第十三話:暗黒の精霊
「・・・・ならコレならどうかな!?
出でよ、地下の暗黒を司りし者よ!その力の一部を此処に!<エレボス!>」
ギニアスの精霊剣が更に輝き、
黒ずくめの鎧を着た、黒髪、黒目の威風堂々たる男が召還された。
その体に濃密な闇を纏い、黒い大剣を持っている。
『フフフッ、我が名はエレボス。貴様の実力、見せてもらおうか』
その男は、心底楽しそうに微笑んだ。
俺は、背筋に悪寒が走った。
コイツは危険だ。
強過ぎる。
<グリディア>を見たときにも感じた、圧倒的な力。
「シルフ、アイツに勝てるか?」
『無理です。勝機があるとすれば、直接術者を叩く以外にありません』
シルフが真面目に話すなんて・・・
これはかなりやばい。
『フフ、どうした少年、怯えているのか?かかってこないのか?』
エレボスが挑発してくるが、乗るわけにはいかない。
こいつはキレたエリシア並みに危険だ。
仕方ない、使いたくなかったんだが・・・
「いくぞ、シルフ!」
『了解です』
「『<精霊憑依!>』」
俺の体が一瞬、銀と緑に輝き、魔力が爆発的に増加する。
俺は、<シルフィード>に魔力を流し、帯電させる。
『<サーマルブラスト!>』
通常より更に激しい光を放ち、<シルフィード>が銀の流星と化す。
ついでにその辺の砂鉄も巻き込ませ、一気に放った。
――――――ドギャァァァン!
凄まじい音と共に、一気にギニアスを狙うが、
エレボスが軽く手を振る。
『<奈落>』
エレボスの前の空間に暗い穴が現れる。
――――――なんだ!?
『<マグネティション!>』
銀の流星群を囮にしつつ、左から回り込もうとしていた俺は、
言いようのない不安を感じ、
超磁力で<シルフィード>を引き寄せ、穴を回避させる。
が、一部の砂鉄はそのまま突っ込ませて――――――
―――――バシュッ
すべて飲み込まれ、穴が消えると何も残らなかった。
嘘だろ!?
魔力だけじゃなく、物質も吸収するのか!?
『クックック、貴様、なかなか個性的な攻撃法だな』
エレボスは、そう言って右手を振り上げ、下ろす
『黒雨』
数え切れないほどの黒い弾丸が出現し、凄まじい勢いで放たれた。
――――嘘だろっ!?
『ご主人様、ここは私が!』
『任せる!』
『風のマナよ!集え!<ルインズ・ハリケーン!>』
――――――ドギャァァァァン!
銀の竜巻が現れ、黒い雨を向かい撃つ。
洒落にならない衝撃波で、客席前の障壁が一気に歪む。
「障壁の上を開けろ!魔力を外に出すんだ!破裂するぞ!」
学園長が叫ぶのが聞こえた。
俺も、凄まじい衝撃波で、憑依状態なのに立っているのも辛い。
ギニアスは、<奈落>で守られている。
『ご主人様、今が好機です。おそらく、<奈落>を破るのは無理だと思われてます』
『<アウロラ>か?』
『いいえ、<アイテール>です』
『・・・なにゆえ?』
『<アウロラ>は飲み込まれないとは思いますが、突破は厳しいと思われます。
<アイテール>の闇魔力との反発なら、何か起こるかもしれません』
『わかった。いくぞ!』
俺は、<アイテール>に魔力を込め、銀に輝き、
シルフがそこにマナを注ぎ込む。
『紺碧の空に瞬け銀光!貫け銀雷!清浄なる大気の輝きによりて、邪悪を祓え!
<アイティール・サーマルブラスト!>』
銀の光が、透明な輝きに変わり、凄まじい勢いで<アイテール>が放たれた。
――――――――バシュゥゥゥゥン!
――――――ガキィィィン!
『―――――なんだと!?』
エレボスが焦った声をだす。
「・・・やるね」
<アイテール>は、<奈落>を貫通し、しかし、ギニアスが剣で防ぎ、
<アイテール>は空高く舞い上がったが、シルフが風を操作し、俺の手に帰ってくる。
『我が奈落を突き破る?人間とは思えんヤツだな。フハハハッ!』
「はぁ、エレボス、真面目に戦ってくれないかい?」
『いいだろう、人間ごときの相手などつまらんと思ったが、どうしてか愉快だ』
エレボスの魔力が一気に膨れ上がる。
化け物かよ!?
最早、キレたエリシアが可愛く思える。いや、実際可愛いんだが。
『<黒曜!>』
エレボスが剣を抜き、凄まじい勢いで振りぬき、
黒く輝く衝撃波が放たれた。
―――――速い!?
回避は無理だ!
俺は、二刀で迎え撃つ。
『<白夜剣!>』
二刀が白銀の光に包まれ、
両手を思い切り後ろに振り絞り、黒い衝撃波を打ち抜く――――
――――――ドギャァァァァン!
「―――――ガハッ」
『ご主人様!』
俺は、黒い衝撃波の凄まじい威力を受けきれず、
弾き飛ばされ、そのままフィールド端の壁に叩きつけられた。
叩きつけられた背中のダメージはさほどでもないが、両腕がやられた。
『<リヴァイブ!>』
シルフがリヴァイブを発動、一瞬で治癒するが―――――
『・・・遅いぞ!』
エレボスが一気に切り掛かってきた。
『<冥斬剣!>』
エレボスの剣が光を飲み込みつつ、振り下ろされる。
『<サンダーミグラトリィ!>』
―――――ドガァァァン!
「―――――グハッ」
先ほどまで俺の立っていた地面が大きく抉れていた。
そして俺は―――――
―――――壁に激突していた。
サンダーミグラトリィは制御が難しく、戦闘中やると、
どっちに移動するかランダムにならざるを得ない。
しかも、移動速度が雷の速度なので、洒落にならない。
が、あの攻撃を受けるよりマシだと判断した。
位置を確認。
どうやら俺は右斜め前に移動したようだ。
エレボスからの距離と、ギニアスからの距離がほぼ同じ。
俺は、一気にギニアスに接近しようと―――――
『クハハハ!巧く避けたな?これならどうだ?』
『<黒鬼夜行!>』
「「「「グガァァァァァァ!」」」」
フィールド中に、黒い鬼――――
黒い肌に、大きな角、体長が3メートルほどもあり、額に第三の目があり、
いずれも黒い装備に身を固めている――――
が、総勢20も現れた。
「――――んな!?」
『ご主人様、来ます!』
エレボスが手を振り下ろした。
『<黒鬼砲>放て!』
黒鬼の第三の目から、いっせいにビームが放たれた―――――
「・・・目からビーム・・・だと・・・」
『ご、ご主人様!早く!』
『やべっ!?<風車!>』
――――――ドカァァァァン!
「・・・痛い」
俺は、なんとか立っていた。
防ぎきれずに、弾き飛ばされた。
意識があるのが奇跡のような気がする。
黒鬼の戦闘力は馬鹿にならない。
今のビームも、それぞれが、全力の<サンダーボルト>一発分はある。
『ハハハ!よく耐える人間だ!』
エレボスは愉快そうに笑い、そしてその剣を振り上げた。
『<黒曜冥斬波!>』
その剣から、さらに強力な黒い斬撃が放たれた。
・・・やばい、死ぬかもな。
俺は、せめて剣で受けようとして―――――
――――声が、聞こえた。
『魂の盟約を此処に!我が魂は汝と共に!<自動召霊―――!>』
―――――ガキィィィン!
一瞬、視界が白く染まり、
黒い斬撃を、白いドラゴンが結界で弾き飛ばした。
「――――――エ、エリシア?」
『・・・一応召還術なので、反則じゃないですよ?』
「いや、それより・・・」
『・・・』
エリシアも分かってるらしい。黙ってる。
「・・・小さい」
ミニマムサイズでエリシア(ドラゴン形態)が召還された・・・
およそ30センチ・・・
次回、『黒き精霊と白き竜』