第十四話:黒き精霊と白き竜
「・・・小さい」
ミニマムサイズでエリシア(ドラゴン形態)が召還された・・・
およそ30センチ・・・
『色々足りなかったんです・・・』
エリシアはテンション低めだ。
『ドラゴンだと?なんと愉快な人間だ!最強種族と名高いその力、見せてみろ!』
正反対に、エレボスはテンション高い。
『<無限黒曜!>』
エレボスが剣を振り回し、視界を覆いつくす黒い斬撃が放たれ――――
エリシアが白い光に包まれた。
『<サンクチュアリ!>』
―――――――キキキキキィィィィン!
黒い衝撃波は、まるで弾かれたかのように四方八方へ飛び散る。
『アル、<光>属性と<闇>は互いに反発するので、簡単に防げます』
「知らなかった・・・」
『<光>と<闇>は両方とも希少なので、激突する機会がないんです。
私が雑魚とあの精霊を引き付けます。アルは術者を!』
「んな!?それじゃあエリシアが――――」
『アルが早く片付ければ大丈夫です』
「・・・わかった。ケガするなよ?」
『・・・はい』
俺は、ギニアスを倒すべく、魔力を練る。
――――――――――――――――――――――――――――
アルのマントに仕込んでおいた、召還補助術式で、私は戦いに割って入った。
こうして客観的に見ると、この前の自分の行動を死ぬほど後悔する。
でも、あの黒い精霊への怒りも込み上げてくる。
悪いけど、私自身への怒りも、八つ当たりさせてもらいます・・・!
『我は暗黒の精霊エレボス!我にその力を見せてみろ、ドラゴンよ!』
『私は精霊ごときに名乗るつもりはありません』
『我がただの精霊かどうか、その身に思い知らせてやろう!』
エレボスと黒鬼に、魔力が集う。
エレボスはその剣を振り上げ――――
『<黒曜冥月波!>』
その剣から黒い斬撃が放たれるのと同時に、
黒鬼たちが一斉に様々な属性の攻撃を放つ。
たしかに、コレを防ぐのは難しい。
でも―――――
『天と空の境界より出でよ!煌け極光の障壁!<オーロラフィールド!>』
――――――ガキィィィン!
私は、習得していたアルの術で防御。
この術は攻撃力がなく、アルがこれを使ったまま私に接近したのでもらっておいた。
この術は、魔力ではなくマナで発動する特殊な術だ。
消費マナが大きいが、この程度の攻撃なら防げる。
それに、肝心の精霊の攻撃は、<闇>属性。
このオーロラは<光>属性に近い属性のようで、激突する前に方向転換し、壁に当たった。
言うなれば<極光>属性だろうか?そのままだけど。
私は、面倒な黒鬼を殲滅すべく、術を発動した。
『殲滅の彗星よ、この地に降り注げ!<ディザスター・コメット!>』
私が手を振り下ろし、爆音と共に、天から彗星――――
ただの魔力の塊だけど――――
が、降り注ぐ。
それらは私の感覚とリンクしており、自由自在に動かせる。
事実上のホーミング弾だ。
黒鬼たちはすばらしい反応速度で避けようとしたが、すべて爆散した。
そして、その間にエレボスが私に接近して来た。
予定通り。
エレボスは黒鬼20体とは比較にもならない強さだけど、
この私は魂の一部でしかない。
死んでしまっても、私自身には何の影響もない。
――――――――――――――――――――――――
俺は、エリシアの彗星が落ちるのを横目に、一気にギニアスに接近した。
ギニアスは、双剣で迎え撃つ。
「悪いが、すぐに決めさせてもらう!」
「そう簡単にはやられないよ・・・!」
俺は、速攻で決めるべく、魔力を集めた。
『<疾風迅雷!>』
「<三日月!>」
―――――キィィィン!
俺は、放たれた三日月を、属性の反発を利用して弾き返し、
更に二刀で追撃する――――
「―――――なに!?」
ギニアスが驚く。
まぁ、いきなり自分の術が跳ね返されたら驚くよな。
ギニアスは自分の放った衝撃波を剣で受けるが、
受けきれずに体勢が崩れた。
そこに、俺の<疾風迅雷>が入る。
ギニアスはなんとか剣でガードするが――――
「だが、ダメージは受けてもらうぜ!」
「―――――ぐあぁぁぁっ!」
俺の雷が流れ込み、一気にギニアスの体力を削る――――!
ギニアスは後ろに跳んで離れるが・・・
まだだっ!
『<白夜!>』
俺は、二刀を思い切り後ろに引き絞り、打ち抜く!
二刀は白銀の雷撃を纏い、空気を切り裂いてギニアスを襲う!
「くっ、<五月雨!>」
ギニアスの剣から無数の黒い斬撃が放たれるが、
精霊を食い止める、ミニマムなエリシアを待たせるわけにはいかない!
俺は一気に勝負をかけようと、致命傷だけさけて、
攻撃を食らってでも攻撃しようと―――――
―――――ドギャァァァァン!
黒い斬撃は、俺のコートを貫けなかった。
打撃を受けたようなダメージはあったが、それだけだ。
逆に、俺の<白夜>は見事に決まり、
ギニアスは剣で防いだが、<疾風迅雷>の倍近い電圧に感電している。
「――――試合終了!勝者、アルネア・フォーラスブルグ!」
審判の宣言が響き、
一瞬遅れて、会場を歓声が包んだ。
「おおっと!?遂に決着だぁぁぁっ!勝ったのは、アルネア・フォーラスブルグ!」
俺は、剣を鞘に収め、エリシアを見やった。
エレボスは消えていくところだった。
『・・・くっ、次に戦うときはこうはいかんぞ・・・!』
見事な捨てゼリフだった。
もう戦わな・・・チーム戦あるじゃん!?
と、ギニアスが起き上がった。
「はぁ、負けちゃったか。今度は負けないよ」
「・・・ああ、受けて立つよ」
俺は、ギニアスが差し出した手を握った。
その後、俺は表彰され、賞品として魔法剣<アルザス>をもらった。
・・・どうしろと?
まぁ、ぶん投げ用にありがたくもらっておく。
<アルザス>の色は銅色。形は片手剣で両刃だ。
長さは若干短め。
材質は多分鋼。
それにしても疲れた・・・
ああそうだ、エリシアにコートと救援のお礼を言わないとな。
まぁでも眠いので、俺は宿屋の自分の部屋に戻り、
ベットに潜り込もうと――――
・・・エリシアがまだ寝てた。
男の部屋で寝こけるとは、
乙女にあるまじき行為だぞエリシア・・・
「お~い、起きろエリシア~!」
肩をゆすりつつ、呼びかける。
「・・・アル?」
エリシアはぼんやりと目を開けた。
「起きろー!俺のベットだぞー!自分の部屋で寝ろー!」
呼びかけるが、エリシアの反応が芳しくない。
あれ、なんかエリシアの顔が青白いんだが・・・
「おい、エリシア!?大丈夫か!?」
「・・・ちょっとマナが欠乏しただけです・・・」
さて、マナっていうのは生命の源になるとても大切なものです。
酸素と同じくらい大事だといえば通じるだろうか?
大丈夫じゃねぇ!?
「おいエリシア!どうやったら回復するんだ!?」
「・・・寝ればよくなりますよ?」
「悪い、好きなだけ寝てくれ」
「はい・・・」
エリシアはそう言って目を閉じた。
「はっ!?俺は何処で寝ればいいんだ!?」
「・・・アル、いっしょに寝ますか?」
・・・え、なにこの展開。
性質の悪いジョーク?
俺の頭がオーバーヒートし、思いついたのは――――
「あ、風呂入ってないや」
「・・・私もです・・・アル、いっしょに入りますか?」
・・・俺はからかわれてるのだと思い当たった。
いいだろう、乗っかってやろう!
「そうだな、入るか」
「・・・はい」
そんなわけで、一緒に風呂に入って、一緒に寝た。
・・・冗談じゃないと気づいた時には引き下がれなかった。