第十一話:決着
俺は、再び立ち上がった。
俺の周囲にオーロラが生まれ、俺の傷が一気に治癒する。
・・・だが、この状態が長く続くと、反動で体にダメージがある。
一瞬、先にエリシアに謝ろうかと思ったが、諦めた。
竜族の誓いは、破られることは決してないと言われる。
だから、エリシアは――――
俺は、勝たないといけない。
でも、俺は先ほど言ったことを撤回する気などない。
俺は、こちらに迫る<イクリプス>を見やり――――
オーロラを纏う<アウロラ>を軽く振って、消し飛ばした。
俺は、エリシアにむかって駆け出した。
エリシアは、油断無く剣を構え、魔力を集める。
『<エンシェント・ホーリーフレア!>』
『サンダー・ハリケーン!』
エリシアの手から、さっきまでとはケタ違いの威力の焔が放たれ、
俺は、自分の周囲に雷の竜巻をおこして、なんとか防ぐ。
が、すこし反動で後ろに戻され、砂煙で視界が悪くなる。
剣を振って、砂煙を吹き飛ばした俺は、再び接近しようと――――
エリシアの魔力が一気に輝きを増した。
――――来る、エリシアの全力が。
俺も、魔力を集め、迎撃する。
『天と空の境界より出でよ!煌け極光の障壁!<オーロラフィールド!>』
『天空にて輝くは創造の焔!ここに顕現せよ!<イミテーション・ノヴァ!>』
――――――――――――――――――――――――――――――――
私は、アルが好きだったから。
あれだけ痛めつけておいて、勝手な話だ。
アルは自分を過小評価しすぎてる。
まるで、自分が好かれるような人間じゃないと思ってるみたいだった。
何か、自分の弱さを悔いている?
アルは強いのに。
だから、私は誓約で自分を縛り、本気で戦う。
こんな私でも、竜の端くれなのだから、
私に勝ったら、アルも少しは自信を・・・・
・・・無理そうな気がするけど、
でも、このまま自分を認めないままだと、アルは幸せにはなれないかもしれない。
アルは頭もいいし、私のことも、家族として大切に思ってくれてるとは思う。
・・・たぶん。
もし私がいなくなって、アルが悲しんだら申し訳ないけれど・・・
アルなら、きっと同じ間違いはしない。
自分を救えなければ他人も救えないという言葉の意味も、きっと分かってくれる。
・・・アルが幸せになれる可能性があるなら、どんな可能性でも賭けるべきだと思った。
でも、今は少し後悔してる。
誓った以上は、私が勝ったらアルの前から去らないといけない。
それに、こんな恩知らずな私なんて、嫌われてしまうだろう。
アルがアル自身を認められないのが、すごく悲しくて。
思わず誓ってしまった。
・・・アルのことになると、私は間違いばかりだ。
――――――――――――――――――――――――――――
『天と空の境界より出でよ!煌け極光の障壁!<オーロラフィールド!>』
『天空にて輝くは創造の焔!ここに顕現せよ!<イミテーション・ノヴァ!>』
俺の周囲に、オーロラが出現し、
エリシアの手から、今までで最大の白き焔の球が放たれ――――
俺は、その中に無理やり突っ込んだ。
――――――――ドガァァァァァァン!
―――――カキィィィン!
俺の接近をエリシアが感知し、<エルディル>で迎撃したが、
俺は、<アウロラ>で受け止め、
<アイテール>をエリシアの首筋に触れそうで触れない感じに突きつけた。
「・・・私の負けです。負けた以上は勝者に従います。
好きに処分してください」
エリシアは、無表情で言った。
が、何かを恐れてるようにも見えた。
まぁ、俺が何を言うかは決まってるんだが。
「ごめんなエリシア。心配かけて。」
「・・・ア・・ル?」
「エリシアの言うとおりだよ。自分も救えないやつに他人は救えない。
ごめんな、辛い思いをさせて。
だからさ、もし良かったら、やり直しのチャンスをくれないかな?」
「・・・いいん・・・ですか?」
「ん?」
「私なんかが・・・アルと一緒にいてもいいんですか?」
「当たり前というか、こっちのセリフなんだが」
「―――――アルっ!」
「うおっとっと!?」
エリシアに抱きつかれて泣かれてしまった。
・・・ホントに悪いことをした。
多分、エリシアが俺を殺す気だったら、とっくに死んでた。
まぁ、本気ではあったから、かなり痛かったが・・・
「・・・というか、やけに静かだが・・・実況とかしてなかったか?」
俺の素朴な疑問に、ようやく泣き止んだエリシアが答えた。
「撹乱結界を張っているので、外からは私たちが睨み合ってるように見えます」
「・・・じゃあ試合どうする?」
「そうですね・・・じゃあ、合図で結界を解くので、適当に私の剣を弾いて下さい」
「おーけー」
「せーのっ」
――――――カキィィィン!
「な、なんということだーーー!?一瞬で決着がついたぞーーー!?
全く見えませんでした!が、勝者、アルネア・フォーラスブルグ!」
こうして、俺は個人戦、決勝に進出した。
・・・のだが。
「・・・・う、動けん」
俺は、宿屋の自室のベッドに横たわっていた。
オーロラ状態 (仮)の反動が洒落にならなかったのが原因だ。
エリシアの最後の術も半端じゃなかったし。
アレは、実は防ぎきれなかった。無理やり突っ切ったし。
正直、精霊憑依よりキツイかも・・・
今回は何度もダメージ受けて、無理やり回復したし・・・
・・・3日は起き上がれる気がしない。
個人戦が終わった後に、3日休息を入れるチーム戦はまだしも、
明日の個人戦決勝には絶対間に合わない。
「・・・どうしたものか」
―――――コンコン
・・・寝たふりをしておこう。
―――――ガチャ
「おい、俺は寝てるんだぞ!?」
「寝ているなら返事はないです」
エリシアが勝手に入って来た。
むぅ、エリシアに気を使わせるのもアレだし、動けないのは黙っておこう。
「・・・アル、ちょっとお邪魔します」
「おい!?」
エリシアが勝手に俺のベッドに侵入し、俺の上に乗っかってきた。
が、俺は動けないので、どかせない。
「・・・やっぱり動けないんですね」
エリシアは申し訳なさそうな顔で俺を見てきた。
「・・・まぁ、明日には治ると思うぞ?」
「嘘です。アルは嘘をつくと魔力が揺らぎます」
「なん・・・だと・・・!?」
「ごめんなさい、嘘です」
「・・・・」
「冗談はさておき、アル。竜族はその色によって性質と能力が異なります。
知っていますか?」
そう、竜の色は、その個性を表すのだ。ちゃんと意味がある。
「・・・赤が攻撃、緑が防御、黄が毒、青が速度だったか?」
「基本はそうです。では、白や黒の竜はどうなるか、わかりますか?」
「・・・最強?」
「違います。白は創造と再生、黒は破壊と呪いに特化します」
「へぇ~」
「そして、私は白竜です」
「・・・ひょっとして?」
「一応、治癒魔法では治せない、魔力やマナのダメージも治癒できます」
「・・・めちゃくちゃ強くない?」
「体内のマナを調整することで、怪我の治療を促進する方法なので、
基本的に自分以外にその効果を適用するのは困難です」
全然わからないのだが。
「・・・つまり?」
「裏技を使えば可能です。でも、アルが気絶してないとできません」
「・・・なにゆえ?」
「恥ず・・・気絶してないと、魔力が勝手に動いて面倒だからです」
「なるほど」
「・・・どうします?」
まぁ、回復してくれるのはすごくありがたい。
受けといたほうがいいだろう。
「じゃあ、お願いするよ」
「わかりました。でも、アル以外にするつもりは無いので、宣伝しないで下さいね?」
「・・・?ああ」
ケガがすごい治るなら便利だと思うんだが。
と、エリシアが何かに気づいた。
「・・・・アル、くさいです」
「あ~、試合終わってそのままダウンしたからな・・・
くさいとまずいの?」
「あたりま・・・臭いのは人としてアウトです。お風呂にいってください」
「・・・動けないんだが」
「背に腹は代えられません・・・」
「おい!?」
俺は、エリシアに風呂に連行された・・・
何があったかは語るまい。
で、そのあと魔法で気絶させられた。
色々おっしゃりたい事はあると思いますが、
アルの対応が甘い理由なんかも、そのうちやります。
あと、エリシア調子のんなとのご意見もいただきましたが、
人間じゃないエリシアに人間の価値基準はあてはまりません。
懐かしい<グリディア>を覚えてる方もいらっしゃると思いますが、
アレがドラゴン的な普通です。
展開がつまらないとのご意見もいただきましたが、これが現状の限界です。
見逃してください!
次回『王国の神童』