』
――詠唱を止めても、つかった魔力は帰ってこないため、
新しい術を出すくらいなら、そのまま撃ったほうがまし。
そして、新しく下級術を使うにも、若干の時間はかかる。
『――<ブラスト・ヘルフレア!>』
――よって、ヤツは大規模魔術をそのまま撃つしかないのだが、
俺はヤツの腹の下を潜り、間一髪回避する!
こんな大規模魔術では、流石のグリディアも無傷ではすまない。
だから、自分に当たる場所には撃てない。
――おとなしく俺を普通に殺せるだけの威力を撃てば、今ので殺せたのに。
――しかも、この馬鹿でかい炎は、俺の役に立つ!
俺は、さらに3個目の術を発動!
「乱れ飛ぶ水の弾丸!<ウォーターガトリング!>」
水の弾丸が竜の炎に当たるが、一瞬で蒸発していく。
『フハハハハ、何をしているのだ?愚か者が!』
この水の弾丸は大量に魔力をこめた特別製。
一斉に蒸発し、霧になる――!
それが俺の狙いだった。
「炎に焼かれても消え去らぬ輪廻の理!集いし水の白幕は、
敵を欺き、惑わし、我を守る!汝、霧に囚われ惑う!<ミスト・プリズン!>」
俺の魔術によって、一面、真っ白な霧に覆われた。
もともと、俺の魔法は白色なので、都合がいい。
(――三十六計、逃げるにしかず!)
全力で飛ぶ!目標は――!
『フハハハハ!その程度で逃げられると思うのか?』
グリディアがとんでもない魔力を集める。
コイツ、さっきのでも遊んでやがったのか!?
間に合えよ!
『貴様の屑のような魔力が隠せていないぞ!』
『燃えろ!<ヘルフレア!>』
――詠唱が短い!反則だろ!?
先ほどの半分程度の威力だが、それでもありえない魔力――!
竜炎が、霧の中を逃げる魔力を、焼き尽くした。
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『ふん、邪魔な霧だ』
邪魔な羽虫を焼き殺したが、霧が消えていない。
おそらく、魔力を常時放出するのではなく、最初に一定量出していたのだろう。
魔力を限界まで抑えて逃げていたが、飛んでいる以上、魔力の跡は残る。逃げられるハズがなかった。
『まあ、上手く魔力は抑えていたな、人間の子どもでは有りえないレベルだが、その程度だ。あの雷使いには遠く及ばん』
『風よ、霧を吹き飛ばせ<トルネイド>』
霧のなくなった空には、黒い竜以外、何もなかった。
『・・・フン、羽虫のせいで本来の獲物を見失ったか。』
『まあいい、もう長くはあるまい。魔力が感じられぬし、あるいは既に死んだかもしれぬな』
黒き竜は、ものすごい速さで東へ飛び去った。
若干修正です。